日本有数のキリスト教系学校として知られる青山学院が、今年創立150周年を迎えることを記念して、同じく創立150周年を迎えた立教学院とともに、7月6日に有楽町よみうりホールでトークイベントを行いました。理事長と院長の話のほか、大学陸上競技部監督・原晋氏らによる大学駅伝をテーマにしたトークセッションの模様をお届けします。
記念の年に華を添える活躍
青山学院は今年、創立150周年を迎えますが、この記念の年に華を添えるできごとがありました。正月の箱根駅伝に大会新記録で優勝したことと、6月の全日本大学野球選手権で2連覇を達成したことです。この後、関係者の皆さんがどういう話をされるか楽しみです。限られた時間ですが、皆様ゆっくりお過ごしください。
社会や人のために、サーバント・リーダーを育てる
関東大震災の被災者を保護
青山学院はアメリカのメソジスト監督教会から派遣された3人の宣教師が創設した3つの学校を源流とします。150年前、宣教師が命がけで海を渡って日本にやってきたことに感謝するとともに、私たちの使命を確認する時としたいと思います。
現在青山学院は、関東大震災と東京大空襲をくぐりぬけた青山キャンパスのほかに相模原キャンパスを持ちます。青山キャンパスには幼稚園、初等部、中等部、高等部のほか、大学11学部中7つの学部があり、相模原キャンパスには大学の4学部があります。
関東大震災の時、青山キャンパスの被災をまぬかれた建物に孤児や迷子を保護したという記録が残っていますが、これをターニングポイントと考えています。我々の使命は、自分の力を他の人のために使う「サーバント・リーダー」を育てることと考えているからです。東日本大震災の時にも多くの帰宅困難者を受け入れ、非常食や防寒具を提供することができました。
創立150周年のこの年に、マクレイ記念館と青山学院幼稚園の園舎建て替えを実現することができました。あわせて青山学院ミュージアムの開設も来年迎えることになります。マクレイ記念館にはシャローム・ライブラリーという図書館があります。「シャローム」とはヘブライ語で「平和でありますように」という意味で、ここには日本聖書協会から寄贈された貴重な聖書が所蔵されています。
大切にしたい四つの教育
30年先を見据えた「MIRAI VISION」と、10年後の創立160周年に向けた「VISION 160」のなかで「サーバント・リーダーを育てる」を掲げています。これは「キリスト教の信仰にもとづいて教育を行う」という建学の精神をもとにした教育目標「愛と奉仕の精神をもって、すべての人と社会とに対する責任を進んで果たす人を育てたい」や、スクール・モットー「地の塩、世の光」を、あらためて目指すべきビジョンとして定めたものです。
サーバント・リーダーを育てるために、「キリスト教教育」「先端科学教育」「国際教育」「想像&創造教育」の四つの要素を重視したいと考えています。各々の特筆すべきものを挙げると、「キリスト教教育」では、各学校と大学の各学部に1人ずつ宣教師・宗教主任が在籍し、きめ細やかなキリスト教教育を行っております。またキリスト教系の高校から毎年70~80人の生徒を受け入れています。「先端科学教育」では、データサイエンス学部の新設や女子学生のSTEM(理系)教育の支援などを計画しています。「国際教育」は以前から力を入れていますが、初等部から高等部の生徒も参加できる、留学生との交流スペースを整備しました。「想像&創造教育」では、3Dプリンターをはじめ様々な工作機械でものづくりができる「つくまなラボ」を設置したり、スタートアップを支援する「青山ビジネスプランコンテスト」を開催したりしています。
私たちはこれからも、平和な未来をつくる人たちを育てていきたいと願っています。
大学駅伝は心を震わせる青春のライブ
予測できないおもしろさ
上重 近年、駅伝大会の優勝常連校になった青山学院と、頭角をあらわしはじめた立教大学の当事者、関係者の皆さまと大学駅伝について語り合いたいと思います。まず克典さん、大学駅伝の魅力とは何でしょう。
高橋 成長途上で伸びしろの多い学生が精一杯走っている姿、その熱意とエネルギーに心打たれます。正月に観戦する箱根駅伝からは、その年1年の活力をもらっています。
上重 最近の母校の活躍はどうですか。
高橋 誇らしいですね。初優勝の時には鳥肌が立って泣きました。
上重 徳光さんは毎年沿道でも観戦されていますが。
