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アクアリウムと古代エジプト文明の融合

エジプト考古学者、吉村作治氏のエジプト遺跡発掘60周年を記念した「古代エジプト文明展」が神戸の劇場型アクアリウム「átoa(アトア)」で開催されています。幻想的な雰囲気の中、希少な展示が並ぶ本展の魅力について、吉村作治氏と本展の楽曲を提供した石井竜也氏、アトアの中山寛美館長が語り合いました。

幻想的な古代エジプトにタイムスリップ

アーティスト 石井竜也氏
(いしい・たつや)1959年生まれ。米米CLUBとしての活動を経て、映画監督・オブジェ創作・空間プロデュースなど音楽活動を軸にソロアーティストとして活躍中。昨年、米米CLUB結成40周年、ソロデビュー25周年を迎え、今年6月からは、米米CLUBのコンサートツアーを予定。

石井
アトアは、水族館という概念を飛び越えた面白い場所ですね。特に巨大な球体水槽には、びっくりしました。

中山
あの水槽は、直径3mで国内最大級です。アクアリウムとアートが融合したアトアは、テーマ別に八つのゾーンに分かれていて、いずれも「現実にはないイメージで創りあげた空間」で構成されています。どのゾーンも幻想的な空間演出で、鑑賞するだけではなく、その世界観に没入できる楽しさがあります。今回の古代エジプト文明展は、宇宙をイメージした「PLANETS」で開催します。

石井
感情を喚起させて空間を満たす音楽も演出の一つ。僕は中東音楽も好きで、実は発表することなく、作りためていたんです。だから、吉村先生のお誘いは本当にうれしかったです。

吉村
音楽も主役にしたかったから、今回は絶対に石井さんだなと。石井さんの音楽を聴きながら、クフ王の「第二の太陽の船」をご覧なさい。船を作っている人々の様子が目に浮かんでくるから。

球体水槽「AQUA TERRA」とピラミッド模型が幻想的な空間を演出する

考古学は “イマジネーション” 古代の物語を紡ぐ

考古学者 吉村 作治氏
(よしむら・さくじ)東日本国際大学総長、早稲田大学名誉教授(工学博士)。1943年生まれ。アジア初エジプト調査隊を組織し約半世紀にわたり発掘調査を継続、最先端技術を駆使した調査により多くの成果を上げる。エジプト考古学、比較文明学ほか、近年は日本の祭り、eラーニング教育の研究も。

吉村
考古学者は“物”に興味があると思われがちだけれど、違います。考古学は“イマジネーション”。発掘品や建造物の背景にどんな人物がいて、どんな社会があり、どんな時代の空気が流れていたのか、それを想像する。すると、このあたりにはこんな物が埋まっているのではと勘が働く。だから、発掘する時には確かなイメージがある。

石井
いかに当時の人物になって物語を紡げるか。吉村先生は、その物語に足りない物を探し出す。物語というと、夢見がちに聞こえるかもしれないけれど、そこは考古学者の仮説であり、考古学者の勘。僕たちの勘とは違う。

中山
「第二の船」もそんなふうに発見されたんですか。

吉村
そう、勘(笑)。まず、「第一の船」はピラミッドの東側から発見された。だから、発見者であるエジプト考古局の人に会った時、僕は「シンメトリーが好きな古代エジプト人なら、必ず西側にもあるはず」と言ってね。そしたら、1987年、電磁波レーダーを使った調査で木材が埋まっているのを確認した。

中山
すごい、それで本当に5000年前のものが見つかった。

石井
ロマンだよね。吉村先生は、電磁波レーダーや衛星など最新技術を取り入れた発掘手法でも注目を集めたけれど、僕は、吉村先生も、その申し出に損得勘定なしに賛同した科学者たちも、みんなロマンに突き動かされたんだろうなと思うんです。だからこそ、様々な勉強をし、研究する。学問って、本来そういうものじゃないのかな。

黄金の玉座や厨子などの模型が並ぶ

学問は楽しいもの 見て感じたものを大切にしてほしい

アトア館長 中山 寛美氏
(なかやま・ひろみ)átoa館長。1999年より神戸市立須磨海浜水族園にてイルカトレーナーとして勤務した後、海水魚担当、海獣担当など飼育員として従事。その後同園広報業務を経て2020年より四国水族館(香川県宇多津町)の広報支援業務、átoa開業準備などに携わる。21年10月より現職。

中山
新しい水族館として設立されたアトアも、生物学的な知識にこだわらず、まず目の前の生きものに感覚的に興味を持ってもらいたいという思いがあります。「この魚は美しいな」「面白い動きだな」というふうに。

吉村
発掘品も同じです。見て感じてくれればいい。

中山
考古学って難しそうなので、そう聞くとちょっとホッとします(笑)。飼育員の私たちは、よく「人間の価値観で生きものを見てはいけない」と言われるんです。きっと考古学も現代の私たちの価値観ではなく、当時の人に思いをはせることが大事なんでしょうね。

石井
現代人は、古代人は文明的に劣っていると考えがちだけど、決してそんなことはないしね。

吉村
その通りです。

石井
幻想的なアクアリウムで古代エジプト文明展というのも、アトランティスのようでいいですよね。子どもたちが考古学に夢を持ってくれるといいなぁ。

吉村
「文明の卵」という展示には、これからを生きる皆さんに僕からメッセージを寄せました。そこは圧倒的な映像と石井さんの素晴らしい音楽が重なり、とても感動的な空間となっています。多くの方に見ていただけたら。

石井
「文明の卵」は、僕らも涙したほど。ぜひ期待してください。


第二の太陽の船(模型)
「文明の卵」

アクアリウムとアートが融合した 神戸の港の劇場型アクアリウム átoa(アトア)

2021年10月に神戸市のウォーターフロントエリアにオープンした都市型水族館。水族館とアートの融合をコンセプトとする。

舞台美術やデジタルアートを施した幻想的な空間には60基ほどの水槽が並び、約100種類の生きものを観察できる。

館内は趣きの異なる八つのゾーンに分かれ、その非日常的な演出空間を五感で味わえるのも魅力。子どもから大人まで、楽しみながら知的好奇心が刺激される新感覚の水族館となっている。