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北野 尚宏(きたの・なおひろ) 早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

SDGsを通じた日本と中国との交流の可能性

北野 尚宏/早稲田大学理工学術院教授
2019.08.26

 SDGs(Sustainable Development Goals、持続的開発目標)は、2015年「国連持続可能な開発サミット」の成果文書である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた開発目標である。貧困、教育、成長・雇用、都市、気候変動、平和と公正など、経済、社会、環境を統合する17の目標から構成され、2030年までに達成することが目指されている。特徴としては、日本を含めた国際社会共通の目標であること、政府、企業、地域コミュニティ、そして個人にいたるあらゆるレベルで共有できること、イノベーションなどを通じた変革が重視されていることが挙げられる。

 国連は、毎年SDGs進捗報告書を公表し、閣僚レベルのハイレベル政治フォーラム(HLPF)で進捗確認を行っている。4年に一度、国連総会において首脳レベルでの進捗確認も行われることになっており、今年9月が第1回になる。

関西を走る阪急阪神ホールディングスのSDGsトレイン

 日本は、2016年に「SDGs推進本部」を設置し、「SDGs実施指針」を策定した。毎年「SDGsアクションプラン」を決定し、2017年にはHLPFで自発的国別レビューを発表した。今年6月のG20 大阪サミットや、8月の横浜での第7回アフリカ開発会議(TICAD7)でも、SDGsは中心議題のひとつとなっている。企業や教育機関、自治体、市民社会による取組みも盛んになりつつあり、社会におけるSDGsの認知度も徐々に高まりつつある。例えば関西では、2025年の大阪万博に向けて関西SDGsプラットフォームが立ち上がった。SDGsトレインも運行中である。

 一方、中国は2016年7月のHLPFで、「2030アジェンダ国別実施計画」の概略を発表した。同計画には、「2030アジェンダ」と中国の国家中期計画である「第13次5カ年計画(2016~20年)」、地方政府の開発計画、さらに「一帯一路」構想とを連動させることが盛り込まれている。中国がホストした同年9月のG20 杭州サミットでは、「2030アジェンダに関するG20行動計画」が策定され、G20 大阪サミットでは計画内容がアップデートされた。2017年には「2030アジェンダ実施進捗報告」を公表している。中国のSDGs推進体制は、外交部(外務省に相当)が担当する43の政府部門から構成される調整メカニズムである。今年6月に約3年ぶりに第2回全体会合が開催され、今後のSDGs推進方針が議論された。

 2015年国連総会時に、中国がSDGs達成に関する国際貢献策として表明した、「南南協力援助基金」、「国連平和発展基金」、国家レベルの国際開発シンクタンク「中国国際発展知識センター」及び、留学生が中国の開発経験を学ぶ北京大学「南南協力・発展学院」については、既に設立され、運営段階に入っている。

 筆者の専門である都市地域計画の分野では、日本は地方創生推進の一環として、SDGs達成に向けた優れた取組みを提案する自治体を、「SDGs未来都市」としてこれまでに60カ所選定している。中国は、「国家2030アジェンダ創新モデル区」を6カ所選定し、アジア開発銀行(ADB)とも協力しながらSDGsを地域に根付かせる取組みを行っている。

早稲田大学高等学院での講演の模様

SDG研究院を設立した清華大学のキャンパス

 SDGsは大学における教育、研究面でも根付きつつある。例えば早稲田大学においては、大学院アジア太平洋研究科は、教育や保健分野のゴール達成に向けた国際的取組みの一翼を担っている。同研究科や社会科学総合学術院ではSDGsを科目名に掲げた講義が開設されている。理工学術院総合研究所は、新たに定めた7つの重点領域(クラスター)にそれぞれ研究所を開設し、クラスター間の横断的活動としてSDGsを基軸においた早稲田地球再生塾を立ち上げた。大学院環境・エネルギー研究科は北京⼤学環境科学⼯程学院と「⽇本・中国における環境実践研究」科目を共同運営している。出版部からも「SDGs時代の経営管理と心根」が今年8月に発刊されている。一方、中国では、清華大学公共管理学院が、清華SDG研究院を立ち上げ、ジュネーブ大学とSDG共同修士課程を開設している。

 このように、日中両国は、国連やG20の場で、SDGsを政府・社会双方が取り組むべき課題として共有しており、国内外で様々な施策を実施中である。清華大学の研究によれば、SDGs推進に当たって、中国は政府主導型、日本は政府・社会一体型という違いがある。一方で、社会への浸透という点では、両国ともこれからの課題といえる。両国の大学や市民社会が、SDGsをテーマに交流する余地は大いにあるように思う。今年11月に早稲田大学で開催される第11回日中学長会議でもSDGs達成に向けた大学の役割が活発に議論されることを期待したい。

 筆者は、秋学期より修士課程レベルのSDGs英語科目を新たに開設する。援助機関やNPOなどで活躍する方々が、ゲスト・スピーカーとして登壇の予定だ。講義もまた交流の場といえる。「誰も置き去りにしない」という「人間の安全保障」にも通じるSDGsの理念を、現場で実践するにはどうしたらいいか、中国からの留学生を含む学生たちと議論を通して大いに交流できたらと思う。

北野 尚宏(きたの・なおひろ)/早稲田大学理工学術院教授

1983年早稲田大学理工学部卒業、海外経済協力基金北京事務所駐在員、京都大学大学院経済学研究科助教授、国際協力銀行開発第二部長、国際協力機構(JICA)東・中央アジア部長、JICA研究所所長などを経て、2018年より現職。JICA研究所客員研究員、京都大学大学院経済学研究科付属プロジェクトセンター・シニアリサーチフェロー、創価大学理工学部、東京大学公共政策大学院非常勤講師、グローバルビジネス学会常任理事。コーネル大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。専門分野は都市地域計画、開発協力、中国の対外援助。近著に、「中国のアフリカ進出の現状と課題 : 中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を中心に」(国際問題第682号、国際問題研究所、2019年)等。2012年モンゴル国ナイラムダルメダル(友好勲章)受章。