主催/読売新聞社 協力/NTTドコモ

読売新聞社は、5Gなどの新しい通信情報技術による社会課題の解決や、
豊かな未来社会の姿について議論する本シンポジウムを2021年に立ち上げました。
2回目となる今回は、デジタル領域に加えてスポーツ、エンタメに造詣の深い方々を招き、
ファンの多様性やデジタルコンテンツが及ぼす影響などについてお聞きしました。
その模様をダイジェストでお伝えします。
デジタルでつくる、
育む新しいスポーツ・ファンダム

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「デジタルとリアルを組み合わせてスポーツの興奮を最大化する」
石村 彰啓氏
株式会社NTTドコモ
第二カスタマーサクセス部
スポーツ&ライブビジネス室 室長 -
「現地観戦の楽しみが進化する次世代の通信技術に注目」
髙橋 大輔氏
読売巨人軍スタジアムMC
- 石村
- 当社のスポーツ&ライブビジネス室では、デジタル技術を活用したスポーツやエンタメ領域のビジネス開発に取り組んでいます。インターネット上の活動や発信に積極的な10~20代の若者を巻き込むことが、私たちの重要なミッションです。
- 髙橋
- 私は普段、東京ドームのスタジアムMCを務めているのですが、スポーツに携わる立場として「若者のスポーツ離れ」に少し不安を覚えています。
- 石村
- 実は、若い世代がスポーツにまったく興味がないわけではありません。一つのチームや競技を応援するのではなく、たくさんの対象に興味を持ち、応援する対象をその時々で選択する楽しみ方が主流になりつつあります。
- 髙橋
- 応援対象の多様化と、デジタル技術の発達とは関係があるのですか?
- 石村
- もちろんです。近年、インターネット上の情報や娯楽は、大幅に増加していますよね。そのため、消費者は、コンテンツの取捨選択をしなくてはならないのです。「いま自分が使える時間の中で、最大限の楽しみが味わえる方法を選択する」という文化が広まっているのです。
- 髙橋
- 応援対象の多様化以外にも、変化はありますか?
- 石村
- オンライン上でのコミュニケーションは、年々活発化しています。「スポーツチームがSNSやオンラインサロンを運営して、ファンと交流を図る」「ファン同士がオンライン上で通話をしながら一緒に試合を観戦する」など、新しい事例が増えています。
- 髙橋
- 確かにそうですね。コロナ禍ではファンが会場を訪れることができなかったので、インターネットを活用した交流がますます増えた気がします。
- 石村
- 最近は、「インターネットを介しての応援も立派なファン活動である」と広く認識されるようになりました。一方で、スポーツを生で見る経験もしていただきたいので、どうやって試合会場にデジタル技術を導入するかということも当社の課題の一つです。
- 髙橋
- 東京ドームでは、NTTドコモによる「マルチアングル」サービスが提供されていましたね。
- 石村
- はい。このサービスを使えば、自分の席から見えない角度の試合映像を、リアルとほとんど同時にスマホで見ることができます。観客席からでは、どうしても見えにくい角度があったり、遠くのプレーがはっきりと見えなかったりするので、デジタル技術で見え方を補完できればと考えました。
- 髙橋
- 私も体験して、より試合に没入することができ、とても楽しませてもらいました。
- 石村
- やはり、スポーツの醍醐味は「生の迫力」だと思います。どんなに時代が進んでも、リアルの良さが失われることはありません。マルチアングル技術のように、リアルとデジタル技術を掛け合わせて、「スポーツの感動の最大化」と「試合以外の時間におけるファンの情熱の維持」に貢献できればうれしいです。
- 髙橋
- 他にもNTTドコモの取り組みがあれば教えてください。
- 石村
- 一つはアリーナの運営です。2022年に「東京有明アリーナ」を開業しましたが、25年には愛知県と兵庫県にもアリーナを開業予定です。
- 髙橋
- 従来のアリーナとの違いはありますか?
