広告 企画・制作:読売新聞社広告局

阿蘇を世界文化遺産に地球と人類の未来にメッセージを~東京で登録目指すシンポジウム~

主催 阿蘇世界文化遺産登録推進協議会(熊本県・阿蘇市・南小国町・小国町・産山村・高森町・南阿蘇村・西原村)

 阿蘇の世界文化遺産登録を目指すシンポジウム「阿蘇世界文化遺産登録推進東京シンポジウム」が11月3日、東京都千代田区の全国町村会館ホールで開かれた。熊本県と阿蘇市など7市町村でつくる阿蘇世界文化遺産登録推進協議会が主催。同協議会では、まず国が選定する世界遺産暫定一覧表入りを目指している。約200人が会場に詰めかけ、筑波大の稲葉信子名誉教授らが世界遺産選考や阿蘇の価値について講演、パネルディスカッションも行われた。

主催者挨拶<ビデオメッセージ>

熊本県知事 蒲島郁夫

 阿蘇が目指す文化遺産としての価値は、1000年にわたる野焼きや放牧など、人の生業(なりわい)が作り上げた美しい草原や田畑が広がる文化的景観です。これは、かつて日本各地で行われていた循環型農業を、今なおとどめる大変貴重なものです。
 このため阿蘇では、公共事業を行う際には関係各所と連携して景観保護に取り組んでいます。また、学校教育で子どもたちが阿蘇の価値を学ぶ機会を設けています。九州経済界で構成する阿蘇世界文化遺産登録推進九州会議においても、シンポジウムを開催していただくなど、強力に応援していただいています。
 現在、阿蘇は、国内の世界遺産候補である暫定一覧表入り一歩手前のカテゴリーⅠaに位置しており、大変重要な局面を迎えています。私が若い頃に描いた夢の一つが、阿蘇で牧場主になることであり、そのため、阿蘇の美しい景観を守ることには私自身強い思いがあります。今後も世界文化遺産登録に向けて、先頭に立って全力で取り組んでまいります。

 

【基調講演】世界から見た阿蘇の価値について

筑波大学名誉教授、国際機関ICCROM(文化財保存修復研究国際センター)事務局長特別アドバイザー 稲葉信子氏

世界が求める「文化」と「自然」の間 連携し縦割りの排除を

 ピラミッドやベルサイユ宮殿など壮麗なものではなく、人の手が入った草地、草原が世界遺産になっていいの?と疑問に思う方がいるかもしれません。答えは「イエス」です。

 自然遺産と文化遺産のどちらでも当てはまるものが今、世界遺産で求められています。文化遺産という枠組みで推薦をすることになるかもしれませんが、今世界が求めているのは、ちょうどその間。そこに阿蘇は当てはまるかと思います。

 世界遺産の審査は1978年に始まりました。80年代に入ると、自然と文化の境界領域の議論が始まり、84年にフランスの代表が「東南アジアの棚田、地中海の段々畑など類いまれな調和が取れて、人が手を加えてきた自然を評価すべき」と発言したのをきっかけに、90年代初めに二つの大きな施策の導入が行われました。
一つは92年の文化的景観という遺産概念の導入です。もう一つは94年のグローバルストラテジーという政策指針の採択です。生きている文化、伝統的な文化を世界遺産に増やさなければいけないというのが一つの方針になりました。

 先週、阿蘇に外国人専門家を招いて意見を求めました。阿蘇の景観を眺めて、最初に出た言葉が「ワオ!」でした。その専門家は「人と自然の共生、土地と生きてきた人の営みの歴史に価値がある。全体に価値があり、都市化が進んでいるカルデラ床の一部を外すと一体性が失われる。過度な都市化をコントロールし、今あるものを残していくことが必要」と言いました。草地、森林、集落、田畑とそこで循環する土地や水管理のシステム全体に、人が自然と生きてきた知恵が詰まっているのです。今、阿蘇の推薦に必要なのは、現在の価値のある土地利用を維持し、持続可能な社会づくりに必要な仕組みをつくるための関係者の連携、縦割りの排除です。

