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藤井 祥万(ふじい・しょうま)/東京大学未来ビジョン研究センター特任助教  略歴はこちらから

中垣 隆雄(なかがき・たかお)/早稲田大学理工学術院教授  略歴はこちらから

蓄熱輸送による地域資源の有効活用でカーボンニュートラルに貢献

藤井 祥万(ふじい・しょうま)/東京大学未来ビジョン研究センター特任助教
中垣 隆雄(なかがき・たかお)/早稲田大学理工学術院教授
2022.6.20

地域循環共生圏とカーボンニュートラル

 202010月に、2050年カーボンニュートラルの目標が政府から宣言されました。脱炭素のキーワードも頻繁にメディアに登場するようになり、持続可能な開発目標:SDGsへの関心も世界的に広がっています。これらの目標達成のためには、特にエネルギー分野の対策が重要です。一次エネルギーを化石燃料依存の現状から再生可能エネルギー主力の構造に転換していく必要がありますが、同時に社会全体のコスト負担増も見込まれています。

 一方、既に総人口は減少に転じ、特に地方では、人口流出や高齢化によってさまざまな影響が出始めています。2018年に環境省が提唱した地域循環共生圏は、地域ごとの資源を見直して有効活用することで、エネルギーや環境はもとより、地域経済やモビリティ・防災・衣食住などの社会面においても、地域の自立と持続可能な活力につなげようとする考え方です。都市部に対して地方は環境に恵まれていますので、再生可能エネルギー賦存量も多く、Hard-to-abate(脱炭素化が困難との意味)の産業も少ないため、比較的早くカーボンニュートラル達成の可能性があります。政府も地域脱炭素ロードマップを策定し、100か所程度の先行地域をショーケースとして周辺に波及させる脱炭素ドミノを生み出そうとしています。このような動きは、地球規模の気候変動対策にはGlobalな視点の考えで行動しようとのこれまでの主張とは異なって、むしろ"Think locallyAct locally"とも言える考え方にシフトしつつあります。特に、地域での循環・共生において、資源の有効活用は単独の利用に留まることなく、産業、公共サービス、民生家庭・業務など、様々な供給と需要の地域内ネットワーク化による共創的なイノベーションが望まれます。

エネルギー需要の半分は熱

 エネルギーは起点となる一次エネルギー(エネルギー源)から、燃料等の直送あるいはエネルギー転換による二次エネルギー(電力など)を介して最終需要端まで届けられます。用途は電気機器類への直接利用、輸送用動力、産業の生産加工プロセス、給湯・暖房など様々ですが、半分は熱として利用されています。熱には量と質の概念(エクセルギー)があり、同じ量でも高温ほど質は高くなりますが、民生家庭・業務での利用は120℃以下の低質な熱で十分です。熱はあらゆるエネルギー転換の過程でも不可避に発生し、利用先がなければその場で捨てるしかありませんが、未利用の熱を輸送して需要端で使えれば、大きな省エネルギーになります。熱需要が広範囲に分散した温暖な地方では、熱輸送導管網の整備はコストに見合わず、未利用熱の発生も需要と時間的に同期しているわけではないので、冷えてしまえば価値を失ってしまいます。

 このように、エネルギー需給の時空間的なミスマッチは自然任せの再生可能エネルギーの大量導入でも課題となり、その解決策が蓄エネルギー技術です。民生部門の低質な熱は電動ヒートポンプでも容易に生成可能ですが、その地域に未利用資源として同程度以上の質の熱があるならば、それを媒体に貯めて輸送し、需要に応じた任意の場所と時間で熱として使える「蓄熱輸送技術」も有力な候補となります。

種子島を実証フィールドに地域循環共生圏を目指す

 南西諸島に多い製糖工場は島の基幹産業で、サトウキビバガス(搾りかすのバイオマス)を燃料に、圧搾動力・発電・熱源として工場内で利用していますが、未利用熱も同時に発生しています。そこで、ゼオライトへの水蒸気の吸・脱着による蓄熱・出熱技術を適用し、島内で石油焚きボイラが既設の工場に輸送・循環利用することで、カーボンニュートラルに貢献するプロジェクト*を進行中です(図1)。地域内の再生可能エネルギーで蓄熱されたゼオライトは常温で長期間保存可能であり、出熱装置「ゼオライトボイラ」(図2)は当研究室出身の藤井祥万さんが中心となって開発し、加圧蒸気の連続生成に成功した世界初の独創的な装置です。地域内の資源循環による島外からの購入燃料の削減と、新たな熱供給事業による雇用創出で経済波及効果も期待できます。

1 製糖工場の未利用熱蓄熱輸送プロジェクトの概要

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図2 ゼオライトボイラ(西早稲田キャンパス)

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 2022年度から本格型に昇格してスタート**したJST COI-NEXTビヨンド・"ゼロカーボン"を目指す"Co-JUNKAN"プラットフォーム研究拠点」(代表機関・東京大学)では、鹿児島県種子島を実証フィールドに地域資源循環の本格的な社会実装を目指します(図3)。その一環として、上記プロジェクトで導入した設備見学会(図4)などを通じて産業・行政・市民など島内の方々の蓄熱輸送技術に対する理解浸透に努めるとともに、地域に必要なシステム設計要件を研究者と学び合う(co-learning)活動を展開していくことで、カーボンニュートラルによって地域が自律的に豊かさを持続できる社会の実現をビジョンとして掲げています。

図3 COI-NEXTで共創を目指す種子島の" Co-JUNKAN"

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図4 島内での技術説明会の様子

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先人の知恵に学ぶ

 短い季節に集中する自然の恵みを貯蔵して、長期間均等に消費する工夫は、古来よりあります。食料には塩蔵・糖蔵・乾燥・燻製・発酵、乾季に備える溜池や雨水タンク、冬の燃料として薪の備蓄など、地域の風土に合った保存法が先人の知恵として受け継がれてきました。そのアナロジーから、自然と共生したカーボンニュートラルなエネルギーには、用途に応じた貯蔵技術がカギを握ると考えています。


*環境再生保全機構・環境研究総合推進費(JPMEERF20213R01)で実施中
**プレスリリース20201221https://www.waseda.jp/top/news/71337の後継プロジェクト

藤井 祥万(ふじい・しょうま)/東京大学未来ビジョン研究センター特任助教

2020年早稲田大学大学院博士後期課程修了、文部科学省博士課程教育リーディングプログラム「実体情報学博士プログラム」修了、博士(工学)取得後、東京大学 「プラチナ社会」総括寄付講座特任研究員を経て、現職。環境総合研究センター次席研究員兼務。

中垣 隆雄(なかがき・たかお)/早稲田大学理工学術院教授

1992年早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了後、(株)東芝 総合研究所に入社、新発電システムの研究開発に従事。2004年に博士(工学)(早稲田大学)取得。2007年より、創造理工学部総合機械工学科准教授、2012年より現職。技術士(機械部門)、日本機械学会フェロー、(一財)エネルギー総合工学研究所理事、日本学術会議 特任連携委員(第23-24期)、(公財)地球環境産業技術研究機構科学技術諮問委員(2020-2021年度)。

現在はこの他にも、CO2分離回収やカーボンリサイクルに関する研究プロジェクトを展開するとともに、経済産業省、環境省、NEDOなどの技術委員を多数務める。

中垣研究室ホームページ http://www.f.waseda.jp/takao.nakagaki/