資産運用の手段として注目されてきた「金」と「仮想通貨」。しかし、仮想通貨の脆弱性が露わになる一方で、金は安全資産としての強さを見せています。スイス銀行で国際金融業務に従事した経験を持つ経済アナリスト・豊島逸夫さんに最新の情勢を聞きました。
仮想通貨業界のリーマンショック発生
ビットコインに代表される仮想通貨(暗号資産)は、「デジタル・ゴールド」とも呼ばれ、近年は、なにかと金と比較されてきました。
当初は金価格を大きく下回る水準だったのですが、すぐに追い付き、追い越し、ついには6万ドルを超えました。「これからは仮想通貨の時代だ。金は古い」「将来のインフレ・ヘッジはビットコイン」とも言われました。
しかし、2022年11月に、その仮想通貨の「メルトダウン」が勃発。ビットコイン価格も高値の約1/3まで暴落しました。未だ歴史が極めて浅い仮想通貨の脆弱性が露わになる「仮想通貨業界のリーマンショック」が起こったからです。世界最大級の仮想通貨取引所FTXを運営する企業が、実は、顧客から集めた巨額のマネーを流用して、自らベンチャー企業などへ出資していたことが発覚。顧客マネーをバハマ籍の関連会社に付け替えていたので、おカネの流れは米国金融当局も全く把握出来ていませんでした。主犯は取引所を設立したサム・バンクマン・フリード氏(略称SBF)。30歳の若さで仮想通貨業界のリーダー格となり、経営不振に陥った中小の仮想通貨関連企業の救済役も演じてきました。いっぽうで、世界最大級の資産運用会社ブラックロック、カナダの年金基金、シンガポールの政府系ファンド、そしてソフトバンクなどもFTXに出資。プロ中のプロたちが、この若者にアッサリ手玉に取られていたのです。
経営悪化で提訴されたFTX
かくして有力機関のお墨付きを得たFTXの経営が急速に悪化する転機となったのが、米国ゼロ金利解除、そして、米国量的緩和終了。おカネがタダ同然で借りることが出来て、世界中にマネーが溢れる「カネ余り」の時代に安易な経営で一躍「時代の人気者」となったFTXを取り巻く経済環境が急変しました。ドル金利は10か月でゼロから4%水準に急上昇。中央銀行がばら撒いた、じゃぶじゃぶのマネーの回収が始まるや、一気にFTX社の財務には不安説が流れました。仮想通貨価格は暴落。FTXは遂に破綻。世界中(含む日本)に130以上存在する関連会社はどうなるのか。危機感を強める世界中の投資家たちが、「カネ返せ」と取り付け騒動を引き起こしたのです。「責任を取れ」とFTX社を提訴する動きも顕在化。
その提訴された人物のなかには、FTX社の「広告塔」であった某有名アスリートも含まれていたのです。日本人投資家もかなりのマネーをFTX社に入れていました。しかし、本社がバハマ籍で、倒産しているので、金融庁も、まずは実態の解明を急ぐと語るのみで、有効な解決策を模索している状況です。FTX破綻の影響は他の中小通貨取引会社にも伝染。既に仮想通貨市場から円換算で20兆円を超すマネーが消失しました。
再評価される金
このような劇的な破綻劇を見せつけられ、投資家は「やっぱりビットコインより金のほうがはるかに安全資産だ」と考えるようになっています。金の価値は古代エジプトのツタンカーメンの時代から「時代を超えて」認知されてきた歴史があります。世界中の投資家が、その有り難みを、苦い体験を経て、シミジミと感じているのです。
昨今の日々のNY金市場は、米国の利上げの幅が0.5%か0.75%か、などの観測記事に揺れています。しかし、底流としては、仮想通貨から金へ回帰するマネーが絶えないことに注目すべきでしょう。
※金は、元本保証ではありません。相場の変動により売却時に購入価格を下回る場合もあります。