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石田 航星(いしだ・こうせい)/早稲田大学創造理工学部建築学科准教授(建築施工分野)  略歴はこちらから

建設業におけるデジタル・トランスフォーメーションの展望

石田 航星(いしだ・こうせい)/早稲田大学創造理工学部建築学科准教授(建築施工分野)
2023.5.24

建設業においてデジタル・トランスフォーメーションが必要とされた背景

 建設業でデジタル・トランスフォーメーション(以後、DXと表記)という用語が盛んに使われるようになったのは他産業と同様に2019年からだと記憶している。このDXが建設業において爆発的な速さで受け入れられた背景について考察してみよう。

 以下に示す図1は日経新聞社が発行する新聞における新技術の記事数を積算したものである。

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図1 先端技術の記事数の推移注1)

 2010年前後から我が国の多くの産業において新たな技術の導入が図られている。2008年頃からクラウドやタブレットの記事が増え始め、その後、ビックデータ、人工知能、ドローンなど様々な新技術が次々と登場したことが確認できる。このような状況が10年以上続き、気が付けば工事現場においても、多くの現場監督がタブレット端末を持ち歩き、ドローンを使って航空写真を撮り、写真測量法により3次元モデルを作成することが広く行われている。一方で、これら新技術を組み合わせながら建設工事に導入する難しさが2010年代後半から露呈し始め、新技術を前提とした建設産業における仕事の仕方自体の再編が意識されるようになったと感じている。従来の方法でも建築物を生産できる中で、これら数多くの新技術を建築物の発注者側が喜んで導入してほしいという動機づけがないという点が長年の課題として存在していると考えている。

建設業における生産性向上の取り組みとBIMの重要性

 我が国の建設業において、VR,ロボットなどの新技術の導入の歴史は古く、1980年代から盛んに研究されてた。日本の建設業における画期的な技術として1990年代に登場した全天候型のビル建設システムと呼ばれる仕組みがある。この全天候型のビル建設システム注2)は、屋外での不安定な作業になる高層ビルの建設において、建物最上部に建設ユニットを設置し、建物を構成する大型部材を効率的に組み立てて行くだけでなく、作業員が直射日光に晒させずに作業出来、搬入された部品管理や工事の進捗を3次元CAD上のモデルと連動させるなど現在でも通用するシステム開発が行われていた。ただ、このような建物の設計情報が3次元モデルで表現され、工事現場においてロボットを始めとする自動化技術が大量投入され、この両者が連動する生産方式の必要性が、建設業界全体で広く認識されるようになったのは最近のことである。

 このコンセプトの汎用化に時間がかかった理由は3次元設計が浸透していなかった点があげられる。筆者は2010年頃に3次元レーザースキャナを用いた鉄筋検査手法などの研究を行っていたが、当時は鉄筋の3次元モデルが作れられる例が非常に少なかった。そのため、図2に示すように鉄筋の3次元モデルがない状態でも鉄筋種別ごとの配筋状況が把握できるような3次元形状認識に関する手法の考案で解決を図った。

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図2 鉄筋の計測データの3次元の形状認識1)

 このように3次元設計の広がりが遅れた理由は建築物独特の生産方式にある。図3に建築プロジェクトの組織体制の例を示す。この絵の四角形1つ1つが異なる企業であることを示している。このように建築物は工事ごとに様々な企業を集めて生産されることが一般的である。

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図3 建築プロジェクトにおいて良くある体制

 このような体制で生産される建築物は、構成する部品は膨大な量になることに加え、建築プロジェクトに参加する企業群の多さに起因する品質上の不具合が発生するリスクが存在する。このリスクを最小化するために、3次元設計を積極的に導入し、関係者間の意思疎通の円滑化を図ることを目指して盛んに用いられるようになった手法がBIMである。このBIMは2023年時点において多くの建設分野の企業において導入されているものの、いくつか課題が存在する。主要なものとして以下の4つを列挙する。

(1) 建築プロジェクトに参加する企業の数が多く、業界全体でBIMの導入率を高めていかないと、デジタル・ツールを使った建築プ ロジェクト体制についてこれない事業者が発生する。

