北陸新幹線開業に沸く福井で、いざ七番勝負!!
将棋の最高位タイトルである竜王戦七番勝負の対局地に、北陸新幹線開業に沸く福井県が初めて選ばれ、10月19日、20日の2日間、あわら温泉で開催されます。戦国時代の将棋の駒「朝倉駒」が発見された福井市にある福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館で、福井県の杉本達治知事と棋士の羽生善治九段、女流棋士の山田久美女流四段が将棋と福井の魅力をたっぷり語り合いました。
北陸新幹線開業!福井と関東がグッと身近に
羽生 初めて北陸新幹線で福井に来て、時間が短縮された上に乗り換えもないことから、距離が近くなったことを実感しました。お天気も良く、景色を眺めているうちに着いて快適な旅でした。
山田 3時間ほどというのは、休憩を取ったりお弁当を食べたりして過ごすのにちょうどいい時間ですね。20年前、実家の群馬から福井に行っていた時は日本海側を回って6時間ほどかかっていたので、「福井ってこんなに近かったんだ」と驚きました。
杉本 北陸新幹線の開業で福井と関東圏は大変近くなりました。より多くの方にお越しいただけるよう、福井の魅力を積極的に発信しているところです。
羽生 福井を初めて訪れたのは2007年、第48期王位戦の対局があわら温泉で開かれた時です。歴史のある落ち着いた風情で、対局にふさわしい雰囲気だったのが印象に残っています。15年には子どもたちへの多面指し指導対局で福井市に行き、地元の書家の先生とも対談するなど、福井の人たちと直接交流を楽しめました。
山田 私は04年から09年まで、「福井春まつり」で行われる将棋のイベントに毎年呼んでいただいていました。刀を差した武将装束で将棋を指せるのがすごく楽しみで、一乗谷にも、この博物館ができる前、お茶会に参加させていただきました。
戦国武将も熱中?奇跡の発見「朝倉駒」
杉本 一乗谷は戦国大名・朝倉氏の城下町で、1573年に焼き打ちに遭ってからは土に埋もれて忘れ去られていました。それが今から50年以上前に発掘調査が始まり、1973年、朝倉館跡の外濠から「酔象」という駒を含む174枚の将棋の駒が見つかったのです。館に馬を引いてきた人たちが集まる厩に近く、そこで人々が将棋を楽しんでいたのではないかなと想像しています。
羽生 「角」が12枚あったとのことなので最低でも6組はあり、それだけたくさん将棋を指す人がいたのでしょうね。先ほど酔象駒の実物を拝見しましたが、形が残っていたことはもちろん、その木片が価値のあるものだと気付いて残してくださったことが同じぐらい重要なことで、二重の意味で非常に価値のあるものだと感じました。
山田 土に還ることなく五角形のまま駒が残り、それを発見した方がいて、何が書かれているのか詳しく調べようと思った方がいた。皆さんのお気持ちが全て重なって、奇跡のようにこうして残っているのですね。
杉本 出土した駒は「朝倉駒」として重要文化財に指定されています。県将棋連盟では酔象を加えた将棋を「朝倉象棋」と名付け、普及に努めています。山田さんは2003年に当時の県将棋連盟理事長から朝倉象棋を紹介されたそうですね。
羽生 「将棋」の「将」はもともと「象」でもあり、酔象は将棋の原点からある駒です。将棋の歴史は不明な部分が多いのですが、朝倉象棋のように、地域ごとにいろいろな将棋が指されていけば全体的な将棋の歴史が見えてきて、同時に日本の伝統の奥深さや多様性も感じられるのではないかなと思っています。将棋は盤と駒があれば手軽に指せ、世代を超えて交流できるのが魅力。娯楽として生活の中にしっかり根付いているからこそ、これほど長く親しまれているのだと思います。
竜王戦の歴史に福井が刻む新たな1ページ
