早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

読売新聞オンライン

ホーム > オピニオン > スポーツ

オピニオン

▼スポーツ

作野 誠一(さくの・せいいち)早稲田大学スポーツ科学学術院准教授 略歴はこちらから

外部指導者は運動部活動を変えられるか
─ さらなる普及・定着に向けた覚書き ─

作野 誠一/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

開かれた学校と部活指導の外部化

 今年9月、大阪市が来年度から市立中学校の運動部活動において指導の本格的な外部委託(民間委託)を始める方針を示し話題を呼んだ。運動部活動めぐっては、社会問題化した体罰・暴力はもとより、少子化による廃部数の増加、専門的な技術指導ができる教師の不足、異動に伴う顧問の確保など数多くの問題が指摘されている。さらに、土日等の超過勤務への対応(代休や処遇など)が著しく遅れていることも深刻な問題となっている。現行の学習指導要領では、部活動が教育活動の一環であると明言されているが、ただでさえ多忙な教師が、過酷な労働条件のなか十分な部活指導を行うことは、ますます困難になっている。

 ところで、これからの学校が特色ある魅力的な学校づくりを進めていくには、学校内ですべてが完結する「閉じた学校」から、地域や外部との連携・協力を志向する「開かれた学校」への転換が必要といわれて久しいが、部活指導の外部化はこの転換をわかりやすい形でわれわれに示す場となるかもしれない。子どもたちに豊かな経験を提供する場をめざしながら、そのための条件を十分に整えることができない──「開かれた学校」というビジョンの背景には、こうした理想と現実のギャップがあることもおさえておく必要がある。ここでは、スキャニング(探索)とコーディネート(調整)という2つの視点から、この溝を埋める方策について考えてみたい。

部活動の支援者を見きわめる

 部活指導に外部指導者を導入するのは今回の大阪市が初めてというわけではなく、国の事業としてはすでに90年代から実施されており広がりをみせてきた。今年度、全国の中学校では28,778人の外部指導者が活動している(日本中体連HPより)。この外部指導者には、民間事業者だけでなく、地域の指導者、多様な団体・組織のメンバーも含まれている。最近では、多種目・多世代・多目的を特徴として全国各地に設立されている「総合型地域スポーツクラブ」と連携する部活動もみられるようになってきたが、いずれの連携事例も、総合型クラブと部活動は共存・協調しあう関係にあり、子どものスポーツ環境を「地域全体」というトータルな視点から整えていこうとする姿勢において共通している。また、大学と運動部活動の連携・協力事例もみられるようになっている。人材面、施設面、また情報面においても豊富な資源を有する大学の支援は、部活動活性化の起爆剤にもなっている。さらに、部活動活性化のために、地方の競技団体を介して外部指導者を採用するケースもある。地域団体には指導者に関する情報が集約されていることから、学校と競技団体との連携もまた注目に値するといえよう。このほか民間事業者に指導の支援を要請するケースでは、中学校における休日の運動部活動の練習を企業に委託し、保護者が費用を払うというプロジェクトが進行中である。この事例は、都市部ならではの取り組みともいえるが、教師の善意と負担に全面的に依存してきたこれまでの運動部活動のあり方を、改めて見直すきっかけともなっている。

 ここまでの事例に共通していえることは、学校や自治体が「開かれた学校観」に立ち、数ある選択肢のなかから最適と思われる外部の指導者(支援者)を見きわめる力量と、現状変革のための実行力をもっているということである。その意味で、これからの学校や自治体には、「学校の外部にはどのような指導者(支援者)がいるのか」、また「どこと連携すれば運動部活動がよりよいものとなるのか」というスキャニング(探索)能力が強く求められることになる。

学校・外部指導者・子どもをつなぐ

 外部指導者制度をめぐっては、いわゆるスポーツリーダーバンクの活用が注目されている。ある市では、自治体の主導で運動部活動に特化したスポーツ指導者バンクが設立された。この情報システムは、地域指導者の効果的・効率的な活用を促すものであり、自治体による人材のコーディネートということができる。また、教師にもコーディネート能力が求められる。先述のとおり学習指導要領では、部活動が教育活動の一環であると明言されているが、外部指導者の採用にあたって学校が留意しなければならないことは、教育活動の一環としての部活動が、学校教育の枠から外れないよう適切に管理することであろう。例えば、外部指導者には部活動があくまでも教育活動の一環であるということ、基本的な指導の方針、どのような子どもを育てようとしているのかといった基本的な事柄について事前に説明し、十分理解してもらわねばならない。教師と外部指導者の明確な役割分担と相互理解の質が問われるようになれば、教師には学校と地域(外部)を橋渡しするコーディネート能力がこれまで以上に求められることになる。

 教師や指導者のコーディネートということに関連していえば、部活動という場における学びのコーディネーターとしての側面も強調しておかねばならない。学習指導要領の総則では、部活動について「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」(傍点筆者)という一文が加えられている。これは、部活動が教育課程において学んだことをふまえて自らの興味・関心をより深く追求する場でもあることから、生徒自身が教育課程において学んだ内容について改めて認識できるよう促すことが大切という主旨である。これを実践するためには、部活動における学びを支える教師の役割が重要になることはいうまでもない。

まとめにかえて

 部活動が教育活動の一環として位置づけられる以上、外部への委託は決して「丸投げ」になってはならない。また、ひとくちに外部といってもその選択肢は多岐にわたる。自治体や学校、そして教師が、外部の指導者(支援者)を見きわめる能力を高め、それぞれをうまく結びつける力を身につけることが、さらに外部指導者を普及・定着させるための鍵となるであろう。

作野 誠一(さくの・せいいち)/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

富山県生まれ 2000年金沢大学大学院社会環境科学研究科博士課程修了,博士(学術),2001年福岡県立福岡女子大学文学部講師 2003年早稲田大学スポーツ科学部専任講師 2006年より現職,専門分野は体育・スポーツ経営学/スポーツ組織論,主な著書として『総合型地域スポーツクラブの発展と展望』(共著,不昧堂,2008),『スポーツマネジメント』(共著,大修館書店,2008),『テキスト 総合型地域スポーツクラブ』(共著,大修館書店,2004)ほか,運動部活動関連としては「学校運動部のジレンマ」(現代スポーツ評論24,2011),「少子化時代と運動部活動」(現代スポーツ評論28,2013),「外部指導者・外部団体との連携をどう図るか」(体育科教育61(3),2013)ほか