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研究力

▼WASEDA研究特区―プロジェクト研究最前線―

世界的な「研究大学」へ――
早稲田の挑戦(トライ)を演出する頭脳集団

研究戦略センター

 「世界的な研究大学を日本の私立大学から生み出す戦略はどうあるべきか?」――こうした思いを実現に移すため、2009年4月、早稲田大学に新たに「研究戦略センター」が設置された。研究大学(リサーチユニバーシティ)とは、公共および民間の研究資金をベースに、地球社会に貢献する高度な研究活動と優れた人財育成を行う卓越した大学を指す。戦後、米国ではこうした研究大学を世界に先駆けて発展させることによって、学術研究の国際競争力を揺るぎないものにしてきた。

研究戦略センターのスタッフたち(右から4番目が中島所長)

 そして1990年代以降、世界の大学をめぐる状況は大きく変容してきた。20世紀の右肩上がりの成長の時代が終わりを遂げ、戦後産業界が企業内部に築いてきた研究開発体制の見直しを図る中で、21世紀の社会と経済の成長の担い手としての新たな役割が、大学に期待されるようになった。世界中のあらゆる国々で、産学官連携、技術移転、知的財産の活用などが、大学の新たな戦略として重視されるようになってきた。

 さらにはグローバル化の中で、産業界と同様、大学間の激しい競争と戦略的連携が展開され始めている。大学は、自らの強みをより強くするために、そして弱い部分を補完するために、国境を超え、距離を超えて、相互連携のネットワークを結び合うようになった。その中心となるのは、教員個人レベルの連携に加えて、大学対大学の、組織間の戦略的ネットワークである。

研究戦略センターの所長を務める中島啓幾教授

 世界的な研究大学となるには、このような厳しい競争的環境の中で、戦略的な研究活動と戦略的な連携を展開し、存在感のある大学として認知されていかなければならない。研究戦略センターは、そうした挑戦を実現させるための大学内のシンクタンクとして設置された。その構想と取り組みについて、中島啓幾(ひろちか)・研究戦略センター所長(理工学術院教授が本務)に話を聞いた。

全学的な研究展開の新体制へ

 世界の動きに遅れまいと、日本では1995年に制定した科学技術基本法(文部科学省ホームページ)のもとで、「科学技術創造立国」への変革を目指した科学技術基本計画(文部科学省ホームページ)が策定され、日本の大学政策に競争的な視点が持ち込まれてきた。その象徴的な施策が、日本に世界的な研究教育拠点を創出するための一連のCOE(センター・オブ・エクセレンス)プログラムである。21世紀COEプログラム(日本学術振興会ホームページ)(2002年~)、グローバルCOEプログラム(日本学術振興会ホームページ)(2007年~)の展開の中で、採択大学の範囲は段階的にせばめられてきた。グローバルCOEともなれば、採択大学は、東大をはじめ旧帝大系の国立大学と、私立大学では早稲田、慶應など10大学程度に絞り込まれた。その間、2004年4月には国立大学の法人化が敢行され、私立大学のみならず、国立大学もまた自主自立の経営を行う主体として生まれ変わった。

 「一連の競争的政策は、国立大学だけではなく私立大学にも大きく門戸をオープンにするもので、この環境の変化は、本学にとってはまさに飛躍のための機会となっています。しかしながらこの10年間、研究・教育体制の大改革を進めてきた中で、いろいろなひずみも出てきています。研究戦略センターの設置は、研究大学へのさらなる飛躍に向けて、大学運営の基盤の一角をしっかりと確立させようという意図があります」(中島所長)

全学的な研究展開の新体制(2009年4月~)

 研究戦略センターの設置へ向けた全学的な合意形成は、2008年7月になされた。準備委員会が結成され、2008年の暮れに最終的なディスカッションが行われ、そこで共有された大枠のプランのもと、2009年1月には準備室が設置された。中島教授が研究推進部長を辞して準備室長に就任し、3ヵ月後の4月にはセンター開設へと至っている。こうした迅速な展開がなされたのも、早稲田大学が目指すべき「世界的な研究大学」というビジョンへ向けて、一貫性をもって改革に臨んできているためである。

 早稲田大学では、これに先立つ2004年9月に、教員が学部、研究科(大学院)または研究所のいずれかに所属する制度を止め、学問分野の系統ごとに所属を一体化した「学術院」という新しい体制を導入している。学部・学科しかなかった時代とは異なり、一人の教員が学部・大学院・研究所の複数に同時に関わることが当たり前となったためにいわゆる「本属」を狭く固定化することでむしろ弊害が出てきたことに対処するための対応ともいえる。ただし、これはあくまでも高等教育組織と専任教員(およびその構成する教授会)との関係を再定義するべきものであったともいえよう。

 これに対して今回、研究戦略センターの設置と表裏一体の施策として、新たに「研究院」という体制が導入された。研究院は、早稲田大学が重点化すべき領域の研究を、全学を横断して研究者を結集し、推進していくことを使命とする。これまでも重点領域については、COEプログラムをはじめ、様々なかたちで研究拠点を形成してきたが、新体制のもとでは、「研究大学としての早稲田」を明確に形成していくための、より主体的な研究活動へ重点を置いていくことが目指されようとしている。