杉本 かつての羽生七冠、そして現在は藤井聡太八冠の誕生で、世間は大きく沸きました。将棋には社会全体を盛り上げる力があり、その最高峰のタイトルである竜王戦を、新幹線が開業した年に福井で開催していただけるのは非常に光栄です。
羽生 竜王戦はアマチュアの人や女流棋士も参加できるオープンなタイトル戦でもあります。全国各地を転戦するので、開催地の魅力を知ってもらうきっかけにもなると考えています。将棋を見て楽しむ「観る将」、対局や関連イベントに参加しながらその場所の観光を楽しむ「旅将」というファンの方々にとっても、福井での開催は待ち望まれていたものだと思います。
山田 藤井竜王がファンをいっぱい連れてきてくれるのではと期待しています。対局場所はあわら温泉なので、観る将、旅将の方たちにも温泉を楽しんでいただき、一乗谷にも来て将棋の歴史に触れてもらえるといいですね。福井県の皆さんも楽しみにしてほしいなと思います。
杉本 福井には一乗谷朝倉氏遺跡や恐竜博物館、東尋坊、永平寺、さらに7万年分の地層が積み上がった水月湖の「年縞」など、唯一無二のものが数多くあります。1500年の歴史のある越前和紙や越前漆器など、伝統工芸においても本物の宝庫であり、それらにも触れていただければと期待しています。
山田 私は対局のことをよく料理に例えるんです。対局という最高の食材があり、それを上手に伝える料理人が解説者。そこにいいタイミングでスパイスを利かせる聞き手が女流棋士です。福井県での対局は間違いなく素晴らしい内容になると思うので期待していてください。
杉本 今回、竜王戦にも一つの新しい歴史のページが開かれます。竜王戦を楽しみに来られる方に福井の魅力も知っていただき、記憶にとどめてもらいたいと思います。今日はありがとうございました。
① 北陸新幹線 福井・敦賀開業!
北陸新幹線の金沢―敦賀駅間が2024年3月16日に開業し、東京と福井は乗り換えなしで結ばれました。これまで最速でも3時間24分かかった東京―福井駅間は、最短で2時間51分と30分以上の短縮。東京―敦賀駅間も3時間8分で到着します。延伸開業に合わせ、福井県内には芦原温泉駅、福井駅、越前たけふ駅、敦賀駅の4駅が新設されました。新規開業区間を走る列車は「かがやき」「はくたか」「つるぎ」の3種類。うち東京―敦賀駅間は「かがやき」が1日9往復、「はくたか」が同5往復運行されます。
② 福井に伝わる将棋 朝倉将(象)棋とは?
通常の40枚に「酔象」という駒を加え、計42枚で行う将棋です。1973年(昭和48年)に一乗谷朝倉氏遺跡で「酔象」の駒が出土したことから、福井県将棋連盟が「酔象」を使った古将棋の一つを「朝倉象棋」として復興、普及させてきました。酔象は真後ろ以外に動くことができ、成ると「太子」となって全方向に移動できるようになる強力な駒。成駒になれば王将と同じ価値を持ち、盤上にあれば王将を取られても負けになりません。駒は朝倉館跡北側の濠跡から見つかり、同じ地層から出た付け札に年号が書かれていたことから永禄年間(1558~70)のものとみられます。ヒノキを薄く割った板で五角形の駒形に作られ、墨書きと彫り駒があり、駒には進行方向を示す墨線も確認できます。
③ 福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館
5代100余年にわたり越前の国を治めた戦国大名・朝倉氏の歴史や、その城下町・一乗谷を紹介する博物館。戦国時代の城下町全体が遺跡となって残る福井市の一乗谷朝倉氏遺跡(国特別史跡)へのゲートウェイとして、陶磁器類、石製品、金属製品などの出土品を展示しています。5代当主の朝倉義景が暮らした朝倉館の一部を原寸で再現しているほか、流通拠点・川湊「一乗の入江」の一角とも考えられる石敷遺構の露出展示、往時の城下町の風景を30分の1スケールで再現したジオラマなど、見どころいっぱいです。