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【明治大学特別授業】心の悩み解決に向け無意識の葛藤に迫る

テーマ「心理療法における専門性」

 明治大学では、魅力的な大学の学びを伝える特別授業を、全国の高等学校で実施しています。5月13日には江戸川学園取手高等学校1年生に向けて、心理学をテーマにした授業を行いました。その模様を紹介します。

明治大学文学部教授・心理臨床センター長・博士(人間学)
伊藤 直樹
大学・大学院で講義を行うほか、明治大学駿河台キャンパスにある心理臨床センターで臨床心理士・公認心理師をめざす学生の指導を行っている。

心の悩み解決に向け無意識の葛藤に迫る

友だちの相談にどう答える?

 心理学は高校までにはない学問です。今日は心理学の中でも心理療法(カウンセリング)や、心理療法を行うカウンセラーについて、大学の講義をイメージしながらお話しします。

講師:伊藤 直樹 氏

 あなたは友だちから、“人前で話すのが苦手で…”と相談されたら、どう答えますか?例えば次のような答えはどうでしょう。

 “私も同じような悩みを持っていたけど、周りの人をカボチャと考えて話すようにしたら克服できた。自信を持って”

 この答えが正しくないというわけではないですが、カウンセラーの専門性からすると、このように答えることはほとんどありません。ここでは「自分も同じような悩みを持っている」といっていますが、相手を「自分と同じ」と思って対応する心理療法はうまくいきません。また、人は自分なりにいろいろと考えた末、解決しないから相談しているのに「カボチャと思え」といわれたら、悩みが軽んじられていると感じてしまうのではないでしょうか。

 では、専門のカウンセラーはどうするのでしょう。まず相談者の言葉を丁寧に受け止めるだけでなく、その背後の気持ちを考えようとします。悩みはその人固有のものと捉え、その個別性を大事にしながら対応します。安易な解決策には飛びつかず、悩みの解決に向けて相談者と一緒に考えるようにします。

落ち込んでいる人に「がんばれ」は禁物

 具体例を見てみましょう。

 “大事なプレゼンを前に元気のない若手社員Aさん。「自分には能力がない」と否定的な発言も目立つようになり、心配した上司に「生きていても仕方がない」と訴える。そのうち会社に行く時間になっても体が動かず、布団から出られなくなってしまう”

 ここで考えられるのは、うつ病か、それより少し軽い抑うつ状態です。うつの症状としては気分の落ち込み、自責感、焦燥感、集中力低下、意欲減退などがあります。うつは珍しいものではなく、生涯発生率が6.3%とする研究もあります。

 性格的には几帳面、真面目、責任感が強い人がなりやすいとされ、多くは大きなストレスが引き金になっています。Aさんの場合は仕事のプレッシャーです。中高生でも、試験のミスや友だち関係の不和といったことがきっかけで同じようなことが起こりえます。

 心理療法では、相談者の言葉の背後にある気持ちを、フィーリングで感じ取るのではなく、頭と心を使って考えます。家族関係や友人関係などについての話も丁寧に聞きます。その中で、どういう風に育ってきたのかが見えてくると、どうして気持ちが落ち込むのかがわかるようになります。そうすると、では、こう考えてみようといった対応策が生まれ、症状は改善していきます。ただ、そのためには時間がかかります。

 落ち込んでいる時は心の中にエネルギーがない状態であるといえます。そういう人に「がんばれ」といってはいけません。「ないものをもっと使え」というのと同じだからです。もちろん、失恋した時に友だちに「がんばろう」といわれて元気が出ることもあるでしょう。ただ、その場合は、友だちが親身に話を聞いてくれたことが力になっているのです。

自分では探れない「無意識」の領域

 フロイトが創始した精神分析という学問があります。心理療法に大きな影響を与えている考え方です。精神分析では様々な症状があらわれるメカニズムを次のように考えます。

症状があらわれるメカニズム

 心の中には意識と無意識がある。無意識は心の中を探っても感じることができない領域ですが、「ある」と考えた方が心を理解しやすい。心は目に見えないので理論的にその仕組みを考えるのです。

