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"5類移行"で変わりゆくコロナとの闘い 今後のカギは「ハイリスク者対策」

今年5月8日、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染症法上の位置付けが「5類感染症」に移行した。
5類移行は医療提供体制や我々の暮らしに、どのような影響を及ぼすのだろうか。
東京都、そして日本におけるコロナとの闘いで大きな役割を担った尾﨑治夫東京都医師会長に、フリーアナウンサーの松本志のぶさんが話を聞いた。

手を尽くしたコロナ対策

東京都医師会 尾﨑治夫 会長
東京都八王子市出身。1977年順天堂大学医学部卒業。79年順天堂大学医学部循環器内科学講座に入局、同講座助手および講師を経て、90年におざき内科循環器科クリニックを開設。2015年に東京都医師会会長、16年には日本医師会理事に就任。

松本 東京都医師会によるこれまでのコロナ対策について、改めてお聞かせください。

尾﨑 日本で初めてコロナ感染が確認されたのは2020年1月でした。当時はどのような性質を持つウイルスなのか、詳しい情報はほとんど分かっていませんでしたが、どんなウイルスでもいえるのは「人と人が接しなければ感染しない」ということです。そこで私たちはまず不要不急の外出自粛、いわゆる「ステイホーム」の呼びかけを行いました。続いて取り組んだのは、検査体制の整備です。流行が始まった当初、国は検査を行う目安を「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続いたり、強い倦怠感けんたいかんや息苦しさがあるとき」としていましたが、検査を受けられる5日目までの間に重症化してしまうケースも見られました。そこで私たちはより早い段階で検査が受けられるよう、市区町村と協力して各地にPCRセンターを開設したのです。また、東京都の感染症指定医療機関の病床数は合計118床と圧倒的に不足していたため、各病院にお願いをして増床に努めました。しかし、感染拡大のスピードがあまりにも速く、いくら病床を増やしてもすぐに満床になってしまうため、ホテルなど民間宿泊施設に協力していただき、宿泊療養の環境を整えました。

松本 ワクチン接種については?

尾﨑 東京都医師会と東京都歯科医師会、東京都薬剤師会、東京都看護協会で構成される「東京ワクチンチーム」を結成し、東京商工会議所に所属する産業医がいない中小企業等に勤める方々を対象とするワクチン接種を実施しました。さらに、重い症状に苦しみながら自宅療養している方々をサポートするべく、ファストドクターや在宅専門の医療機関の協力も得て、地区医師会を中心とする医師による電話対応やオンライン診療・往診等を実施できる「自宅療養者向け医療支援システム」を構築しました。こうした取り組みも功を奏し、東京都ではコロナによって亡くなった方の数が全国平均を下回っています。

高齢者などの“ブロック”が急務

フリーアナウンサー 松本志のぶ さん
静岡県浜松市出身。上智大学外国語学部卒業後、日本テレビ入社。編成局アナウンス部に17年間所属し、バラエティ番組や朝の情報番組MC、スポーツ番組や昼のニュースのキャスターなどを担当。退社後はフリーアナウンサーとして、多方面で活動をしている。

松本 5類移行後、東京を中心とする首都圏の医療体制はどう変わりましたか?

尾﨑 発熱などの症状がある人を受け付ける医療機関の名称が「診療・検査医療機関」から「外来対応医療機関」に変わり、医療機関の数も若干増えました。医療費については全額公費負担ではなくなり、他の疾患と同じように自己負担が発生します。ただし急激な負担増が生じないよう、入院・外来の医療費の自己負担分にかかる一定の公費支援については、期限を区切って継続されます。

松本 開放的な雰囲気の広がりから感染者が増えるなど、懸念されることは?

尾﨑 感染者数については把握方法が「全数把握」から一部の医療機関による「定点把握」に変わりましたし、検査キット等による陽性者登録も終了しています。そのため、5類移行の前後における感染者数の増減を比較することは難しいのですが、中等症や重症で入院されている方の数は大きく増えていません。東京都では入院のための病床を合計4500床ほど確保していますが、そのうち利用されているのは1000床程度で推移しています。比較的、穏やかな状態であるといえるでしょう。
 一方、私がいま特に心配しているのは、高齢者や基礎疾患を持つ人などがコロナにかかり、重症化することです。そうした人の中には「ワクチンを打っても抗体ができない人が一定数いる」ということが、抗体検査による研究で明らかになっています。このような重症化リスクの高い方々をウイルスからブロックする方策を改めて検討し、講じることが急務だと考えています。

重症化リスクに応じたワクチン接種を

松本 コロナワクチンの効果などについて、どのように評価されていますか?

尾﨑 CDC(アメリカ疾病予防管理センター)をはじめ、国内外の様々な専門機関がワクチンの効果に関する評価を行っていますが、いずれも効果があるという結論を出していますし、私たちもそう考えています。もちろん、副反応について心配する声があることも理解しています。しかしコロナワクチンは、インフルエンザワクチンなど既存のワクチンに比べて桁違いに多くの方が接種を受けたということを考慮する必要があります。そして、非常に多くの方が重症化を免れ、命を救われたと考えられます。そうした事情を踏まえると、効果と安全性のバランスは妥当だと評価してよいのではないでしょうか。

松本 私たちは今後もワクチンを接種すべきでしょうか?

尾﨑 一般的に、ワクチンの効果は接種してから半年ほどでかなり低下します。しかし、若くて健康な人の場合、現在流行しているウイルスにかかっても重症化はしにくいですし、自然感染によって免疫を獲得する人も多いでしょう。そう考えると、1年に1度くらいの接種でよいのではないでしょうか。一方、高齢者や基礎疾患をお持ちの方については、やはり年に2回接種されるのがよいでしょう。

「不調時は休む」を当たり前に

松本 コロナに対応する医療のあり方は今後、どのようにあるべきだと考えますか?

尾﨑 基本的には、どの医療機関でも対応できるようになるのが理想的です。ただ、現在の医療現場の現実を見てみると、例えば内科の待合室には高齢者など、コロナの重症化リスクの高い方々がたくさんいらっしゃいます。こうした状況ではコロナ患者さんの診療を空間的に分けるか、時間帯で分けるか…といった工夫が必要になりますよね。ですから、各医療機関の事情に応じて、可能な範囲で対応するということになると思います。

松本 感染対策と、感染が疑われる場合に関するアドバイスをお願いします。

尾﨑 手洗い・うがいは今後も心がけていただきたいですし、換気の悪い屋内などでは引き続きマスクをされた方がよいでしょう。また、発熱やのどの痛み、せきなどコロナが疑われる症状があるときは、他の人にうつさないためにも、仕事や学校をできるだけ休んでください。休むためには周囲の理解や配慮も必要です。社会全体で改めて「コロナを拡大させない」という意識を共有していただきたいと思います。

(取材日2023年6月16日)