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石井 昌幸(いしい・まさゆき)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授・早稲田大学競技スポーツセンター所長  略歴はこちらから

大学スポーツが社会にもたらす諸価値(Values)とは?

~「早稲田スポーツBEYOND125プロジェクト」を通じて~

石井 昌幸(いしい・まさゆき)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授・早稲田大学競技スポーツセンター所長
2022.9.20

 2022年7月10日、早稲田大学は大隈講堂にて、早稲田スポーツの発足125周年を祝う記念式典を開催した。田中愛治総長、河野洋平稲門体育会会長の祝辞に続いて、伊藤公平慶應義塾長の友情あふれる祝辞を賜った。ちなみに、田中総長は空手部、伊藤塾長は庭球部のご出身で、現在、早慶両校の長が運動部出身である。式典のメインは、サッカー元日本代表監督で、ア式蹴球部出身の岡田武史さん(1980年政治経済学部卒業)による記念講演で、「感銘を受けた」という声が終了後に数多く寄せられた。また、学生企画の早稲田スポーツ・クイズ大会も、総長も登壇するなどして大いに盛り上がった。

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 早稲田スポーツ44部を統括する「早稲田大学競技スポーツセンター」(以下「競スポ」)の起源となる「体育部」が発足したのは、1897年のこと。今年はそこから125年目の節目にあたる。早稲田の創設者・大隈重信はスポーツを好み、運動を奨励して「人生125歳説」を唱えたが、早稲田スポーツは今年で125歳を迎えたわけである。この間、早稲田大学は大学スポーツ界のみならず、日本のスポーツ史に大きな足跡を残してきた。その歩みは、早稲田スポーツミュージアムにご来館いただければ、良くご理解いただけると思う。

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2022年は「早稲田スポーツ125周年」の節目の年

BEYOND 125 プロジェクト

 早稲田大学は昨年3月に記者会見を行ない、「早稲田スポーツBEYOND 125 プロジェクト」の実施と、体育各部44部共通ロゴを発表した。これからの125年を「早稲田スポーツ新世紀」と位置づけ、中長期の視点で様々なプロジェクトを推進している。共通ロゴは、そのシンボルである。

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2021年に制定した「早稲田大学体育各部共通ロゴ」

 このプロジェクトは、コロナ禍の只中でスタートした。記者会見の約1年前、未曽有のパンデミックへの対応に明け暮れるなかでのことだった。終息した時を見据え、「ポスト・コロナのキャンパスに、リアルなコミュニケーションを取り戻す」を合言葉に計画を進めた。スポーツほど、リアルなコミュニケーションに有用なものは多くはない。早稲田スポーツが、ワセダというコミュニティを愛する様々な人たちの中核・シンボルになれるのではないか、ならなければならない、との思いから発案したものである。

 まずは、より多くの人たちに、早稲田スポーツの「いま」についての情報を届けること。Playerというアプリを導入して各部からの情報発信と連動させ、試合予定の告知・試合経過・結果速報などを競技スポーツセンターWebサイトに集約した。また、Yahoo! JAPANの「スポーツナビ」に、早稲田スポーツのオリジナル記事配信を始めた。こちらは、昨年8月に同サイトの「スポーツ団体公式記事月間ベスト3」に選ばれている。フェイスブック、ツイッターによる情報発信も、「早稲田スポーツ新聞会」と協働して毎日行なうようにした。

 競技場に足を運べるようになってからは、一般学生向けの早慶戦応援ツアーを開始した。スタンプラリーを行なって、様々な競技に触れてもらう機会を作っている。応援部による事前レクチャーも好評だ。留学生の参加者が多いのも特徴である。スポーツを通じた一体感の醸成には、一般学生の参加が不可欠である。東京2020支援のために立ち上がった学生団体VIVASEDAに、ポスト・オリパラの活動のひとつとして、早稲田スポーツの盛り上げ策を考案してもらうように依頼し、生協食堂での「勝ちメシ」企画などが実現した。また、教務部教育連携課がアシックスジャパンと行なっている「プロフェッショナルズ・ワークショップ」では、「"早稲田"とアシックスで考える 新時代の大学スポーツを盛り上げる戦略とは」をテーマに、一般学生の目線からの提案企画が進んでいる。

