日本の成長は「女性の健康」対策から
~求められる、リテラシー向上と男女の働き方改革~

 日本が更なる成長を目指す上で原動力となるのが「女性の活躍」です。そして、その前提として、男性とは異なる心身の特性や妊娠・出産等のライフイベントに配慮した社会づくりが欠かせません。そんな女性の「健康」と「ライフデザイン」について考えるシンポジウムが、2月28日に都内で開催されました。

基調講演
「女性が健やかに輝きつづける社会に向けて」

内閣官房参与/慶應義塾大学名誉教授 吉村 泰典 氏

人生各期を考慮したケアを

 女性はホルモン(エストロゲン)の変動などにより、心身に様々な不調が生じます。さらに、女性の社会進出が進むなど社会構造が変わったことで、これらの疾患の問題も深刻化してきているのです。

 思春期には月経異常が起こりがちですが、痩身への憧れや過度なダイエットによる「痩せ」が無月経を引き起こすケースも増加。将来妊娠しにくくなり、生まれてくる赤ちゃんの健康にも害を及ぼします。性成熟期では、月経前症候群※1・月経前不快気分障害※2が注目されるようになりました。また、子宮内膜症や、それに伴う月経困難症が増加し、不妊につながっています。高齢妊娠が増え、妊婦や胎児の健康・死亡リスクが高まっていることも問題です。閉経を迎えて女性ホルモンが分泌されなくなる更年期以降では、骨粗しょう症や骨折、筋力の低下が急激に増え、平均寿命と健康寿命の差を広げる一因となっています。

 女性の健康力を維持するためには、ライフステージに応じたトータルヘルスケアが重要です。加齢だけではなく、初経・妊娠・出産・閉経といった現象やエストロゲンの消長を考慮した予防医学的な視点が必要であることを社会全体が認識しなくてはなりません。

※1 排卵後から月経前にかけて、精神的・身体的に様々な不調が起こること。PMSとも呼ばれる。
※2 月経前症候群に、より重い精神症状が伴うこと。PMDDとも呼ばれる。

パネルディスカッション
「女性の健康とライフデザイン」

男女両方の柔軟な働き方が女性活躍のカギ

相模女子大学客員教授・少子化ジャーナリスト・作家
白河 桃子 氏

労働時間改善で男性の意識が変化

国際ジャーナリスト・エッセイスト
ドラ・トーザン 氏

月経に伴う不調が経済的損失を生む

東京大学 大学院医学系研究科 産婦人科学講座 教授
大須賀 穣 氏

母子の健康を奪う「痩せ」の恐ろしさ

国立成育医療研究センター 母性内科医長
荒田 尚子 氏

正しい知識でキャリアを描く

後藤:
女性活躍社会を実現するためには、女性特有の心身の不調に対するケアが不可欠です。
大須賀:
例えば月経前症候群は、イライラしたり、落ち込んだり、胸やお腹が痛くなったり…と、症状が多岐にわたるため、原因が分かりにくい病気。ホルモンの変動が月経(排卵)と連動していることを理解し、ピルや漢方、医薬品などを活用しながら正しい知識で適切な対処をすることが必要です。月経に伴う不調は労働生産性の低下にもつながっており、年に約4911億円の労働損失が生まれていることが判明しています。
荒田:
将来の妊娠に備えて男女が健康管理をする「プレコンセプションケア」も重要。より健全な妊娠・出産を期待できるとともに、新生児の健康にも好影響を与えます。特に母体の「痩せ」による赤ちゃんの低体重(低体重は糖尿病・高血圧など将来の成人病リスクを上昇させる)を防ぐことは非常に大切です。
大須賀:
適切な体重や体調の自己管理によって自身も健やかになり、女性なら婦人科がんや更年期障害、骨粗しょう症などの予防にもつながるでしょう。
荒田:
30代後半になると卵子が急激に減少するという問題もありますし、まずは女性自身が正しい知識を身につけ、ケアをしながらキャリアプランを描いてほしいものです。
トーザン:
フランスでは15歳から婦人科にかかることになっており、体の変化や避妊、ピルの活用などについて、様々なアドバイスを受けることができるんです。ピルは、仕事や生活に支障をきたさないよう、月経(痛)をコントロールする大事なツールになっています。
月経に伴う不調と損失
月経に伴う不調が要因となる日本の労働損失は1年で約5千億円に上る。ここに通院費用とOTC医薬品を購入する費用を合わせると、7千億円近くの損失に。