 世界遺産委員会のガイドラインで定義される「顕著な普遍的価値」とは時代の要請、人の理解の変化に応じて進化していくものです。阿蘇がしなければいけないことは、地球と人類の未来に対するメッセージです。阿蘇の人たちが、与えられた課題にどう答え、解決したのか。世界の人が学ぶところがあるはずです。それを探していくのが、阿蘇を世界遺産にする大切なプロセスなのです。


【講演1】阿蘇の文化的景観と世界文化遺産

北海道大学観光学高等研究センター教授 西山徳明氏

阿蘇の価値はカルデラの一大景観

 今、活発に活動しているハワイのキラウエア火山の1万年後の姿を阿蘇と考えますと、阿蘇はカルデラ壁上が非常に緑豊かな草地になっています。これが長年かけて人間が出したレスポンス(答え)なのです。

 マグマが噴出し終わってできるカルデラ壁はやがて崖錐(がいすい=砂利の斜面)になります。崖錐は水を吸い込みやすくて崩れやすい。加えて、耕すのも難しいから、森にして守ってゆく。その上に草地を作ってきた。さらに、目の前の広い平たい土地で米を作りたいと考えたけれど、酸性土で農耕に適していない。そこで牛馬を草地に連れて行って草を食べさせ、牛馬の糞尿を草と混ぜて、肥料としてまく。そうした土地改良を1000年以上かけて行い、水田ができる土地を獲得しました。
草地と森林、集落、田畑は全て阿蘇の人たちが生きるために必要な4点セットなのです。阿蘇カルデラの中には約100の農業集落があって、ほとんど4点セットを持ち、大景観を作っています。このストーリーを人に伝えたいのです。

 水は様々な場所で噴き出し、人は農業のため、洪水を引き起こさないよう、治水と用水のシステムを作り出しました。さらに独特の信仰形態や伝承、豊作を祈る慣習も残っています。

 「世界遺産になると規制がかかり、保護させられる、犠牲になる」という発想に陥れば、対立を生み出します。そうではなく、世界に示したい大切な価値をみんなが共有して、自分たちには何ができるだろうかと考えていくことが大事だと思います。

【講演2】阿蘇の草原の価値について

全国草原再生ネットワーク代表理事 高橋佳孝氏

草原は自然と人が織りなす「共創資産」

 草原は植生遷移の初期の段階で、自然と森林になるのですが、草原のままとどまっているのが阿蘇の特徴です。
牛は夏に放牧されて、冬場は牛舎に移る。堆肥は田畑に還元されて、生産された稲わらは牛に食べさせる。牛は田畑を耕し、終わるとまた放牧される。集落の上には崩壊を防ぐ森林があり、至るところで水源がある。このように、草原が地域を巡る循環型の仕組みは、世界に類を見ません。自然と人が織りなす「共創資産」と私たちは呼んでいます。

 近年、草原の水源涵養力が非常に高いことが明らかになりました。阿蘇は九州北部の6大河川の源流域になっており、福岡市を含め約500万人の人々の暮らしを潤しています。炭素固定機能も注目されています。草小積みや草泊まりという「草原文化」と言われるものもあります。草原には希少生物もたくさんいます。観光資源として、阿蘇市は「世界の持続可能な観光地」トップ100にも選ばれています。

 その阿蘇の草原面積は減り続け、危機的状況です。原因は農家の高齢化と担い手不足です。家畜を飼っている農家数も、放牧頭数も減っています。

 危機的状況を脱するために、1998年ごろから、野焼きなどの支援ボランティアが始まりました。学校のカリキュラムにも草原に触れる機会を設けています。

 それでも、草原の維持は難しい。アンケート調査によると30年後に4割ぐらいしか残らない。今、草原保全に頑張っている人たちが利益を得られる生態系サービス支払(PES)の仕組みづくりを急がなければいけません。


【パネルディスカッション】阿蘇はなぜ世界文化遺産を目指すのか

パネリスト

文化庁 主任文化財調査官 西和彦氏
阿蘇草原再生千年委員会委員長 坂本正氏
西山徳明氏
稲葉信子氏

コーディネーター
高橋佳孝氏
パネルディスカッションは、稲葉氏と西山氏、阿蘇草原再生千年委員会委員長の坂本正氏、文化庁主任文化財調査官の西和彦氏がパネリストを、高橋氏がコーディネーターを務めました。