早稲田スポーツの統合的ブランディングと外部資金獲得

 プロジェクトで、もうひとつ重要な取り組みが、外部資金獲得である。現在、早稲田スポーツの財源は、大学からの支援、OB・OGからの支援、学生の自己負担の3本の柱から成っている。今後もこの3つが中心となるにことは間違いないが、各々が将来これ以上大きくなることは難しいであろうし、この形が維持できるのかも不安である。そこで必要となるのが4本目の柱、外部資金の獲得である。

 まず、「マーチャンダイジング」、「クラウドファンディング」、「スポーツギフティング」など、社会全体(クラウド)から支援していただくためのプラットフォーム整備から始めた。並行して、体育各部の商業活動を適正に行なうための規定を作った。

 マーチャンダイジングでは、何よりもアシックスジャパン社との包括提携がある。これはBEYOND以前からすでに行なわれてきたことで、契約更新とともに連携強化を確認した。同社との提携は、マーチャンダイジングの枠にとどまらず、アシックスと早稲田で広く日本のスポーツを振興して行こうというプロジェクトである。また、ファナティクス・ジャパン社と提携して「早稲田スポーツ公式オンライン・ストア」を立ち上げた。同社はアメリカの4大プロスポーツやNCAAなどの物販を一手に請け負う「スポーツ界のアマゾン」の日本法人である。

 クラウドファンディングとスポーツギフティングでも、それぞれ専門業者と提携して、各部が使用できるプラットフォームを用意した。これまで、相撲部の「金星☆プロジェクト」ラグビー蹴球部の「異彩をまとうプロジェクト」を企画し、目標金額を大幅に超えるご支援をいただき、大成功に終わっている。

大学スポーツの諸価値

 しかし、4本目の柱を作ることを目指した外部資金獲得策は、それ自体が目的ではなく、早稲田スポーツをめぐる、より大きな考え方の一部である。一時期、大学スポーツはコスト・センターであり、これを事業化によってプロフィット・センターに転換すべきである、といった議論が盛んであった。コスト/プロフィットという二項対立ではなく、第三項を立てて考えるべきだというのが、私たちの考え方である。第三の項は、「諸価値(Values)」である。あえて複数形で表記したのは、それが単一の価値に還元できないからである。

 大学スポーツには、様々な人々が関わっている。関わり方も様々であれば、そこに見出している価値やその強度も多様である。選手や指導者は、何よりも「勝つ」ということに価値を見出しているだろう。保護者は、子供が部活動を通じて「成長していく」姿に価値を感じるかもしれない。OB・OGは、後輩たちが生き生きと活躍する姿を見て、それを自分たちが「支えている」ことに価値を感じるのではないだろうか。スポーツには、努力・協力・勝利・感動・自己実現・成長・生きがいなどの言葉で表わされる、きわめて人間的な諸価値のシンボルのような面がある。この数量化できない諸価値の総体を最大化すること。それこそが私たちの活動の目的である。

 もとより、教育機関である早稲田大学が社会に提供できる価値の中核は「人材育成」である。本学では、2014年に「早稲田アスリートプログラム(WAP)」を開始した。体育各部の活動を放課後の教育と位置づけ、各種研修、学業成績管理、社会貢献活動への参加、半期に一度の振り返りレポート提出などを通して、文武両道に取り組んでいる。 

 本学の取り組みは、まだほんの小さなものであるが、これが支持され、成果を上げられるかどうかは、私たちが大学スポーツを通じて、どのような価値を社会に発信できるかにかかっていると考えている。

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2022年9月10日 早慶サッカー定期戦(早慶クラシコ)より

石井 昌幸(いしい・まさゆき)/早稲田大学スポーツ科学学術院教授・早稲田大学競技スポーツセンター所長

早稲田大学教育学部卒業・京都大学人間環境学研究科ヨーロッパ文化地域環境学専攻修了。 現在は早稲田大学競技スポーツセンター所長・スポーツ科学学術院教授・ア式蹴球部部長。専門は「スポーツ社会史」。

【著作等】
「早稲田スポーツの外部資金獲得策」、『IDE現代の高等教育』(2022年10月号)、IDE大学協会。
「早稲田スポーツのガバナンス」、早稲田大学スポーツナレッジ研究会(編)、『これからのスポーツガバナンス』、創文企画、2020年。
(共編著)『スポーツの世界史』、一色出版、2018年。
(共訳書)ニコ・べズニエ(他)『スポーツ人類学:グローバリゼーションと身体』、共和国、2020年。
(共訳書)アーロン・ミラー、『日本の体罰:学校とスポーツの人類学』、共和国、2021年。 ほか