早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

読売新聞オンライン

ホーム > 研究力 > WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

スポーツ医学からスポーツビジネスまで
複合的な学術教育研究拠点を形成

アクティヴ・ライフを創出するスポーツ科学(2009年度グローバルCOE採択)

 国際的に卓越した教育研究拠点の形成を重点的に支援し、国際競争力のある大学づくりを推進する文部科学省「グローバルCOE(Center Of Excellence)プログラム」は、2009年度にその採択の最終年度を迎えた。3年間の採択年度を通じて、早稲田大学のグローバルCOE拠点は全8拠点となり、私立大学としては最多を誇る。

拠点リーダーを務める彼末教授

 グローバルCOE最終年度は、「学際、複合、新領域」分野での公募が行われ、全国の145件の応募提案の中から9拠点が採択された。その1つに選ばれたのが、早稲田大学のプログラム「アクティヴ・ライフを創出するスポーツ科学」である。同プログラムは、スポーツ科学学術院のメンバーが中心となって提案された。スポーツ科学という分野で、日本で唯一のグローバルCOE拠点に選ばれた同プログラムについて、拠点リーダーの彼末(かのすえ)一之・スポーツ科学学術院教授に話を聞いた。

3つのプロジェクト、3つの研究領域

 グローバルCOE拠点「アクティヴ・ライフを創出するスポーツ科学」が目指すのは、スポーツ科学という学際的な教育研究での早稲田大学の独自な展開をベースに、アクティヴ・ライフ=すなわち、心と体の健康のみならず、人々が活力をもって生きることのできる地域や社会のあり方を追究することである。

 「第1に子どもの健康、第2に中高年の健康の向上が、世界共通の問題となっています。加えてトップアスリートの育成が、社会的なスポーツの裾野を広げるうえでとても重要なファクターであることが、世界共通の認識となっています。この3つの柱をプロジェクトのテーマとして、個別テーマの科学的研究はもちろん、スポーツ振興の実践や政策提言を含めて、社会的な問題解決につなげていくところまでを目指しています」(彼末教授)

アクティヴ・ライフの創出へ向けて
トップスポーツの頂点を高く引き上げることは、社会全体のスポーツへの取り組みの裾野を広げ、ひいては健康で活力ある社会の創出へとつながる

 3つの研究プロジェクトとして、(1)IT普及社会における子どもの体力低下抑止と健全育成促進、(2)医療・介護(社会保障)負担の軽減と中高年の生きがい創出、(3)人類幸福の実現のためのトップスポーツ興隆の方策追究、のテーマを立てるとともに、これらに対して、(A)アナリシス&アセスメント領域、(B)ビジネス&マネジメント領域、(C) コーチング&クリニック領域という、3つの学問的アプローチを横断しながら取り組んでいる。

 「健康づくりというのは、医学系の人たちだけでは解決できない課題です。医学・医療の世界でいわれる健康というのは、治療や予防といった“悪い状態を改善する”、“悪い状態にならないようにする”というネガティブな見方の延長にあります。これに対して“良い状態を、より良くしていこう”という、本来の積極的なアプローチで健康について考えることができるのが、スポーツ科学なのです」(彼末教授)

 人間と健康を科学することに加えて、「健康な人々を生み出す活力ある社会づくり」までを射程に入れて、経営学、社会学、政治学、文化人類学、歴史学など、人文・社会科学を含めた総合的な学際領域を構成しているのが、早稲田大学のスポーツ科学の大きな特色である。世界的なスポーツ科学の拠点を見ても、ここまでの広い射程をもってスポーツ科学に臨んでいる拠点は、世界的にも類を見ない。

10年前からスポーツ科学の教員が中心となり、所沢市および地域住民との連携のもと、早稲田大学所沢キャンパスを拠点とする総合型地域スポーツクラブ「Waseda Club 2000」を組織し、クラブ会員に対して自発的に運動やスポーツを楽しむ場を提供するとともに、会員相互の親睦を図ってきた(写真は2010年2月6日所沢キャンパスで開催されたWaseda Club 2000 10周年記念イベント)。こうした長期的な地域連携による信頼関係の形成が、プロジェクトの研究を進める上でも大きな力となる。

トップアスリートとの強力な連携

様々なスポーツパフォーマンスの規定要因について、トップアスリートから重要な知見を導き出す

 早稲田大学のスポーツ科学のルーツは、東京オリンピックが開催された1964年、教育学部に体育学専修が設置されたことにさかのぼる。その後1987年には、時代のスポーツ科学への要請に応えて、所沢に最新のスポーツ施設や実験設備を整備し、人間科学部スポーツ科学科として再編される。そして2003年にはスポーツ科学部として独立し、2006年には大学院スポーツ科学研究科が創設されるに至っている。

 早稲田といえば、OB・OGでは陸上長距離の瀬古利彦、フィギュアスケートの荒川静香や村主章枝、現役学生では野球の斎藤佑樹、スピードスケートショートトラックの桜井美馬など、たくさんのトップアスリートが思い浮かぶ。早稲田大学のスポーツ科学の発展にとって、こうしたトップアスリート選手の存在は、大きな意味を持ってきた。

トップアスリートから得られた知見は、中高年者や子どもたちの健康づくりにも活かされていく(上下写真二枚とも、スポーツ科学学術院・川上泰雄教授の研究より)