世界の利益、人類の教科書に 稲葉氏

高橋 なぜ世界遺産を目指すか?ご意見をいただけたらと思います。

稲葉 世界にこのような文化や自然があることを知るのは世界の利益になります。世界遺産は、地球と80億になろうとしている人類の教科書です。

西山 「世界遺産リストは危機遺産リスト」とも言われますかつて。エジプトでダム建設により神殿が沈んでしまうという問題が起きました。世界遺産条約が作られた契機ですが、救うべきものを早めにリストにしておこうと始まったのです。

坂本 恩恵を受けている都市の住民が野焼きに参加をするということで、交流を図るのが千年委員会の理念です。今まで1000年続けてきた野焼きを今後1000年続けていくためにはどうするか?財源をどう維持するか?世界文化遺産登録という形でその決意を明らかにすることが必要なのです。

西 世界遺産のルールを満たせば登録されるということではない。むしろ世界遺産をなぜ目指すのか?世界遺産として阿蘇がなぜ大事なのか?と言うことをとことん考えると、何が必要か、なぜ目指すのかが見えてくると思います。

「『九州の宝』を九州全体で支援」 坂本氏

稲葉 草原が30年後に4割となるのは困ります。現状を維持していくためにどうしたら良いかを考えていただきたい。省庁の壁を取り払うのは地元しかない。力を合わせていただきたい。

西山 富士山と違って、阿蘇は人が住んでないと意味がない。自分たちが価値を見出し、どうしていくかを考えていくものです。多くの方に理解していただいて、一緒に考えていくということが、阿蘇を世界遺産にできるかどうかの課題です。

坂本 阿蘇の観光は九州の観光の柱です。「九州の宝」です。「阿蘇は九州にとっても誇りだ」と福岡の経済界でも言われています。この登録推進九州会議が九州全域に広がるよう運動しています。

西 現在、日本の暫定一覧表の決め方について見直し作業を進めています。加えて、世界遺産も、そのルールがかなり変わりつつあります。

「世界遺産の理想と合致を」 西氏

高橋 登録に向けてエールを。

西 自分たちの将来を自分たちで決めていくのだという姿勢は世界遺産の場でも強く求められます。自分たちで考えることは簡単ではないですが、世界遺産の理想とされている考え方には合致すると思います。

西山 阿蘇の皆さんが営々と築き上げてきた景観そのものに価値があることを、理解しあわなければいけません。一人一人が取り組むことはさほど大変ではありませんが、意識をそろえなければできません。

坂本 経済界、市町村、県も含めて、草原を守るための新たな経済システムを考えて欲しい。

高橋 本日、たくさん集まっていただいたことに非常に感動しております。今回は阿蘇の価値を知っていただくことが大事で、何ができるかを考えるのが目的の一つです。

各分野から集まった識者のディスカッションに聞き入る聴講者

阿蘇とは

阿蘇は、九州のほぼ中心部、熊本県に位置する阿蘇五岳を含む地域で、南北約25㎞、東西約18㎞という世界最大級のカルデラを有しています。実は「阿蘇山」という単体の山は無く、根子岳(ねこだけ)、高岳(たかだけ)、中岳(なかだけ)烏帽子岳(えぼしだけ)、杵島岳(きしまだけ)などを総称した呼称で、5つの岳を総称して阿蘇五岳と呼びます。

カルデラとカルデラの地形

火山の中にある円形またはそれに近い広くて大きな窪地のこと。阿蘇カルデラは、約27万年前に始まった火山活動から、約9万年前までに4回の大規模な噴火を繰り返したことで形成されました。カルデラ内は中央火口丘により南北に分けられ、北半分を阿蘇谷、南半分を南郷谷と読んでおり約6万人が居住しています。

外輪山:カルデラの縁にあたる産地のこと
カルデラ壁:カルデラを取り囲む外輪山内側の急斜面のこと
カルデラ床(しょう):カルデラ内に広がる低地のこと
中央火口丘:カルデラ形成後にその内側に生まれた火山のこと。阿蘇五岳のひとつである中岳は、現在も噴火活動を繰り返しています

ボランティアによる野焼きの様子(提供:阿蘇グリーンストック)