 そのために研究戦略センターでは、全学の研究活動についての調査分析を行い、重点的な領域の選定やその研究戦略立案に必要なデータや計画案を提供していく。「学内のあらゆる研究活動に対して、戦略的な目配りをしていくのが我々の役割ですが、その中でも、研究院へのサポートは最も重要な柱のひとつとなっています」(中島所長)

 これらの組織改革と同時に、従来の「研究戦略会議」を「全学研究会議」へと改組充実した。従来の研究戦略会議の役割の多くを、研究戦略センターと研究院が担う一方で、「全学研究会議」は、大学総長を議長とし、研究にかかる全学的な方針の策定、諸課題を議論する場として、新たに位置づけられた。全学研究会議は研究推進部が所管してその事務局機能を推進している。

日本型アドミニストレーションの確立

 従来、早稲田大学では、研究活動のアドミニストレーション(管理・運営)業務は、事務部門の研究推進部の担当とされてきた。公共・民間からの外部研究資金が100億円規模へと推移する中で、研究推進部も体制を強化してきたが、事務スタッフだけで戦略的な研究運営をフォローすることは並大抵なことではない。そこで、研究推進部ではこなしきれない専門的な調査・分析活動、戦略立案活動を担うために、教員系列の専従スタッフを配置したセンターとして、研究戦略センターは組織化された。

2011年新設予定のイノベ―ティブ研究拠点「グリーン・コンピューティング・システム研究開発センター」(建屋パース:喜久井町キャンパス下)

 「米国で開催される国際会議を訪れると、“プロフェッサー/アドミニストレーター”と、2つの肩書を並べたカテゴリーで職種を分類したアンケートに記入をさせられることがあります。アドミニストレーターは、単なる事務職ではなく、高度な専門知識を有した専門職として確立されているようです。日本の大学ではアドミニストレーションという概念そのものが確立していないのですが、グローバルな研究大学を目指すうえで、この機能は不可欠です。我々が目指すのは、研究推進部と協力しながら、リサーチ・アドミニストレーションの機能を確立するとともに、リサーチ・アドミニストレーターという専門職を日本に確立・定着させていくことです。米国の例をそのまま真似ればいいとは思っていません。日本の大学制度、本学の文化・風土に合った機能・性格を追究していくべきだという考え方で一歩一歩実現を目指します」(中島所長)

 現在、研究戦略センターのスタッフは決して多くはないが、所長以外に専従の教員5名で活動に取り組んでいる。3名が政府系研究機関などですでに研究計画や研究評価に関する豊富なキャリアを有する一方、2名は若手の研究経験者を登用している。これらのスタッフを中心としながら、課題に応じて臨機応変に、本部および各箇所の教職員らとタスクフォースを組んで、非定常的な業務にあたっている。

 発足してまもない2009年春から、すでに大きなプロジェクトも手がけている。低消費電力かつ高性能な次世代プロセッサの研究開発・応用開発などを産学官連携で行う「グリーン・コンピューティング・システム研究開発センター」を学内に創設する計画にあたり、研究推進部と研究戦略センターが学内・学外との折衝を行いながら主導的な役割を果たしてきた。その結果、平成21年度「先端イノベーション拠点整備事業(経済産業省・関東経済産業局ホームページ)」(正式名称:産業技術研究開発施設整備費補助金)の採択を受けることに成功し、経済産業省から補助を受けることが決まった。2011年春に竣工・センター開設の予定である。

「大競争・連携」の時代を生き抜く

センターでのディスカッション風景

 早稲田大学は、日本の私立大学を代表する立場として、また日本の大学人を代表する立場としても、内外へ積極的な意見を発信し、世論形成や政策決定にも影響を与えていくことが望まれている。研究戦略センターは、そのための知恵袋としての役目も担っている。「大学の連盟・連合、政府の審議会・委員会、国際的な会合など、本学に要請があって、総長はじめ幹部が出席していく機会が多くあります。そこで何をどう主張し、どう誘導していくのか――学内のことだけではなく、国内や世界の状況も見据えて、調査分析と提案・提言を行っていくこともこのセンターの役割といえます」(中島所長)

 日本の大学は、世界の中でも国際(グローバル)化への対応に遅れているといわれる。欧米の大学はもとより、最近では、中国、韓国、台湾、シンガポール、インドなど、近隣アジア諸国の大学の台頭がめざましい中で、うかうかしていられない状況にある。「研究力指標ランキングでより上位に入っていく努力を行っていく。そのために、優れた研究戦略を構築することで研究環境を向上し、研究の質を上げていくことが、当面の達成目標です。そのためには限られたリソースを最大限に活かすことが肝要です。学内外、国内外の優れた連携もまた、極めて有効な手段となり得るはずです。」(中島所長)。

 早稲田大学は、“大競争・連携”の時代を生き抜いていくためのビジョンを形成し、かつそれをかたちにしていくという壮大な課題を、研究戦略センターを核として追究していこうとしている――。

関連リンク

早稲田大学研究戦略センター
http://www.waseda.jp/rps/system/support/crs/

早稲田大学研究院
http://www.waseda.jp/rps/system/ResearchCouncil/contents/index.html

早稲田大学研究ポータル
http://www.waseda.jp/rps/system/index.html