fermata(本社・東京都品川区)は、フェムテック専門のオンラインストアを展開し、国内フェムテック市場のパイオニアと言われている。fermataの共同創業者でCCOの中村寛子さんに話を聞いた。
実店舗はフェムテックとの最初の出会いに
—— 取材のために東京(六本木)の実店舗にお邪魔しました。とても明るい雰囲気で、扱っている生理用品も色使いや形がかわいいですね。
ありがとうございます。私たちの事業の柱の一つが、フェムテック商品の販売です。六本木にあるこの実店舗とオンラインストアを展開していて、日本国内外からセレクトした製品を扱っています。実店舗では、新しい生理の選択肢として話題の「月経カップ」や「吸水ショーツ」などを実際に手に取って見ていただけるので、初めて利用される方も安心して購入できるのが魅力だと思います。パートナー用の商品を探しに、男性が来店されることもよくあるんですよ。
フェムテック関連の商品やサービスをもっと広く多くの方に知ってもらうために、2021年春には伊勢丹新宿店で期間限定のポップアップを開催しました。東京のほかに名古屋、大阪、福岡、熊本でも開催を予定しています。「なにこれ?」といった偶然の出会いから、フェムテックに興味を持っていただけたらいいなあと思っています。
企業メッセージ「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」とは
—— 「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」という企業メッセージが魅力的です。
生理をはじめ、女性の心身にまつわるタブー、固定観念を変えていくという思いを込めています。私自身、生理痛に悩んでいましたが、スコットランドに留学していた時にユースクリニックで低用量ピルを処方され、人生が変わりました。もともと気を失うことがあるくらい生理痛が重かったのですが、低用量ピルを飲んだら一気に楽になったんです。そんなふうに、タブーや固定観念を変えていくきっかけになるといいなという思いから、女性の身体にまつわる悩みや課題を共有するオンラインイベントも毎月行っています。
個人向けだけでなく、企業向けにもコンサルティング事業などを行っています。企業のダイバーシティー推進の仮説設計や、防災備品の中に、半永久的に使える生理用品である月経カップを入れる取り組みなどもしています。個人向け、企業向けなどさまざまな角度から、フェムテックの考え方をはじめ商品やサービスなどが育つ土壌を日本にもつくりたいですね。
—— この1年で、フェムテックという言葉を聞く頻度がとても増えました。中村さん自身は、フェムテックは今後、どのように進化すると考えていますか?
私たちは、主に生物学的女性をターゲットにした商品を扱っていますが、フェムテックという言葉は、数年後にはなくなっていてほしいと思っています。女性の健康課題を解決する商品が当たり前のものとなれば、わざわざそれを定義する言葉も不要ですから。また、最近は男性向けのメンテックにもニーズがあります。例えば、不妊の原因が男性にある可能性もあるので、精子の状態をセルフチェックできるキットがあります。メンテックの利用が、当事者である男性はもちろん、パートナーの女性にとっても良い影響になるといいですよね。
このような商品が広まることで、日本でも「自分の身体の一番の理解者になれるのは自分だけ」といったカルチャーを浸透させられると思います。個々人が自分の健康や身体を意識することが当たり前になっていくんじゃないかなと。最終的には、個々が自分の身体を見つめるのが当たり前という風潮になっていくのがベストだと思っています。性別に関係なく、個が認められる社会になるといい。ただ、今後広く「ヘルステック」に吸収されていくジャンルだとしても、今は「フェムテック」として需要や市場を可視化することはとても大切だと思っています。
—— 企業メッセージに「女性の心身にまつわるタブー、固定観念を変えていく」とあります。具体的な実践や試みはありますか?
今のメンバーは総勢20名ほど。メンバーみんな、さまざまなバックグラウンドを持っています。全員とビジネスチャットでやりとりをしていて、その日の気分を天気で表すなど、お互いの気持ちやコンディションが分かるようにしています。例えば、雨降りのマークのメンバーに対しては、「今日はそっとしておこう」という雰囲気になります。「生理痛でつらいので今日は稼働率低めで」というメッセージを受け取ることもあります。そんな時は、「ハグ」のマークをたくさん送ったりしますね。
—— その日の自分のコンディションを伝えられる手段があるのって、いいですね。先ほど「性別に関係なく個が認められるといい」とおっしゃっていました。私自身もバイアスをなくしたいのですが、正直なくすのが難しくて悩むことがあります。
バイアス、ありますよね。女性に対して投げかけられる言葉だと「あいつは生理だから」「更年期だから」みたいなことを聞くと、すごくモヤモヤします。とは言いつつ、バイアスは完全には消えないですよね。ゼロにすることはできない。でも、知らないだけのアンコンシャスバイアスと、知った上でもフィルターをかけてしまうコンシャスバイアスは、まったく違うものです。コンシャスバイアスがいちばん厄介。私ももちろんバイアスを持っていますが、それ自体を認識した上で、自分はどんな言動を選ぶのかということが大切だと思っています。
自分の身体のオーナーシップを持つことの大切さを伝えたい
—— 中村さんもバイアスを持っていると聞いて、なんだか気が楽になりました!
最後に、中村さんはfermataの事業を通して、女性や社会にどんなことを伝えたいですか?
個人に対しては、自分の身体のオーナーシップを持つことの大切さを伝えたいです。それを知ることで、選択肢が増えるかもしれないので。今現在、フェムテックはバズワードになりつつありますが、単純にテクノロジーをつかったモノだけを表しているのではなく、「身体について話していいよね」という一種のムーブメントでもあると思っています。情報は時に暴力にもなり得るので、情報を「知る」「知らない」の選択肢があってもいいとも思っています。「知らない」という選択肢をしていいときもあるはず。ですが、もし知りたいと思った人には、適切な情報を届けられるような場所でありたいです。
社会に対しては、「女性活躍」という言葉の先を考えていく必要があると思います。キャリア形成が、女性のライフステージに寄り添い、もっと健康を軸に考えることができるようになればいいなあと思っています。正直、働く女性全員がキャリアを最優先したいと思っているわけではないと思うので、まずは一人ひとりの健康軸で物事を考えていけるようになると嬉しい。女性が生きやすくなって、さらに性別に関係なく、個人個人が生きやすくなればいいなと思っています。
(聞き手・読売新聞広告局 鈴木爽子、長谷川明日香)
※肩書等は取材時のものになります。