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加藤 基樹(かとう・もとき)/早稲田大学大学総合研究センター准教授 略歴はこちらから

大学の地域連携とその実践

加藤 基樹/早稲田大学大学総合研究センター准教授
2018.12.10

地域連携と大学

 地域連携は、多くの場合、地域がその地域の課題を克服・解決することを目的として他の主体と連携するものであり、地域と連携する主体としては、国や地方自治体、医療機関、企業、NPO、大学などがある。

 日本でどれだけの地域連携が行われているかを把握することはできないが、研究面から分野別に見ると下図のようになる。これによれば、医療分野が57.7パーセントで最も多く、全体としては「医療・ケア」「教育・大学」「経済・産業」の3分野が中心になっていることがわかる。

 このうち大学の地域連携は、研究室、授業、ゼミなど様々なレベルで実践されているが、これは大学の社会貢献に含まれるものである。大学には本来的に「研究」と「教育」の役割があったが、2006年の改正教育基本法(第7条)以降、日本でも国レベルで「貢献」が大学の第3の役割とされたと評価されている。

 なお、大学の社会貢献は大きく2つに分けられ、一つは、地域における人材育成、すなわち、公開講座の実施や社会人の入学・再教育など(いわゆるリカレント教育)であり、もう一つは、広い意味での地域へのサービス・知見の提供、たとえば、学生の地域貢献活動推進や教員の講演講師・委員としての派遣がこれにあたる。

(図)地域連携の分野別研究業績の目安
(資料:早稲田大学の学術情報検索システム「WINE Plus」の検索結果をもとに作成)

早稲田大学における地域貢献人材の募集と育成

 早稲田大学の地域貢献の新しい形として、2018年度からはじまった「新思考入試(地域連携型)」がある。これは「グローバルな視野と高い志を持って、社会的・文化的・学術的に地域へ貢献する人材を育成・輩出することを目的」とするもので、要するに、卒業後に地元に戻って地域に貢献することを志す学生を募集する入学試験である。出身地域についての限定はなく、大学としては全都道府県からの受け入れを目標としている。また、卒業後に出身地域に戻ることを強制されない点が特徴といえる。初年度は商学部、文学部、文化構想学部、人間科学部、スポーツ科学部の5学部で実施され、2019年度からは法学部も参加している。

 そして、この入試の入学者のために「地域連携演習」がグローバルエデュケーションセンター(GEC)に新設され、既存の「リーダーシップ開発」「体験の言語化」講座、そして、課外活動・学部での専門教育と有機的に結びつける体制が作られた(下図)。このうち地域連携演習と課外活動には、実践的な地域連携が組み込まれており、これによって地域に貢献できる人材の育成を目指している。早稲田大学の地域貢献に関する新しいチャレンジである。

新思考入試(地域連携型)の入学者に対するプログラム

地域連携演習のグループワーク

地域連携の実践授業

 地域連携を実践する1つの授業を紹介したい。

 「農からの地方創生(JA共済寄附講座)」は、社会科学部設置の全学オープン科目で、農のもつ多面的機能のうち「農のいやし、農の治癒力」に着目し、世界農業遺産に認定(2013年)された大分県国東市で地域連携活動を行った。

 受講者40数名は、環境班、ため池班、園芸療法班など7つの班に分かれ、国東市が主催する「国東おだやか博2018」の特別企画として、11月3日、4日に「道の駅くにさき、第2駐車場」を会場として、「農カフェスタ」でイベントを実施した(https://www.facebook.com/wasedanocafesta/)。

 それに先立ち、6月には、受講学生が「農カフェスタ」で何を目的として何をするかを検討、調整するため、全員で現地を訪れた。班ごとに、国東市観光協会やJAおおいた、旭日地区発世界農業遺産旭日プロジェクト(GAP)、大分短期大学、立命館アジア太平洋大学、地域の個人商店などを訪問して様々な情報を集め、また、班によっては11月の実施に向けた調整に入った。

 秋学期に入ってからは、広報活動も含めて、全員がかなりの労力と時間をつぎ込んだ。その結果、本番当日には2日間で500名近い来場者があり、現地の皆様の多大なるご協力によって無事終えることができた。

世界農業遺産のため池のほとりで、おだやかな時間をすごす

農カフェスタで来場者に対応する学生

大学の地域連携の意義

 大学が地域連携を実践するのは、前記のように地域に貢献することがそもそも大学の役割であり使命であるから、というもののほかに、地域連携によって学生が成長することができるから、という大きな理由がある。

 たとえば、地域を訪れることで、学生は地域から実態的に学ぶことになる。そこには様々な人間関係があるし、地域における課題発見やその解決の模索には、また別の学習が必要である。さらに、それらの体験や成果を「言語化」することはさらなる能力向上に資するものとなる。

 上記の大分県国東市の例で言えば、集客や広報活動の対策として、広報班の学生は早稲田大学校友会大分県支部の事務局長と連絡をとり、支援を依頼したほか、マスコミ関係の校友をご紹介いただき、結果として、大分放送や大分合同新聞に取材をしていただいた。また、現地入りした11月1日には大分空港のロビーでの広報活動をすることもできた。これらの計画、交渉、調整、準備、実施というプロセスは、学生にとって大きな学びとなったことだろう。

 農カフェスタがどれだけ地域に貢献するものであったかは更なる検証が必要だが、学生が実践的な知を経験することができたことは間違いない。今後も大学は地域連携によって、社会に貢献することに加え、学生が実践知を経験する機会を提供していく必要があるだろう。

加藤 基樹(かとう・もとき)/早稲田大学大学総合研究センター准教授

早稲田大学政治経済学部卒、東京農工大学大学院博士課程修了。博士(農学)。専門は地域連携、農業経済学、地域経済学。早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教をへて、2018年度より現職。
主要著書:『体験の言語化』(共著、2016年、成文堂)、『0泊3日の支援からの出発』(編著、2011年、早稲田大学出版部)、『書を持って農村へ行こう』(共編著、2011年、早稲田大学出版部)など。