- 石村
- 座席で食事をモバイルオーダーして、待ち時間なく売店で受け取れるようにするなど、スマート化を進める計画を立てています。より快適な時間を過ごせますよ。
- 髙橋
- それはうれしいですね。最近では、スポーツ会場とその他の商業施設とが複合して、一つの巨大な娯楽の拠点になっている例もありますよね。
- 石村
- 競技施設が身近なものになれば、お客さまの呼び込み方も多様化できますからね。例えば、「買い物のために立ち寄ったお客さんに、試合も観戦してもらえるような案内を出す」「サッカーの試合を見にきた人に野球観戦を体験してもらう」など、競技への強い関心がない方への働きかけが可能になります。
- 髙橋
- 観戦という話がありましたが、「スポーツ観戦」という視点での新しい取り組みも教えてください。
- 石村
- いま目指しているのは、バーチャルの映像を体験できる「XR空間」の提供です。実現すれば、「試合会場でリアルとバーチャルの世界を行き来する」「家にいながらスタジアムに近い興奮を味わう」など、さらなる感動体験を得ることができます。
- 髙橋
- スポーツとデジタルの関係性が、かなり密接になってきていると実感しました。これからも、スポーツの楽しみ方の選択肢が増えることを心待ちにしています。
Yomiuri Future Tech Session vol.2 Session1「デジタルでつくる、育む 新しいスポーツ・ファンダム」
34:21
スポーツ・エンタメの今と未来

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「ネット上での情報発信を通じて野球への恩返しができたら」
平山 勝雄氏
株式会社ケイコンテンツ 代表
アニキ@トクサンTV
元読売テレビ・プロデューサー -
「野球人口の減少問題もデジタルコンテンツで解決」
稲村 亜美氏
タレント
- 髙橋
- 平山さんは野球に関する知識などを発信する動画投稿サイト内チャンネル「トクサンTV」の運営に携わっておられますよね。まずは、動画投稿を始めたきっかけを教えてください。
- 平山
- 元々テレビ局で番組プロデューサーをしていたのですが、培った撮影や編集の技術をデジタルの世界でも試してみたくなりました。どんな動画を撮影するのか考えたときに、アマチュア野球が好きなので、自分が所属している草野球チームの活動を紹介しようと思ったのがきっかけです。
- 稲村
- 以前出演させていただいたこともありますが、トクサンTVの勢いはすごいですよね。チャンネル登録者数は70万人を超えていて、プロ野球選手も多数出演されていますし。
- 平山
- おかげさまで、現在はたくさんの人に応援していただいています。しかし、始めたばかりの時は、「プロ野球選手でもないのに、でしゃばって発信するな」などとコメントがきたり、低評価のボタンを押す人が多かったり…と、苦労したのを覚えています。それでも毎日更新を続けて、なんとか広く野球ファンに認めてもらえるようになりました。
- 髙橋
- 稲村さんは、さまざまなスポーツに取り組まれていますが、「野球女子タレント」としても精力的に活動されていますよね。始球式で披露した速球や、「神スイング」といわれたバッティングフォームが話題になりました。
- 稲村
- はい。私は学生時代に9年間野球をやっていました。始球式にはプロアマ合わせて30回ほど呼んでもらっています。
- 平山
- 神スイングが話題になったとき、私たちは「稲村さんの軸足の運び方が特にすばらしい!」と感じ、動画でも取り上げましたよ。
- 髙橋
- かなりマニアックな着眼点だと思いますが、それもチャンネルが支持されている理由の一つなのでしょうか?
- 平山
- デジタルの世界では、知識や興味がある人が自分の意志でコンテンツを選ぶので、コアな企画でも受け入れられやすいという特徴がありますね。
- 髙橋
- 多様な視聴者を想定しているテレビ番組とは、異なる特色ですね。
- 平山
- そうですね。さらに「スピード感」も大きく違います。デジタルの世界では、企画から撮影、編集、そして公開までの期間がかなり短い。ネタの新鮮さがクオリティに直結する上に、視聴者が毎日更新を求めているので、コンテンツ制作は時間との勝負です。
- 髙橋
- 稲村さんは出演者として、デジタルの浸透を感じる機会はありますか?
