女性の活躍推進に向け、待ったなし!
「知らない」をゼロへ
働く女性の健康課題

 いま女性には一層の活躍が求められていますが、女性たちが健やかに輝き続けるためには、ライフステージに応じた健康管理が欠かせません。「女性の健康週間※」の初日である3月1日、各界の有識者とともに妊娠・出産の高齢化にまつわる問題や、更年期障害、PMS(月経前症候群)などの働く女性が直面する健康問題、社会全体の理解促進の必要性について考えるシンポジウムが都内で開催されました。

※厚生労働省などが主唱。毎年3月1日~8日に「女性の健康づくり」が国民運動として全国で展開されています。

基調講演
「現代女性のライフサイクルと健康支援」

内閣官房参与/慶應義塾大学名誉教授 吉村 泰典 氏

人生各期に起こる女性特有の症状とは?

生活の現代化により増加する疾患

 現代の女性は昭和初期の人々と比べて、生涯に経験する月経の回数が明白に多くなりました。これは出産回数の減少など、ライフスタイルが変化したことによりますが、その結果、女性特有の疾患も増加しています。女性ホルモンの変動などにより起こる代表的な疾患としては、思春期の月経異常、性成熟期の月経前症候群、子宮内膜症、子宮筋腫、更年期の更年期障害、子宮体がん、老年期の骨粗しょう症、動脈硬化症などが挙げられます。こうした疾患への対策としては、ライフステージに応じた心身の変化について知り、「生涯を通じたヘルスケア」を実践することが重要です。

諸症状の改善には低用量ピルが有効

 思春期・性成熟期には、月経時の月経困難症や、排卵後の月経前症候群など、月経周期に伴う症状が表れがちです。月経困難症や月経前症候群、そして過多月経や子宮内膜症の治療には低用量ピルも有効。副作用のリスクはごくわずかで、いまでは低用量ピルを服用する人のうち約8割が、女性特有の疾患の治療を目的としています。

 体外受精によって高齢での妊娠の可能性が高まったことなどにより、近年では晩婚・晩産化が進行しました。しかし、母の年齢が35歳を過ぎる頃から、お腹の中にいる時や生まれてすぐに赤ちゃんが亡くなる周産期死亡率は上昇し、妊婦の死亡率も高齢になるほど高くなります。これらの生殖に関わる知識は、男女問わず、思春期からの教育で周知させなければならないでしょう。

「加齢」と併せて意識すべき「ホルモン」

 更年期以降の不調に大きく関わっているのが、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの減少。エストロゲンは生殖器のみならず、骨や循環器などにも作用しているため、減少すると骨粗しょう症や心筋梗塞、高脂血症が引き起こされることもあります。

 このように、女性の健康は「加齢」というファクターだけで考えることはできません。女性ホルモンの仕組みを踏まえた、総合的かつ俯瞰的な予防医学的アプローチで健康力を維持することが大切になります。また、産婦人科医師のみならず内科医師、社会医学系専門職の連携教育「インタープロフェッショナルエデュケーション」の実現も必要です。そうして「サクセスフルエイジング」が達成されれば、日本の健康寿命の延伸にもつながっていきます。

パネルディスカッション
「女性が輝きつづける社会へ!
~ウィメンズ・ヘルス・アクション~

他科や国と協力して知識を広めていく

内閣官房参与/慶應義塾大学名誉教授
吉村 泰典 氏
3000人以上の不妊症、5000人以上の分娩患者の治療経験を持つ不妊治療のスペシャリスト。日本の周産期医療と女性・子どもを支える活動に取り組む。

学習指導要領の見直しで意識の徹底を図る

衆議院議員
野田 聖子 氏
1993年に衆議院議員となり、郵政大臣、消費者行政推進担当大臣、自民党総務会長などを歴任。2011年には10年間の不妊治療を経て50歳で出産。

女性ホルモントラブルにメディカル&セルフケア

NPO法人 女性医療ネットワーク理事長
対馬 ルリ子 氏
産婦人科医として自身のクリニックを持つとともに、女性のための総合医療を実現するためにNPO法人を設立。様々な情報提供、啓発活動、政策提言を行う。

健康経営の実践を新たな企業文化に

経済産業省商務情報政策局 ヘルスケア産業課長
江崎 禎英 氏
通商政策、金融制度改革、IT政策、外国人労働者問題、エネルギー政策などを担当して現職。「健康経営」で企業の競争力向上を推進する施策を展開する。

