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岩井原 瑞穂(いわいはら・みずほ)早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授 略歴はこちらから

広がる不適切な写真
投稿の抑制促すプロセスを

岩井原 瑞穂/早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授

終わらない不適切写真の投稿と過剰な社会的制裁

 最近、Twitterなどのソーシャルメディアに投稿された、度を越した悪ふざけを行っている写真が問題となっている。コンビニの冷蔵庫に入る、パトカーの上に乗る、回転寿司のしょうゆ瓶をなめるなど様々な破廉恥行為の写真がネットで検索できる。本学の学生も全裸写真を自ら投稿していたのが見つかった。閉店や損害賠償など、悪ふざけではすまされない事態を招いている。自身の写真、しかも非常識な写真を公開すると何が起きるか分かっていないようだ。しかしこれだけ報道されているにもかかわらず類似事件が続いており、ニュースも見ていないのかと思ってしまう。ネットで注目されるのは写真から違法行為や迷惑行為が明らかな場合がほとんどであるが、未成年の喫煙や飲酒といった写真は多すぎて注目もされないと聞く。

 TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアの特徴は、一個人の発する情報を瞬時に拡散できることである。しかし情報を受け取った利用者が「いいね」や「リツィート」「ハッシュタグ」といった機能を使って他の利用者に転送しなければならないため、多くの利用者が関心を持つような話題性がなければ大規模な拡散は起きない。煽り立てる者ばかり反応するような状況だと、調子にのって行動がエスカレートする可能性がある。しかし多くの人が目にしており、大半は無視するが、写真の投稿主を過去の書き込み等から特定して暴露する人も現れてくる。写真が投稿されてから、まとめサイトと呼ばれるところに記録されるまで数時間という例もある。そうなるともはや削除は困難である。若気の至りではすまされず、就職活動に響いたり一生ついて回る可能性もある。また迷惑行為を受けたビジネス側の被害も、ネットの拡散により拡大しているといえる。悪ふざけ投稿に対し、過剰な社会的制裁が加わっている恐れがある。

リスクよりも新たな出会い?

 Facebookの友人やTwitterのフォロワーのつながりは、利用者を点、つながりを枝とするグラフと呼ばれる構造で表現でき、人間の社会的な関係を表しているので特にソーシャルグラフと呼ばれる。2011年の調査では、Facebookのソーシャルグラフは友人数の平均が99人であり、それ以上の友人数を持つ利用者は指数的に減ってゆくことが分かっている。また全利用者の92%は、つながりを5回またはそれ以下の回数たどれば互いに到達できる。一方、FacebookやTwitterのフォロワーは上限なく増やせるため、数百万といったフォロワーを持つ著名人が記事を転送すると一気に拡散することになる。

 投稿の炎上を防ぐ方法として、投稿の共有範囲を一般公開より狭めることが薦められている。一般公開より狭い範囲として友人、あるいは友人の友人をFacebookでは指定できる。しかし友人の友人ではソーシャルグラフで1万人程度に届く可能性があり、その中には見ず知らずの人も含まれ、炎上のリスクは残る。一方、共有範囲が友人では、新たな友人の獲得につながらないというデメリットがある。

 当方の調査研究において、Facebookで利用者が一般に公開しているプロファイルの項目数と、友人数や性別との相関を分析すると、男性の方がやや積極的にプロファイルを公開しているが、項目数が多くなるにつれ、性別よりも友人数の方が影響が大きくなるという結果が得られた。これは友人を多く作るなど積極的な利用者は、自分のプロファイルの公開にも積極的という説明ができる。またアンケート調査により、ネット上のリスクに対する知識や、ネットで新たな友人を得たいという動機の有無と、プロファイルの友人の友人への公開状況との関係を分析して見ると、リスクの知識よりも性別や友人を得たい動機の方が影響が大きいことが分かった。これは新たな機会を得るためには、リスクを認識したうえでも個人情報の開示を行っているという解釈ができる。

ソーシャルコンピューティング的方法による拡散制御の可能性

 ソーシャルメディアの拡散能力はともすれば過剰になる。悪ふざけ写真の被害にあうビジネス側の風評被害を軽減するため、また投稿した本人に思いとどまらせるチャンスを与えるためにも拡散を制御できないであろうか。公衆に拡散すべきでない情報として著作権侵害を伴うコンテンツ、違法薬物、ポルノ、爆破予告といったものがあり、拡散抑制の努力が続けられている。悪ふざけ写真の難しい点は、写真のみから不適切かを自動判定するのが困難な点である。人のつながりを支援する情報技術であるソーシャルコンピューティングを駆使して、悪ふざけ投稿に特有の傾向を早期につかむことが有望であろう。例えば、一般人には不自然な転送の急激な増加、悪ふざけに特徴的なキーワードの出現、若い男性といった投稿者や転送者のプロファイル等の判定条件が考えられる。投稿を見た人の通報も有効であるが、乱用があるためこれら条件と組み合わせて判定する。条件に該当した投稿を一律に非表示にするのは、誤検出もあるし表現の自由の兼ね合いもあるため行わない。表示頻度や回数を下げて拡散速度を遅らせることになるであろう。そして写っている人や店舗が特定されていれば通知し、さらに投稿者自身に、そのような写真を広範囲に拡散する意思が本当にあるのかを問い合わせる、といった再考のチャンスを与えるプロセスになるであろう。

岩井原 瑞穂(いわいはら・みずほ)/早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授

【略歴】
九州大学工学部情報工学科卒(’88)、九州大学大学院工学研究科情報工学専攻修士(’90)、 博士(工学)(’93)。九州大学大学院システム情報科学研究科助教授、 京都大学大学院情報学研究科准教授を経て’09年より現職。専門はデータ工学、社会情報学、セキュリティーとプライバシー。