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▼東日本大震災特集

横山 隆一(よこやま・りゅういち)早稲田大学理工学術院教授 略歴はこちらから

地産地消の拡張型電力供給
―災害に強いシステムの構築

横山 隆一/早稲田大学理工学術院教授

 我が国の一般電気事業者(電力会社)は、100年間にわたり、消費者からの厳しい要求である低廉で、良質な電力を安定的に供給することを目指し電力システムの形成に努めてきた。水資源が豊であった我が国では水力発電の開発から始まったが、その後の開発地点の枯渇に伴い、高度成長期には、電力の75%が輸入石油により発電されることとなった。しかし、中東戦争を機に石油危機が到来し、脱石油をはかった結果、技術的に成熟してきた原子力発電と新規に開発が進んだ天然ガスが、石油に取って代わった。さらに、廉価な電力を生産するためにスケールメリットを求め、100万KWを超える大規模な発電設備が建設され、必然それらは、福島や柏崎といった遠隔地におかれ、規模だけではなく地域的な広がりをもつ盤石で巨大なシステムが作り上げられた。

 しかしながら、今回の東北地方太平洋沖地震により、脆くも原子力及び火力発電設備が損壊し、東京電力管内では、約1,000万kWの供給力不足が発生した。そこで、需要量が供給力を上回り、電力系統全体が不安定となって広い範囲にわたり電力供給が止まる大規模停電の発生が懸念されたため、系統の変電所から給電される需要家群毎に順次停電させる計画停電(輪番停電)が実施された。この電力不足は、すぐには解消されそうにもないので、電力会社はあらゆる手段で供給力を確保すると同時に、産業、業務、家庭のすべて分野で15%程度の節電が必要である。さらに悪いことには、津波で致命的打撃を受けた福島第一原子力発電所所からの放射能汚染物質の排出が止められない。3ヵ月を過ぎた今でも、多数の避難者の救援、農作物及び魚介類の汚染、それを追い打ちする風評被害の解決の見込みがない。政府案では、この被害に対する賠償総額は4兆円、東電の負担を約2兆円と想定しており、賠償は最終的に電力各社が10年にわたって負担するようだ。また、福島第一原発1~6号機の廃炉費用を1.5兆円、火力発電の燃料費増を年約1兆円とみている。リストラでは、来年度までに年1,500億円、約6,000億円の不動産や株式売却を進めたとしても、今後、毎年1兆2000億円の赤字となるとのことである。これを電気料金に転嫁するとすれば、東電管内は電気料金が約24%も上がることになる。

 想定外の自然災害の打撃を受けても、電力会社が電力融通により相互支援できる仕組みの見直しが必要で、経済学者からは、「発電と送電の分離」や「送電網の開放」が提唱されるであろう。一方、今回のような大規模な電力不足を経験したことにより、家庭、事務所、工場、地方自治体は、電力会社に全面依存しない自前の電源を確保しておくことの必要性を痛感した。その際、地産地消の太陽光や風力発電等の再生可能エネルギーを導入すると、その発電出力の変動が電力ネットワークに影響を与え、電力品質(周波数、電圧)を悪化させることが懸念され、新たな電力供給社会インフラの考え方が必要となる。そこで、地域自治体が主体となる電力供給システムの開発においては、大規模で高価なネットワークを一度に作るのではなく、地域や市街落特性に合わせた適正規模の供給ネットワーク(クラスターと呼ぶ)を作り、必要に応じて随時のクラスターを増設し、相互間を連結してゆくという方式が適している。このようなクラスター拡張型電力供給システムが、早稲田大学理工学術院横山隆一教授の研究グループから提案され、実証も進みつつある(図参照)。このような相互結合型の電力ネットワークが構築されれば、比較的安価での各種再生可能エネルギー利用電源からの地域への電力供給、相互連系によるクラスター間の電力融通、電力貯蔵装置の有効活用及び電動車両への急速充電が実現可能となる。このような地域自治体所有の「おらが村発電所」を中心に、行政機関、病院、警察、学校、避難所、通信基地、高齢者住宅を完備すれば、大規模な自然災害時にも必要とするライフライン(電気、水、通信)が確保できる。この能力は「Resiliency:回復力」とよばれ、今後の社会インフラ構築の指針となってくる。ここで述べた考えは、今進められている東北の被災地の復興にも活用されるべきと考える。

 

クラスター拡張型電力供給システムの構成と連系

横山 隆一(よこやま・りゅういち)/早稲田大学理工学術院教授

【略歴】
 昭和48年、早稲田大学大学院理工学部博士課程修了。工学博士。三菱統合研究所を経て、昭和53年から東京都立大学(首都大学東京)。平成19年4月より早稲田大学 理工学術院 教授、現在に至る。電力系統、市場、次世代エネルギー供給システムの計画・運用・制御及びシミュレーション解析、先端数理計画手法の大規模システムへの応用研究に従事。IEEE Fellow、IEEE Fellow Commission委員、電気学会Senior Member、電気設備学会、CIGRE会員、経済産業省新エネルギー部会委員、資源エネ庁変圧器判断基準小委員会委員長、2009年電気学会業績賞受賞