正確な知識をもとにライフプランの設計を

スポーツコメンテーター/元プロテニスプレーヤー
杉山 愛 氏
現役時代にはグランドスラム女子ダブルスで3度優勝。2009年に34歳で引退した後は、次世代の育成にも力を注ぐ。2015年に第一子を出産。

様々な不調を招く女性ホルモンの変動

後藤:
国を挙げて女性の活躍を推進しているいま、若い世代の仕事への意欲が大幅に向上するなど、女性の社会進出は大きく進みつつあります。しかし、その一方で女性の健康に対する理解やサポートは十分とはいえません。東京大学の大須賀穣教授は「月経時の体調不良に伴う社会的労働損失が年間約7千億円に達する」と語ります。
野田:
正直にいうと、政治の世界も出産・子育てがしにくく、女性の特性を生かしきれない環境でした。日本の女性政策・健康政策が遅れていることは否めないと考えています。
後藤:
それでは対馬先生、女性の健康と密接に関わる女性ホルモンについて教えてください。
対馬:
ホルモンは体の機能を調節する微量の生体物質。子孫を残すために働くのが、卵巣から出る女性ホルモンと精巣から出る男性ホルモンです。男性ホルモンが精子をつくるために毎日出続けるのに対して、女性ホルモンはエストロゲンとプロゲステロンの2種類が大きく増減し、月経周期が生まれます。卵子がなくなってエストロゲンの分泌が減少すると、心身は多大な影響を受けますが、これが女性の更年期です。更年期症状を含め、女性ホルモンの変動による不調には低用量ピルを応用した治療法が効果的。月経前の諸症状の抑制など、様々な目的で使われるようになってきています。
杉山:
いまはほとんどのトップ女子アスリートが低用量ピルを使って月経をコントロールしています。知り合いの選手は現役時代にずっと使用していましたが、引退後はすぐに妊娠・出産することができました。
対馬:
「女性ホルモントラブル」へのメディカルケアとしては、ほかに「ホルモン補充療法」「漢方」「抗うつ剤」も。「バランス良い食事」「ウォーキング、ストレッチ」「メンタルケア」「サプリメント(エクオールなど)」等のセルフケアと両立させることも大切です。

若い頃からの教育で理解の促進へ

後藤:
妊娠・出産に関しては、高齢出産が増加しています。
吉村:
体外受精や胚移植によって高齢でも妊娠できるようになってきていますが、その場合にはかなりのリスクを伴うことを理解しなければなりません。
野田:
現在の文部科学省の学習指導要領では「何歳まで自然妊娠できるか」など、妊娠・出産にまつわる基礎的な知識を得ることができないのが実情。ここにいるすべての人が教わっていないわけで、これからは教育に組み入れていくことが必要でしょう。不妊治療を行うと、女性は仕事を続けられなくなり、経済的に苦しくなることも少なくないですから。
吉村:
更年期以降の健康維持においても、若いうちから健康管理をしていくことが肝心。つまり一番大事なのは教育なのです。産婦人科医師として、国と一体になって教育に取り組んでいきます。
杉山:
女性には、結婚・出産やそれに伴う働き方の選択など、ライフステージ上の「ビッグデシジョン」が数多くあります。結婚や出産をするかしないか、またその時期は、あくまで自分の決断次第ですが、後で知って悔やむことがないよう、きちんとした知識を得て、長いスパンでライフプランを立ててほしいですね。

男女が働きやすい社会への変革を

後藤:
男女雇用機会均等法の制定から30年が過ぎましたが、女性が健やかに働き続けられる世の中を実現するためには、どうすればいいのでしょうか。
江崎:
日本社会は男性中心といわれますが、必ずしも男性にとって働きやすいわけではありません。女性を受け入れるための議論にとどまらず、社会そのものをどう変えるかを議論すべき時に来ています。少子高齢化が進み、社会が成熟していく中で、どのような働き方が望ましいのかを考えることが必要でしょう。モノもサービスもあふれている時代には、効率化一辺倒の発想ではビジネスは成り立ちません。「お客様の視点を取り入れる力」は女性の方が優れているのではないでしょうか。
対馬:
男女が性差についての科学的な知識を共有し、理解し合うことも大切です。
江崎:
従業員の健康を経営戦略と捉える「健康経営」に取り組む企業が増えています。従業員が生き生きと働ける環境づくりの中に、女性の健康や性差を加味した内容を含めていくことが重要だと思っています。

