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原田 宗彦(はらだ・むねひこ)早稲田大学スポーツ科学学術院教授 略歴はこちらから

秘策で決めた 東京五輪招致
オールジャパン戦略で世界に実力を

原田 宗彦/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

 日本時間の2013年9月8日の明け方、2020年オリンピック大会の開催地が東京に決まった。今回は、前評判の高かった東京が、汚染水問題というハードルをうまくクリアすることによって、ブックメーカーの予想どおり1位で開催地に選ばれた。これまでの五輪招致では、オッズが1番人気の都市は落選するというジンクスを、東京は見事に打ち破ったことになる。以下では、オリンピック招致がなぜ成功したのかについて概説するとともに、今後、2020年大会を契機とする都市づくりの課題を幾つかのポイントにまとめた。

 招致レースの序盤では、「イスラム圏初の開催」と「東西の融和」をセールスポイントにしていたイスタンブールが他都市を一歩リードし、しかも5回目の挑戦ということで本命視されていた。しかし頻発する反政府デモや、長期化する隣国シリアの内戦、そして大量のドーピング違反者の発覚といったマイナス要素が重なり、後半は失速気味となった。

 もう一方のライバル都市であるマドリードも、長引く経済不況による記録的な失業率(27%)や、緊縮政策に抗議するデモの出現といったマイナス要素が影響し、前評判は決して高くなかった。しかしながら、招致レースの最終局面において、フェリペ皇子を前面に出した皇室外交によって強烈な巻き返しを狙い、スペイン語圏のブエノスアイレスに乗り込んでからはレースの1番手に躍り出る勢いを見せ、最後は、東京都との一騎打ちになるのではないかと心配された。

 今回の招致レースは、本命無き戦いと言われたように、どの都市が決まってもおかしくない混戦模様を呈した。東京が勝った理由の一つは、「2巡目の戦略」である。前回の16年招致では、最初の投票で22票を獲得するも、2巡目には2票減らして20票で敗れ去ったように、2巡目で票を上積みできないと勝つことができない。そこで今回は、2段構えの戦略を取り、たとえ1巡目の投票は期待できなくとも、投票した都市が敗れた時は、東京に入れてもらえるように約束を取り付けた。その結果、イスタンブールは1巡目の26票から10票上積みし36票を獲得したが、東京は、42票から18票伸ばして60票を獲得することに成功した。

 戦後、成熟した大都市でオリンピックの夏季大会を開催したのは、ロンドン(1948年・2012年)と、東京(1964年・2020年)であり、アジアでは東京が初めてとなる。それゆえ、1964年大会のレガシーを活用しつつ、どのような都市づくりを行うか、前例のないオリジナルな「東京モデル」の創出が必要とされる。2020年大会については、85%の施設が半径8キロ内に配置されるため、2012年ロンドン大会で見られたイーストロンドン地区のような大規模な再開発計画は予定されていないが、世界中の関心が集まる中、超高齢化社会に対応した、完全バリアフリーの都市づくりという社会実験に挑戦してみるのもひとつの方向性である。近似の文脈の中で、パリ市が近未来のオリンピック大会の招致を目指して2009年に導入した公共の貸自転車制度の「べリブ」や、2011年に導入した電気自動車(EV)シェアリングシステムの「オートリブ」のような事業の東京モデルを創出するのもアイデアのひとつである。

 IOCとJOCとの間で開催都市契約を交わした東京都は、今後「東京オリンピック組織委員会」(TOCOG)を設置し、IOC理事会の監督のもと、オリンピック大会の開催に向けて準備の一歩を踏み出すことになる。2016年リオ五輪の準備が遅れているだけに、東京は、IOCに約束した安全と信頼性という約束を守り、確実な五輪準備を具現化することによって、日本の実力を世界に示す必要がある。

 TOCOGは今後、オリンピック大会の開催準備(2013年-2020年)と大会後の整理(2020年-2022年)の9年間の仕事を担うことになるが、都市づくりの具体的な仕事は、東京都や国の関係各所に委ねられる。今後期待されるのは、スポーツ庁の設置やスポーツ関連予算の増額といった制度面での改革、新国立競技場や選手村、そしてメディアビレッジといった五輪関連の施設面での整備、そしてスポーツを目的とするインバウンドツーリストの誘客という都市マーケティングの実践である。特に3つ目のスポーツツーリズムに関しては、スポーツで人を動かす仕組みづくりが大切になる。

 今後、東京でのオリンピック種目に関連した国際競技大会の開催や、海外選手を対象としたスポーツ合宿や国際会議の誘致等、アイデアは無限にある。さらに五輪開催都市の東京を目的地とするだけでなく、東京をゲートウェイとして、日本全国の観光振興に役立つようなオールジャパンの戦略も重要となってくる。

原田 宗彦(はらだ・むねひこ)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授

【略歴】
1954年 大阪府に生まれる
1977年 京都教育大学教育学部卒
1979年 筑波大学大学院体育研究科修了
1984年 ペンシルバニア州立大学体育・レクリエーション学部博士課程修了
1987年 鹿屋体育大学助手
1988年 大阪体育大学講師
1995年 フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)
1995年 大阪体育大学大学院教授
2005年 早稲田大学スポーツ科学学術院教授 現在に至る

【社会的活動(現行のもの)】
日本スポーツマネジメント学会(JASM)会長
一般社団法人日本スポーツツーリズム推進連携機構(JSTA)会長
さいたまスポーツコミッション(SSC)副会長
なでしこリーグ改革タスクフォース委員長
日本スポーツ産業学会理事
日本体育・スポーツ経営学会理事
社団法人日本フィットネス産業協会理事
社団法人スポーツ健康産業団体連合会理事
財団法人新宿区生涯学習財団理事
bjリーグ経営諮問委員会アドバイザー
日本トップリーグ連携機構アドバイザー
独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター業績評価委員
日本体育協会総合企画委員会企画部会委員
JKA公益事業審査委員
東京都スポーツ振興審議会委員
学校法人浪商学園将来構想委員会委員

【主な著書】
「フィジカル・フィットネス」(訳書)ベースボールマガジン社
「公共サービスのマーケティング」(訳書)遊時創造
「スポーツ産業論第5版」杏林書院
「スポーツ・レジャーサービス論」健帛社
「スポーツ経営学」大修館書店
「スポーツイベントの経済学」平凡社新書145
「生涯スポーツの社会経済学」杏林書院
「図解スポーツマネジメント」大修館書店
「アメリカ・スポーツビジネスに学ぶ経営戦略」(訳書)大修館書店
「スポーツマーケティング」スポーツビジネス叢書Ⅰ:大修館書店
「スポーツマネジメント」スポーツビジネス叢書Ⅲ:大修館書店
「スポーツ・ヘルスツーリズム」スポーツビジネス叢書Ⅳ:大修館書店
「スポーツファシリティマネジメント」スポーツビジネス叢書Ⅴ:大修館書店
「新YMCA戦略」日本YMCA同盟