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今村 浩/早稲田大学社会科学部教授 略歴はこちらから

「大草原の小さな家」に戻りたい?
-中間選挙から見るアメリカ政治の構図

今村 浩/早稲田大学社会科学部教授

民主党に鉄槌下る

 アメリカ中間選挙は、ほぼ予想通り、共和党の大勝に終わったと言ってよかろう。今更先見の明を誇る積もりは無いが、今回は、共和党のかなりの躍進が予想された。というのも、今年の予備選挙の投票者総数は、概算で、共和党千九百万に対して民主党が千五百万であったという。今までこんなことは聞いたことがない。もしかしたら、史上初めてのことかもしれない。それだけ、共和党の支持者が活発だったということであろう。

 ただし、元来、中間選挙では、大統領を出している方の党が議席を減らすのが常であった。過去百年を見ても、大統領政党が議席を増やした中間選挙というのは、50回中僅か2回しかない。だから、民主党としては、たとえ議席を減らしても、それはいつものことだと一応は言える。しかし、今回の民主党の負け方は、そうした点を考慮に入れてもひどいものだった。

意外に重要な州議会

 とりわけ注目されるのは、連邦議会より、むしろ州知事と州議会議員選挙である。そもそも、州議会議員の数は、両党のいわば「基礎体力」とも言い得る。また、州議会は連邦議会の「人材プール」でもある。事実、今回当選を果たした新人議員の半数に迫る43名が、州議会議員の経験をもっている。しかし、それだけではない。アメリカでは、キリスト暦で末尾にゼロのつく10年ごとに、国勢調査が行なわれる。その人口調査の結果を受けて、各州に、連邦下院議員定数が再配分されることになる。そして、各州で次の国勢調査までの10年つまり5回の下院議員選挙に使う選挙区割りが行なわれるのだ。その作業手順は、州により異なるものの、概して州議会と州知事の果たす役割は大きい。今回の選挙では、まさにこの区割りに任じる州議会・知事が選ばれた。州議会の多数党、知事は、自党に有利な、また反対党に不利な区割りを、かなり露骨に行なう。それは、選挙というゲームの賞品なのだ。故に、10年毎のキリスト暦で末尾にゼロのつく年の州議会・知事選挙の結果は、連邦議会の勢力分野を決定づけるとまでは言わぬにせよ、甚大な影響を及ぼすのである。

州議会で大躍進の共和党

 アメリカには、無党派が建前のネブラスカを除く49州の州議会の上下院を合わせて98の議院がある。そのうち、59で民主党が多数であったのが、今回共和党は、実に675議席を積み増しし、55の議院で多数を占めて逆転を果たした。民主党多数の議院は38、両党同数が2、あとは未定である。そこで、議会同様共和党が善戦した州知事選挙の結果を含めて、両党の州政治掌握状況を見よう。州議会両院多数派と知事を単独政党が占めていれば、州政の支配は完璧である。この三つの要素のうち一つでも反対党に譲っていれば、分割支配ということになる。選挙の前は、民主党支配の州が16、共和党支配が9、分割支配が24であった。選挙が終わってみれば、共和党支配の州は、倍増して20に、民主党支配の州は11に止まり、17州が分割支配となっていたのである。

茶会運動のもたらした争点シフト

 さて、今回の選挙で注目された茶会運動である。昨年春頃から活動が始まっていたらしいものの、元来自然発生的な運動で、一応全国組織らしきものが出来たのは今年になってからである。この運動は、アメリカ政治の文脈では保守に位置づけられるものの、非ピラミッド型の組織の故に、簡単に性格づけることは難しい。ただ、やはり、中高年白人男性を中核とし、主に大きな政府への嫌悪・恐怖から推力を得ているとは言ってよかろう。

 些か乱暴でも、分かり易く単純化してして言えば、この運動の参加者に共通の信条というのは、自助と相互扶助、心情と言えば、「要らんお世話や、ほっとけ」、関東方言では、「大きなお世話だ、ほっといてくれ」となろう。これは、個人から政府に向かって言っている。とにかく政府には、自分達のことに首を突っ込んで欲しくないという、一面では論理を超越した感情がある。たとえ良いことでも、政府にはやって欲しくない。それは、利己的に聞こえることもある。国民皆保険を目指す医療保険制度の改革への反対は、不透明な財源や制度設計の複雑性といった点に向けられていると同時に、「赤の他人がかかった病気の薬代を、何で俺が払わなきゃいけないんだ」という実も蓋もない「素直な」感情にも支えられている。彼らの理想社会とは、かつての人気テレヴィ・ドラマ「大草原の小さな家」のような私有地が、地平線のかなたまで、網の目状に広がって、地上を覆い尽くすようなそんなイメージかもしれない。

 だから、近年のアメリカにおいて、保守―リベラルの対立軸上で争点になってきた社会文化的争点、同性愛の是非、政教の分離、銃規制、人種・性格差是正のための各種特別措置(アファーマティヴ・アクション)の是非等々は、少なくとも前面からは退いた感がある。つまり、政府の規模、政府介入の範囲を巡るニュー・デイール以来の、対立への回帰である。あるいは、保守―リベラルの対立から、1970年代に勃興した社会文化的争点を切断したということになろう。これが、一時的現象かどうか、まだ判断するのは早すぎるにせよ、アメリカ政治の構図を、全国規模の選挙で描き換えた意義は小さくない。

今村 浩(いまむら・ひろし)/早稲田大学社会科学部教授

【略歴】
昭和29年三重県生まれ
早稲田大学大学院政治学研究科博士後期過程満期退学

【著作】
共編著『巨大国家権力の分散と統合』、『誰が政治家になるのか』
共著『転換期世界のデモクラシー』(近刊)