徳光 自宅近くの3区・8区の沿道で応援しています。今年は青山学院の太田蒼生選手がすばらしい汗をかいていましたね。駅伝はまさに青春のライブ。お子さんは希望を抱く、若者は勇気をもらえる、シニア世代は青春を回顧するというように、世代ごとの楽しみ方もできます。
上重 徳光さんは実況アナウンサーにもエールを送ってくださいます。
徳光 「滑舌いいぞ」とか、いろいろと(笑)。
上重 指揮官としての駅伝のおもしろさは。
原 何が起きるかわからないところですね。今年の正月、青山学院が優勝すると誰が思っていたでしょう。私も思っていなかったのですから(笑)。
上重 前評判がよくない中、2位でいいと学生に声をかけたとか。
原 肩の力を抜いてあげようという意図でしたが、指導者として学んだことがあります。直前合宿で選手16人中13人がインフルエンザにかかりました。こういう場合、厳しいトレーニングで挽回しようとしがちですが、体調を整えることに重きをおいて、あえて練習量を少し下げたのです。結果として学生はリフレッシュして120%の力を出してくれました。
本質を追求する原マジック
西原 立教大学は創立150周年を迎える年に、箱根駅伝の本選出場を目指して陸上競技部を強化してきましたが、昨年1年前倒しで達成し、2年連続の出場を果たすことができました。
徳光 昨年の55年ぶりの出場はOBとしても本当にうれしかったですね。
西原 創立150周年記念式典で「毎年出場」「上位進出」「シード権獲得」という新たな目標を掲げています。髙林祐介新監督を招聘して全日本大学駅伝の初出場も決めました。厳しいこの地区選考会を勝ち抜いた経験が、箱根駅伝予選会に向けて力になると思っています。
徳光 青山学院は大学駅伝に彗星のごとくあらわれました。どういうマジックがあったのでしょう。
原 京セラ創業者の稲森和夫さんに「小善は大悪に似たり」という言葉がありますが、物事の本質を追求する指導を心がけてきました。学生にとって心地よい言葉はいい結果を生みません。だめなところはだめと指導するうちに本質を追求する伝統が育ってきた。そういう中で徐々に結果が出始めたのだと思います。
徳光 心ある教育というものを感じるし、学生との間に強い絆があるように思えます。
原 お伝えするのを忘れていたことがあります。監督にも監督がいるんですね。妻の美穂です(笑)。私たちが寮監、寮母として学生40人と同じ屋根の下で共同生活しているのが、青山学院の一番の強みかもしれません。
高橋 コーチやマネージャーの存在も大きいそうですね。選手のモチベーションを高める関係性を築いていると聞きます。
正月を、母校を思い出す良き日に
上重 今年の大学駅伝の展望は。
原 先ほどお話したように何が起こるかわからないのが大学駅伝ですが、あえていえば青山学院、東洋大学、國學院大学、駒澤大学、このあたりが優勝争いの軸になるのではないでしょうか。
西村 青山学院は今年いい選手が入学しましたね。駅伝ファンとして、どこの区間で起用するか気になっています。
原 期待はしていますが、新しい環境に慣れ始めた1年生に頼りすぎるのはよくないと思っています。また、昨年の優勝メンバーが7人残っていて有利な面はありますが、監督が安心していると負ける傾向があります。もし来年、青山学院が負けたら監督のせいだと思ってください(笑)。
西原 大学としてはどういう支援をすればよいのでしょう。
原 あたたかく見守ってほしいと思います。一方で結果に伴う支援がのぞましいのではないでしょうか。私は大学に対して何でもかんでも要求しませんが、結果でメッセージを伝えているつもりです。
上重 監督はマスコミに露出することも多いですが、どういうことに気をつけていますか。
原 大学のカラーに合った部の運営が大切で、そういう意識で情報発信してきたつもりです。その中で大学のブランド力とともに陸上競技部のブランド力が高まり、青山学院で走りたいという高校生が多くなってきたのだと思います。
徳光 立教大学は今後5年のうちに10位以内に入れそうですか。
原 青山学院とカラーが似ている立教大学が駅伝の強化を始めて、実は脅威に感じていました。ポテンシャルがある大学ですので3年以内にはシード権を獲得しているだろうし、ゆくゆくは優勝を狙えると思います。
西原 10年後、両校が優勝争いするようなことがあればすばらしいですね。
原 大学駅伝は様々な交流や一体感を生むきっかけになるのではないでしょうか。箱根駅伝を通じて正月を、母校を思い出す良き日にしていただけたらと思います。
司会