- 稲村
- コロナ禍で球場に足を運べない時、プロ野球球団のグッズを買って、気分を盛り上げながら自宅で応援しているという報告をSNSでしたところ、すぐにネットニュースに取り上げていただきましたね。また、「ネット上の動画を見て応援しています」と声をかけられることも増えました。デジタルコンテンツを通じて、私を知ってもらう機会が増えたのではないでしょうか。
- 髙橋
- なるほど。インターネット上でも、ファンや新たなお仕事を獲得できるようになったのですね。平山さんはいかがですか?
- 平山
- 我々の場合は、ほとんどすべての活動をインターネット上で行っていますが、ファンの人数は少なくないと思います。例えばトクサンTVの出演者が野球場に行くと、子どもたちが写真撮影のために並んでくれるんです。プロ野球選手ではないのですが、野球を通じて多くの人に影響を与えられているなと実感しています。
- 稲村
- 出演者としてだけでなく、視聴者としてもメディアの影響力は感じています。デジタルコンテンツが主な情報の入手元になっているので、生活に欠かせないですね。
- 平山
- プロアスリートの方でも、ご自身の経験や技術を伝える場として、動画投稿サイトを選択することは珍しくありません。実際にトクサンTVでも、超一流のプロ野球選手が出演してくれる機会が増えました。
- 髙橋
- なぜ多くの人が、情報の発信・取得手段としてデジタルメディアを選ぶのでしょうか?
- 平山
- 情報のストックと、変遷の可視化が容易だからではないでしょうか。例えば、野球においては指導法や理論、技術などがめまぐるしく変化します。そこで、「昔はどんな教え方をしていたのか」「道具がどう進化したのか」などを簡単に調べられるデジタルメディアが重宝されるわけです。
- 稲村
- デジタルの世界では、過去・現在・未来を簡単につなぐことができる、といえるかもしれないですね。野球人口の減少も問題視されていますが、デジタルコンテンツによってこれまでにない形で業界が盛り上がれば解決の糸口になるかもしれません。
- 平山
- おっしゃる通りです。もし、トクサンTVに出てくれた子どもたちの中からプロ野球選手が誕生すれば、チャンネルも盛り上がるし、視聴者の皆さんが一層プロ野球の応援に力を入れるようになるかもしれません。我々のコンテンツが、時空を超えて野球の発展に貢献できる未来が訪れるかもしれないと思うと、ワクワクします。
- 髙橋
- ぜひその瞬間を目撃したいものです。最後に、それぞれの今後の展望や、目標をお聞かせください。
- 平山
- デジタルの発展の波に乗りながら、野球に恩返しがしたいです。現在は、デジタル技術の普及によって、誰もがインターネット上のコンテンツを高速かつ簡単に享受できるようになっています。そのおかげで、河原で草野球をやっていた「ただのおじちゃん」たちが、プロとは違う形で、野球で生活ができるようになりました。今後は、私たちと同じように、「プロスポーツ選手になるのは難しいけれど、野球に関する仕事をしたい」と思った人のサポートもしたいと考えています。
- 稲村
- 私は5人制野球の選手をしているので、まずはそこで日本代表になりたいです。さらに、女子野球界も盛り上げていきたいですね。加えて、野球以外で取り組んでいるゴルフや自転車の広報活動も増やしたいですし、違う競技にも挑戦したいな…と意気込んでいます。
- 髙橋
- すばらしい目標ですね。お二方のスポーツとデジタルを結び付ける活動に、今後も期待しています。本日はありがとうございました。
Yomiuri Future Tech Session vol.2 Session2「スポーツ・エンタメの今と未来」
37:39