(2) 3次元設計ツールとして用いられるソフトウェアがRhino、Revit、ArchiCADなど複数存在し、企業や業界により主として用いられるソフトウェアが異なるため、建築プロジェクトに参加する企業の組み合わせごとにデータ連携方法を定めなおす必要がある。

(3) 設計者は、契約図書の範囲で施工時の図面作成や設計者による承認プロセスを決定できる権限があり、総価請負契約であっても施工者がBIMデータ作成のプロセスを自由に決められる訳ではない。

(4) 建設業は建築士法、建設業法、労働安全衛生法など様々な法令により規制を受ける業種であり、生産上の効率性のみで業務プロセスの変更を行えない箇所が多く存在する。

発注者側の既存システムに準拠したBIMデータ作成の重要性

 上記のような課題は、建設産業の内部に存在する企業では解決が難しい課題が多い。これら課題は発注者側が建築物のデジタルデータの作成と活用に関して大きなメリットを感じれば、発注者側の要求条件に含めることで(1)~(3)に関しては変更が可能になる。ただ、発注者側としてはBIMを始めとした先端技術の導入による建築生産のプロセスの変更そのものにメリットを感じることはあまりないため、発注者側の業務プロセスに依拠した提案が必要となる。

 最後に建設業において技術開発が進むDX関連技術を発注者メリットがある形で導入する方法について考えてみたい。著者らは研究の題材として図4に示すような商業用不動産に関する共同研究を実施してきた。この事例を踏まえると重要になる点は、以下の2つだと著者は考える。

(1) 多くの業種において施設管理業務に関するシステム投資を継続的に行っており、既存の施設管理に関するシステムへBIMデータを追加するというアプローチとする。

(2) 不動産所有者側が管理する側は保有施設すべてのマネジメントを考えているため、不動産の群管理を意識した仕掛けづくりを意識する。

 建築物に投資を行う発注者がメリットを感じやすいBIM活用などを通じて、新技術が喜んで導入される状況作りが今後必要になると感じている。

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図4 施設管理にBIMデータを活用する概念図2)

 BIMデータを例に解説を行ったが、建設業におけるDXが成功するかの鍵は発注者側の支持が得られるかが重要である。建設ロボットには建設ロボットなりの、ドローンにはドローンなりの発注者側の導入メリットを考案することが求められる。さらに言えば、これら複数の新技術群をうまく組み合わせることで、不動産価値が向上していくような提案が建設業から出せるかがポイントである。著者らも研究室でも不動産所有者と建設業界の懸け橋となれるような研究を続けていきたい。


注1) 図1は日経テレコンを用いて集計した。検索対象を「新聞」に限定し、日経新聞社が過去に発行していたものを含む5紙のみを対象とした。なお、デジタル・トランスフォーメーションはデジタルトランスフォーメーションのように黒い点のないキーワードでも検索を行い、内容がほぼ一致した検索となったことを確認した。そのため、「デジタル・トランスフォーメーション」のみの結果を表示している。

注2)このような建設システムとして、大林組のAutomated Building Construction System、清水建設のSMART System、大成建設のT-up Construction Methodなどが1990年代に相次いで開発されている。

【参考文献】
1) Kosei Ishida, Naruo Kano, Kenji Kimoto : Shape Recognition with Point Clouds in Rebars, 2012 Proceedings of the 29th ISARC, DOI: https://doi.org/10.22260/ISARC2012/0018

2) 東京オペラシティビル/プロパティデータバンク : BIM を活用した建築生産・維持管理 プロセス円滑化モデル事業 検証結果報告書, P168, https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001473076.pdf

石田 航星(いしだ・こうせい)/早稲田大学創造理工学部建築学科准教授(建築施工分野)

早稲田大学創造理工学部建築学科卒(2009)、同大大学院博士後期課程修了(2014)。2012年早稲田大学創造理工学部建築学科助手、2014年工学院大学創造理工学部建築学部助教、2018年早稲田大学創造理工学部建築学科講師、2021年より現職。

https://w-rdb.waseda.jp/html/100001178_ja.html