国がカップルの子育てを後押し

後藤:
フランスでは、女性が働けば働くほど出生数が増えており、トーザンさんはこの現象を「フレンチパラドックス」と呼んでいます。
トーザン:
結婚していないカップルを含め、家族手当などの手厚い公的支援が受けられるうえ、パートナーの協力も得られるので、出産で仕事を辞める女性はほとんどいません。多くの人が、仕事とライフイベントを両立できているのです。
白河:
少子化対策のお手本となる国ですよね。待機児童の問題もほとんどなく、「安心して子どもを産める空気」があると感じます。
トーザン:
「週35時間労働制」によって長時間労働から解放され、育児参加など男性のライフスタイルが変化したことも、その要因となっているのでしょう。

国や企業、自治体で取り組み進む

後藤:
いま日本の企業では、健康に配慮しながら女性活躍を推進する取り組みが行われています。
白河:
多様な働き方が可能となるように評価制度を見直したり、業務効率を向上させてゆとりとやりがいのある職場環境を実現したりと、その手法も様々です。経済産業省では、企業の「健康経営」を推進しており、「健康経営銘柄」に認定した企業を表彰しています。
※従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組むこと。

「健康経営アワード2018」では「健康経営銘柄」26社を表彰。
これから「働く女性の健康支援」についても柱に掲げていく。
 某大手化粧品メーカーは、出産・育児期の女性にやさしくするだけでなく、同時に活躍・キャリアアップができる仕組みづくりで話題になりました。男性を含めたすべての社員がフレキシブルに生産性高く働ける体制を整えることで、彼女たちが“特別扱い”とならない環境を目指したのです。この会社では、出産・育児期の女性が夜や土日のシフトでも活躍しています。
トーザン:
日本の女性は優秀な人が多いですし、ここから社会全体が変わっていかなければなりません。フランスだって、もともとは保守的な国だったわけで、労働時間の改善などにより、潮流が変わったのですから。
後藤:
三重県庁では、知事自らが育児休暇を取ったことをきっかけに、男性職員の99%が育児休暇を取得するまでになったそうです。
トーザン:
「リーダーが空気を変える」ということの大切さが分かりますね。
白河:
経済面から考えても、若者にはぜひ「共働き・共育て」を提案したい。なぜなら、共働きとそうでない家庭では、生涯賃金が2億円ほど違うからです。夫婦で育児を分担して、妻が仕事を継続できるようにすることをおすすめします。途中から夫が育児に参入するのはハードルが高いようなので、スタートから巻き込んで一緒に楽しむことも重要かもしれません。夫が家事・育児をしっかりと行えば、2人目、3人目の子どもも産みやすくなるはずです。

女性の健康支援を国民運動に

荒田:
今日は医療者の立場として、また子育て期真っ只中で働く女性として、課題が鮮明になりました。「国民全員が女性の健康に対する理解を深めること」 「社会全体で子育てをする文化を育むこと」「働き方改革を進めていくこと」が、いま求められているのではないでしょうか。
大須賀:
女性が自由なライフスタイルを手に入れるためには「健康に対する知識を身につける」「健康に気をつける」「異常があれば対処し、異常がなくても予防する」という3段階が肝心。これらを実行するためには、家族、職場、国・自治体からのサポートが大きな助けとなります。皆さんで、女性が健やかに輝きつづけられる社会をつくりましょう。
大卒で正社員となった女性の生涯賃金は、出産退職をして子どもが6歳の時からアルバイトをすれば約4千万円、子ども2人の出産に育休を取り、その後も正社員として働き続ければ約2億5千万円と試算される。

<総合司会> NHK「きょうの料理」アナウンサー 後藤 繁榮 氏

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