トータルに支える医療を目指して

後藤:
金沢医科大学の女性総合医療センターは、2002年の誕生後、組織改定でなくなりましたが、患者さんのニーズに応えるため、経営陣の理解のもとで昨年4月に再開設されました。勤務医は「患者さんの話をしっかり聞いて診療したいが、診療報酬点数で考えると、病院に経営上の問題が生じることがある」と言います。
対馬:
私も「女性のための総合医療」に取り組んでいるところ。産婦人科だけでなく、内科、心療内科、乳腺科、泌尿器科、そして、マッサージやアロマ、漢方まで、トータルかつ予防的に健康をサポートしています。ただ、病気になる前の相談や検診が多く、個人負担が増えてしまうのです。
江崎:
日本人女性の平均寿命は男性よりも長く、間もなく90歳に達します。しかし、高齢になっても元気なままでいるお年寄りは男性の方が多いのです。そうした例は中小企業の会長に多いといわれていますが、適切に栄養を摂取し、社会的役割を持ち続ければ、女性はもっと長く健康でいられると思われます。

普及・啓発活動を国民運動に

後藤:
最後に皆さんからメッセージをお願いします。
杉山:
まずは自分の体について理解することが重要だと思います。ちょっとした不調でも相談できる「かかりつけ医」を持つなどして、医療にも頼りながら健やかに輝き続けたいものです。
江崎:
大切なのは、性別に関わらず、すべての人々が「知ること」「受け入れること」「変わること」だと思います。より多くの女性が社会に進出し、働き続けることが、企業文化を変える重要な契機になるでしょう。女性が働きやすい社会は、男性にとっても働きやすい社会になると考えています。
野田:
政府としても、女性の健康や医療に関する制度の整備を推し進めます。妊娠・出産・育児をする方や障害を持った方でも就労し続けられる“やさしい働き方”をスタンダードにしていくことが大事です。そして、これからは「働くこと(ワーク)」が前にくる「ワーク・ライフ・バランス」ではなく、「ライフ・ワーク・ホルモン・バランス」を意識した政策に取り組んでいきます。
吉村:
女性の健康に関する正しい知識や男女の体の差異を知ってもらうために、産婦人科医師だけでなく、他科の医師や医療従事者と協力して普及・啓発を行っていくつもりです。また、このシンポジウムのような活動が国民運動になることを期待しています。
<司会進行>
NHK「きょうの料理」アナウンサー
後藤 繁榮 氏
取材レポート
女性の心身を支えるための取り組み事例

産婦人科医師らが主宰する勉強会

【女性ホルモン塾】

 女性ホルモンに関する情報や生涯を通じた健康管理について学ぶことができる、女性のためのセミナー。これまでに100回以上開催されてきました。参加者が「学校では教わらなかったことなので、いい経験になった」と語るように、多くの人にとって実りある機会になっています。

受験生に婦人科受診を指導

【メディカルフォレスト自由が丘】

 この女子生徒専門の医学部予備校では、試験当日に月経がぶつからないよう、事前の婦人科受診を指導。ベストな体調で悔いのない結果を残すために、自分の体と真剣に向き合うことを教えています。一つの選択肢として、低用量ピルの服用をアドバイスすることもあるそうです。

男性社員向けのセミナーを開催

【大塚製薬株式会社】

 女性の健康問題を積極的に取り上げる企業が増える中、男性管理職を集めての女性健康セミナーを開催。「女性の体のリズムを意識して接していなかったので反省した」「これまでは、こうした話題に触れていいのか迷いがあった」など、参加者からは様々な意見が聞かれました。

【主催】
ウィメンズ・ヘルス・アクションシンポジウム実行委員会、読売新聞東京本社
【後援】
内閣府男女共同参画局、厚生労働省、経済産業省、(公社)日本産科婦人科学会、(公社)日本産婦人科医会、(公社)日本医師会、(公社)日本女医会、(公社)日本助産師会、(公社)日本薬剤師会、(特非)女性医療ネットワーク、(特非)女性の健康とメノポーズ協会、(特非)日本医療政策機構(HGPI)、(一社)日本女性医学学会、(一社)日本家族計画協会、(一社)日本女性医療者連合、ウェルビーイング政策を提言する女性医師懇話会 ※順不同
【特別協賛】
大塚製薬株式会社
【協賛】
オムロン ヘルスケア株式会社、花王株式会社、ドコモ・ヘルスケア株式会社、日本生命保険相互会社

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