 「トップアスリートというのは、超人的な身体能力を持っている人たちです。彼ら彼女らの身体能力を研究することは、トップアスリート育成に何が必要かを知るのはもちろんのこと、人間の身体能力とは何かを探ることに大きく貢献します。 例えば、世界記録を持っているアメリカの陸上短距離選手と、日本のトップ選手のMRI画像を撮影して比べて見ると、大腰筋の厚みが日本の選手の何倍もある。研究の結果、この大腰筋が走りに効いてくることが分かってきました。走る技術以前に、筋トレで大腰筋を鍛え直さないと、到底勝てないのです。超人的なアスリートは何が違うのかを科学的に知ることが、コーチングの鍵を握ってきます」(彼末教授)

 しかし、トップアスリートを被験者にして研究を行うのは、ふつう困難を伴う。練習や試合に日々追われている彼らに、研究者が実験に協力してもらうための依頼や承諾を得るのは、並大抵なことではない。
「ところが早稲田では、キャンパスのその辺りを、有名選手がふつうに歩いていますからね(笑)。同じ教室で講義も受けています。仲間ですから信頼関係も形成しやすい。この環境は、得がたいものがあります」(彼末教授)

手厚く、かつ厳しく博士人材を育成

 グローバルCOEの根底にある大きな目的が、じつはこうしたプロジェクトを通じて、スポーツ科学の総合的な知識を身につけた人材育成を推進することにある。グローバルCOEの活動には、スポーツ科学学術院の教員全員と、スポーツ科学研究科の博士課程の学生全員が参加し、総力体制で取り組んでいる。

 「スポーツを下支えする多くの分野において、特に科学的に高い専門性を持った人材が不足しています。本拠点では高い専門性と幅広いスポーツ科学の知識を兼ね備えた人材の育成を活動の中心に据えています」(彼末教授)

 早稲田大学スポーツ科学研究科は、医学、生理学から工学、ビジネス、スポーツ選手・コーチ出身者などまで、多彩な教員が集結していると同時に、ほぼ教員全員が博士学位を有している。複合性と学術性の双方を兼ね備えた、まさにスポーツ科学の一大メッカを形成しているといっていい。
学生に目を転じれば、スポーツ科学研究科の入学志願者は年々増加しており、2010年度4月期には、50名が博士課程に入学した(うち社会人10名、留学生10名程度)。

 学生への経済的支援も手厚い。早稲田大学が昨年度より開始した30歳未満の学生への授業料相当額の奨学金保証に加えて、優秀な学生はリサーチアシスタントとして雇用され、月5~15万円が支給される。さらに最も優秀な学生数名は、海外拠点への長期派遣留学ができる。
「競争的になりすぎるのもどうかと思いますが、世の流れがそうなってしまっているので、研究者として生き抜いていけるよう、実績主義を徹底して厳しく指導していくことも必要だろうと考えています」(彼末教授)

 グローバルCOEに先立つ2008年度には、最初のスポーツ科学の博士号が10名に授与されている。さらに前身の人間科学研究科時代には、陸上短距離のトップアスリートだった土江寛裕氏がいる。2004年アテネ五輪の400mリレーの第一走者として4位と健闘。トップ選手として活躍するかたわら、早稲田の博士課程に籍を置き、短距離走の徹底的な科学的分析を行った。2006年引退後はコーチに転身、北京五輪のナショナルチームのコーチとして科学的知見を活かしたコーチングを行い、400mリレーチームを銅メダルへ導くことに貢献した。文武両道を体現する彼はスポーツ科学研究を目指す後輩の良いモデルである。

 「スポーツ科学は、まだ成熟していない新しい領域です。グローバルCOE拠点の採択を大きなバネとして、各分野の教員が横断的に連携し、若い人材を育てていくと同時に、彼らの将来の活躍のためにもスポーツ科学の社会的な価値を高め、早稲田のスポーツ科学の国際的な存在感を高めていくことが必要です」(彼末教授)

 世界のスポーツ科学のトップ拠点との連携ネットワークも形成している。北米のトップ拠点であるカルガリー大学をはじめ、英国のラフバラ大学、ドイツのケルン体育大学、アジアでは上海体育学院、北京体育大学、清華大学、ソウル大学、台湾師範大学などと連携協定を結び、共同研究はもちろん、相互に優秀な学生や研究生を派遣するプログラムを構築している。

 「研究者として成功するには若い時に、その研究分野のメッカといえるような拠点に留学することが、大きな力となります。最先端の研究環境に身を置くことはもちろん、世界の研究者仲間とのネットワークを築くことが、その後の研究者人生において、何よりも重要な財産になりますからね」(彼末教授)

第2回国際シンポジウム(2010年3月6日)にて、国内外からのゲスト、本拠点の事業推進者、参加登録学生ら

 研究環境、地域や行政との連携、ビジネスとの連携、それぞれを見ていくと、欧米のトップ拠点とのあいだにはまだまだ格差がある。この格差を、総合力・複合力で乗り越え、日本のスポーツ科学を世界水準に向上させるために、早稲田大学のスポーツ科学は次のステージへ飛躍しようとしている――。

関連リンク

早稲田大学 グローバルCOEプログラム「アクティヴ・ライフを創出するスポーツ科学」
http://sport-sciences-gcoe-waseda.jp/index.html

早稲田大学 スポーツ科学学術院
http://www.waseda.jp/sports/

早稲田大学 スポーツ科学部
http://www.waseda.jp/sports/supoka/index.html

早稲田大学 スポーツ科学研究科
http://www.waseda.jp/sports/supoken/index.html

早稲田大学 スポーツ科学研究センター
http://www.waseda.jp/sports/ssrc/index.html