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Page0328June2024FEATUREWONDEROUSSTORIES2024年の新作時計毎年スイス・ジュネーブで開催される世界最大の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズジュネーブ(WWG)」。高級時計市場の最新の潮流や注目の最新モデルを紹介する。0203040506髙橋直彦=取材・文Text:NaohikoTakahashiYOMIURIBRANDSTUDIO)014月9日から15日まで、スイス・ジュネーブで開催された世界最大の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズジュネーブ(WWG)」=01。今回8ブランドが新たに参加し、計54メゾンが新作を披露した。主催者によると、来場者も昨年より%増え、4万9000人を記録し、14パンデミック前の盛況を完全に取り戻した。そうした中、現地を訪ねて感じた高級時計マーケットの新しい潮流や、目に留まったユニークな新作を紹介する。〝盤上〟で繰り広げられる、美の競演各メゾンは今年も特色のある新作を数多く発表した。とりわけ、時計の第一印象を大きく決める文字盤のデザインにメゾンの想いが強く刻印された。例えば、ロレックス。「パーペチュアル1908」2はアイスブルーの文字の新作=0盤に繊細なギヨシェ仕上げが施され、クラシックな雰囲気と若々しさが絶妙にマッチしている。日本のメゾンとして唯一WWGに参加しているグランドセイコーは、「エボリューション9コレクション」3で工房のあるのRef.SLGW003=0岩手県の平庭高原に自生する白樺の樹皮のモチーフを精緻な型打模様で表現。そこはかとない和の意匠に引きつけられる。インデックスやベゼルなどのデザインも一新され、洗練された手巻きのドレスウォッチに仕上がった。カルティエでは「サントスドゥ4の文字盤がカルティエ」の新作=0目を引いた。見慣れた定番の腕時計がブラウンのダイヤルを採用することで新鮮な雰囲気を纏う。サテン仕上げを施したブラウングラデーションのサンレイダイヤルはトップジュエラーらしく優美さも強調する。近年のトレンドカラー、グリーンも相変わらずの人気だ。ヴァシュロン・コンスタンタンはスポーティーな「オーヴァーシーズ」コレクショ5で初となるサンバーンの新作=0スト仕上げのグリーンダイヤルを採用。ピンクゴールドのケースやブレスレットとの組み合わせが斬新だ。もっとも、「流行だから」と、グリーンを採用したわけではなく、深みのある緑を生み出すために5年の試行錯誤を重ねたという。文字盤と同色のカーフスキンとラバーのインターチェンジャブルなストラップも付属し、雰囲気を変えて愛用することもできる。超絶技巧を取り入れたハイエンド時計メゾンの技術の粋を凝らした超絶時計からも目が離せない。その代表格がIWCの見せた「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」=04・4ミリ、厚さ1だろう。直径44・9ミリのプラチナケースの中に、400年間で3回の閏年をスキッ6プする機能を盛り込んだ。さらにダブルムーンフェイズは4500万年にわたって正確に月の満ち欠けを表示するという。まるで小宇宙を腕時計に閉じ込めたよう。超絶の機能は実用性というより、メゾンの圧倒的な技術開発力を象徴するものなのだろう。こうした想像を遥かに超える驚異の時計との出会いが、見本市に駆け付ける醍醐味の一つでもある。7で、1パテックフィリップは「ワールド2時位置にタイム」の新作=0表示される選択されたタイムゾーンの時刻と同期した日付表示を行う世界初の機能を盛り込んだ。この新機能は、自動的に日付表示針が前進・後退し正しい日付を表示する。一見、地味な機能だが、「新世代のワールドタイム」と呼べるほど、使い勝手のいい実用的な一本に仕上がった。まるで「アナログなスマートウォッチ」。カーボンパターンをあしらったブルーグレー・オパーリンの文字盤や、同色のデニム柄のカーフスキンのバンドも若々しくカジュアルな雰囲気を醸し出す。ケースの薄さをぎりぎりまで追究するメゾンもあった。ピアジェの「アルティプラノアルティメートコンセプトトゥールビヨン」=02018年に発表したケース厚わずか2ミリのコンセプトモデルにトゥールビヨンを搭載してみせた。開発に6年の時を要し、時計作りの限界に挑む姿勢に感服する。こうした各8は、メゾンによる技術への挑戦が新しい高級時計の未来を切り拓いていく。環境問題に配慮するメゾンもその一方で、ユニークな時計をただ企画して、発表するだけの時代は終わりつつある。アパレルや他の工業製品などと同様、時計作りにも社会的責任が問われるようになっているからだ。そうした動きを先取りして、サスティナビリティー」や「エシカル」の要素を新作に反映させるメゾンも目立った。ショパールは、2年までにスティール製ウォッチの9%以上にリサイクルスティールを採用すると昨年発表。今回発表した「ミッレミリアクラシッククロノグラフJX7」=09でもケースにリサイクルスティールと、生産や流通の過程を明確にしたエシカルゴールドを用いた限定モデルを披露した。50ゼニスはダイバーモデルの新作「デファイエクストリームダイバー」0に付属する交換可能な3本のス=1トラップのうち、ウェットスーツの上から着用できるエクストラロングのストラップに漁網をアップサイクルして作った素材を使っている。オリスもユニークなアップサイクルの新作「アクイスデイトアッ1を発表した。こちプサイクル」=1らは文字盤に再生PETプラスティックを使用。その色柄は一つひとつ異なり、身に着ける側の所有欲も満たしてくれる、文字通りのアップサイクルな一本だ。23スイス時計協会の統計によると、年のスイス時計の輸出額は267億スイスフラン(約4兆5856億円)と前年より7.6%増え、過去最高を更新した。もっとも、昨年後半以降、中国の景気後退などが影響して、その伸び率は失速し、今年1〜2月期は前年同期比でマイナスに転じた。一方、円安の進む日本では、急増する訪日客が高級ブランド品を「割安だから」と買い募るケースが目立ち、高級時計の市況もその影響を受けているという。また、一部製品に人気が集中し、一般顧客が希望する時計を手に入れづらい状況も続いており、セカンダリーのマーケットが注目を集めている。12そんな中で、多くのメゾンが時計作りの本質を見つめ直し始めている。要はハイテク時代に時計を作り、所有することの悦びや本質的な意味をどのようにアピールしていくか̶̶。好況の続いた高級時計の市場が転換点を迎えつつあるように感じた。01.「ウォッチズ&ワンダーズジュネーブ」のメイン会場の風景02.「パーペチュアル1908」ロレックス(日本ロレックス)☎0120・929・57003.「エボリューション9コレクション」グランドセイコー(グランドセイコー専用ダイヤル)☎0120・302・61704.「サントスドゥカルティエ」カルティエ(カルティエカスタマーサービスセンター)☎0120・1847・00Photo:©Cartier05.「オーヴァーシーズ・オートマティック」ヴァシュロン・コンスタンタン☎0120・63・175506.「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」IWC☎0120・05・186807.「ワールドタイム」パテックフィリップ(パテックフィリップジャパン・インフォメーションセンター)☎03・3255・810908.「アルティプラノアルティメートコンセプトトゥールビヨン」ピアジェ☎0120・73・187409.「ミッレミリアクラシッククロノグラフJX7」ショパール(ショパールジャパンプレス)☎03・5524・892210.「デファイエクストリームダイバー」ゼニス(LVMHウォッチ・ジュエリージャパンゼニス)☎03・3575・586111.「アクイスデイトアップサイクル」オリス(オリスジャパン)☎03・6260・687612.WWGは一般にも公開され、家族連れも目立った0708091011