 その無意識に葛藤がある。無意識にあるうちは葛藤を意識しませんが、意識にのぼってくる時がある。それは本人にとってはつらいことなので抑圧という心を守る機能が働きます。それでも意識にのぼってこようとするとエネルギーがあふれ、症状が形成されます。

 無意識にある葛藤は自分自身では理解できません。心理療法は、その葛藤を意識にのぼってくるように導くことで、症状を解消することともいえます。これを無意識の意識化といいます。

 そのための方法には話をすること以外にも様々なものがあります。遊びを通した方法や、絵を描く方法、砂箱にミニチュアを置いていく方法などです。無意識を表しているものと捉え、夢を分析する方法もあります。こうした方法により、無意識にある葛藤を明らかにしていくのが心理療法の専門性です。

カウンセラーと精神科医の違い

 心を扱う仕事には、カウンセラーのほかに精神科医があります。カウンセラーは精神科医と違い投薬はできません。また、うつ病かもしれないと伝えることはできますが、診断はできません。一方、診察時間が比較的短い精神科医と異なり、1回50分ほどかけて丁寧に話を聞くことができます。専門性は異なりますが、両方必要な仕事です。

 臨床心理士か公認心理師、いずれかの資格を取得するのが、カウンセラーになる代表的な方法です。その試験を受けるためには、必要なカリキュラムを備えた大学・大学院などを修了する必要があります。一方、精神科医は医学部を卒業して医師国家試験に合格しなくてはなりません。

 明治大学には心理療法を行う「心理臨床センター」と、精神科医が診療を行う「子どものこころクリニック」があります。心理臨床センターでは、大学院生が研修を兼ねて、相談者の同意を得たうえで実際に心理療法を行っています。

 心理療法は自分には関係ないと思う方もいるかもしれませんが、人生には様々な危機があり、自分だけの力では乗り越えられないこともあるでしょう。その際に人に相談することで危機を解決できることもあります。

 論理的な合理性や整合性だけでは構成されていない心の中を表現するのは難しいことですが、カウンセラーは相談者に寄り添いながら丁寧に話を聞きます。悩みを抱えた時は早めに相談してもらえればと思います。

江戸川学園取手中・高等学校
1978年創立の小中高一貫校。高校には医科コース、東大コース、難関大コースがあり、県内有数の大学進学実績を誇る。この日の特別授業は高校1年生約450人が受講した。

STUDENT’S VOICES〜授業を受けた生徒に感想を聞きました〜

大学の授業の印象が変わった
心理学は心が病気の人を健康にする学問と捉えていましたが、いろいろな場面で役に立つことがわかりました。大学の授業は退屈で難しいイメ―ジでしたが、今日の講義は身近なことを扱っていて、けっこうおもしろいなと思いました。(K.M.さん)

興味深い授業、進学が楽しみに
日頃から臨床心理士の先生にお世話になっていて、自分も将来、臨床心理士になりたいと思っています。そのための知識を学ぶことができ、ますますその気持ちが強くなりました。大学の授業がおもしろそうで、進学するのが楽しみです。(M.N.さん)

失恋した友人に寄り添えたら
落ち込んでいる人との関わり方を学ぶことができました。元気がない人に「がんばれ」といってはいけないと初めて知りました。失恋して落ち込んでいる友だちがいたら、いろいろなことを考えながら話を聞けたらいいなと思いました。(H.Y.さん)

将来の夢に心理学生かしたい
友だちから相談を受けた時に安易に励ましの言葉を並べてはいけないと知りました。将来ゲームプランナーになりたいと思っています。ゲームの企画や制作は、仲間との共同作業がキーポイントですが、そういう時に今日学んだことを生かせそうだなと感じました。(S.K.さん)