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吉野 孝(よしの・たかし)/早稲田大学政治経済学術院教授 略歴はこちらから

アメリカ中間選挙に見るトランプ政権の評価と今後の展望

吉野 孝/早稲田大学政治経済学術院教授

2018年中間選挙の結果

 2018年11月7日の中間選挙は民主党の勝利に終わった。アメリカでは中間選挙は大統領の政治運営に対する「中間試験」とみなされ、歴史的にみると、大統領の政党が連邦議会で議席を減らすことが多かった(表1)。今回の中間選挙の結果は、予測どおりであった。一方の連邦下院議員選挙においては、2016年選挙で235議席を獲得して多数党になった共和党は、今回、議席を199に減らした。2016年選挙で193議席しか獲得できなかった民主党は、今回、議席を235に増やした。他方の連邦上院議員選挙においては、改選後の議席総数では共和党が多数派を維持したものの、改選議席35議席をみると、11対24で獲得議席は少なく、共和党は選挙では敗北していたことが分かる(表2)。

表1 中間選挙における大統領の政党の議席減少数
大統領の政党 連邦下院 連邦上院
1946 民主党 -55 -12
1950 民主党 -29 -6
1954 共和党 -18 -1
1958 共和党 -47 -13
1962 民主党 -5 3
1966 民主党 -47 -4
1970 共和党 -12 3
1974 共和党 -48 -5
1978 民主党 -15 -3
1982 共和党 -26 1
1986 共和党 -5 -8
1990 共和党 -7 -1
1994 民主党 -54 -10
1998 民主党 4 0
2002 共和党 8 1
2006 共和党 -30 -6
2010 民主党 -63 -4
2014 民主党 -11 -9
2018 共和党 -36 2

出典)Harold W. Stanley and Richard G. Niemi, Vital Statistics on American Politics 2013-2014, 2013, p.42.
2014年と2018年の数値は,“2014/2018 United States elections”in Wikipedia.

表2 2018年上院議員選挙の詳細
政党 非改選議席 改選議席 議席総数
共和党 42 11 53
民主党 23 24 47

出典)“2018 United States elections”in Wikipedia.

 このような結果になった理由として、次の3点が挙げられる。第1に、トランプ個人の言動やトランプ政権の政治運営手法には最初から大きな批判があり、国民一般の間での政権への支持率は必ずしも高くなかった。第2に、トランプの当選に不満をもつ一部の活動家は、かなり早い時期から女性・人種的マイノリティを候補者に立て積極的な選挙運動を展開した。とくに初のイスラム系女性が立候補するなど、各地で多くの話題をさらった。第3に、その結果として、今回の中間選挙では有権者の関心が高く、これまで40%前後であった投票率が48%に上がり、投票者が約2,000万人増加した。これらの投票者の間で若者や初めて投票する者が多く、このような投票者は民主党候補者を支持した。

分割政府の出現と対決型政治

 アメリカ政治を考える上で重要なのは、今回の選挙の結果、連邦政府レベルで分割政府が出現したことである。分割政府の出現は、アメリカでは深刻な問題を提起する。アメリカは厳格な権力分立制を採用している結果、行政府の長である大統領と選挙区代表である連邦下院議員は別々に選挙される。また、連邦制を採用している結果、選挙区代表である連邦下院議員とは別に、州代表である連邦上院議員が選出される。これまで大統領の政党、連邦下院多数党、連邦上院多数党が異なり、政府が分割状態にあっても、政党はゆるい連合体であった結果、妥協により合意が形成された。しかし、1990年代後半以降、政党は政策において異なる立場をとり、ますます対決型になった結果、分割政府のもとで政治が行き詰まることが多くなった。

 そのような対立の前哨戦が、暫定予算合意と一般教書演説の開催時期をめぐる対立であった。大統領がアメリカ=メキシコ国境の壁費用で譲歩し暫定予算案に署名した結果、政府閉鎖は一時的に解除され、2月5日に大統領が連邦議会で一般教書演説を行うことが決まった。しかし、対立は終わったわけではない。壁建設と暫定予算問題は今後も続くし、ロシアゲート疑惑(2016年大統領選挙運動へのロシアの介入疑惑)、オバマケアなども大きな対立争点である。こうして今後2年間は、連邦下院を舞台にトランプ大統領と民主党指導部の間での対決・交渉のドラマが展開されることになる。

潜在的争点としての対中戦略

 ところで、上記の対立争点がどれほど重要であるとしても、それらはみな個別的な国内の政治問題である。移民問題は、どのような条件で移民を受け入れるかというアメリカ人の「アイデンティティ」の問題であり、オバマケアは税金の使い方をめぐる問題であり、ロシアゲート疑惑は政治倫理の問題である。しかし、アメリカが向き合わなければならない課題はもっと深刻である。それは、どのようにしてアメリカの経済を復活させ、国際競争力を維持し、多様な個人にとって魅力ある国にするのかという課題である。

 2016年の大統領選挙運動時よりトランプはアメリカの対中貿易赤字を問題視し、2018年7月より、関税引き上げをちらつかせながら中国との貿易交渉を開始したものの、途中から交渉の力点は、対中貿易赤字の是正から情報・技術・知的財産権の主導権争いに移った。情報・技術・知的財産権でアメリカが引き続き主導権を握ることができれば、アメリカは経済成長と国際的地位の維持を期待することができる。交渉に成功すると経済成長が伸び雇用も増え、雇用が増えるとより寛容な移民政策を実施することも可能になる。したがって、トランプ政権は対中戦略が「アメリカを強くする」ために必要であるともっと分かり易く主張する必要がある。

アメリカ政治の分析に必要な視点

 しかし残念ながら、トランプ大統領は対中戦略の意味と重要性を十分に理解しているとは思われない。もし彼が、この交渉を自身の成功ディール(取り引き)の事例とするために中途半端な妥協をするなら、対中戦略は矮小化され、彼は数少ない武器を手放すことになる。これはアメリカにとっても不幸なことである。トランプ大統領がこれまでの主張をある程度抑え、対中戦略を主要な争点にすることができないと、結局、国境の壁建設、ロシアゲート疑惑といったあまり生産的でない問題が国内勢力の対立を煽り、多くの政治経済社会問題が未解決のまま残される。このような大統領と民主党指導部の不毛な争いを延々と見せつけられる国民一般は、アメリカの政治と政治家と政党にますます不信感を抱くことになろう。

吉野 孝(よしの・たかし)/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】
1954年長野県生まれ。1978年早稲田大学政治経済学部卒業。1988年早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程修了。早稲田大学政治経済学部助手、専任講師、助教授を経て、1995年より現職。この間、1984年7月から86年6月までウィスコンシン大学(マディソン)政治学大学院留学。1991年3月から93年3月までジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)客員研究員。2010年から早稲田大学日米研究機構長、2015年から2016年まで、2018年から早稲田大学地域・地域間研究機構長。専攻は、英米政治学、政党・選挙、アメリカ政治。

【主著】
『アメリカの社会と政治』(共著、有斐閣、1995年)、『現代の政党と選挙』(共著、有斐閣、2001年、新版2011年)、『誰が政治家になるのか』(共著、早稲田大学出版部、2001年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著、東信堂、2014年)、『論点 日本の政治』(共編著、東京法令出版、2015年)などがある。