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日向野 幹也(ひがの・みきなり)/早稲田大学グローバルエデュケーションセンター教授  略歴はこちらから

権限によらないリーダーシップ

日向野 幹也(ひがの・みきなり)/早稲田大学グローバルエデュケーションセンター教授
2022.12.19

権限によらないリーダーシップはZ世代向き

 「権限によらないリーダーシップ」に興味を持つ早稲田生が増え続けています。グローバルエデュケーションセンターで2016年に2クラスでスタートした「早稲田大学リーダーシップ開発プログラム(LDP)」は、徐々に受講生数を伸ばして、全学部・全キャンパスから、いまや年間で9クラス・180人が新たに受講を始める規模になりました。中上級のクラスを含めると、年間34クラス・約500人という規模にまで拡大しています。

 大学生に「権限によらないリーダーシップ」への興味が高まっているのはどうしてでしょう。それは一言でいえばリーダーシップが「自己決定の選択肢を拡大する効果」をもつからと思われます。Z世代と言われる今の大学生(およびミレニアム世代)が重視することの一つは、何事も強制されず自分で選択し決定すること(自己決定)です。権限をもたない人でもリーダーシップをとってよいという考え方は、自分の選択肢を広げるのです。自分一人ではなく、呼びかけによって周囲を巻き込んで協力しながら成果目標を達成できるという可能性を考慮にいれれば、一人きりのときに諦めていたさまざまなゴールが、実現可能なものとして視野に入ってくるでしょう。

 このゴールが完全に自分一人の自己利益であるような場合には、他の人を巻き込むことは(命令する権限がない場合特に)非常に難しいです。自分以外の誰か他の人の利益にもなるようなゴールであったり、自分の属する組織全体の利益になるようなゴールであったりすれば仲間や上司の賛同や支援も得られやすいでしょう。そのようなゴール設定自体、昔は上司だけが行えばいいものだったのですが、VUCAと呼ばれる先の読めない激変する世界への対応や、イノベーション創出についてはなるべく多くの人がゴール設定にかかわったほうがいいというのが最近の知見です。つまり、Z世代が自ら「権限によらないリーダーシップ」を好んでとる可能性があるばかりか、Z世代に対してもリーダーシップをとることを期待している企業や組織が増えているのです。

 実際、早稲田大学の日本橋キャンパスで2018年にスタートした社会人向けの「早稲田リーダーシップカレッジ(旧称『21世紀のリーダーシップ開発』、現在では90%以上オンライン開講)」にも、これに符合する面白い傾向が出てきています。それはスタッフ側の当初の予想よりも高い比率で中高年の志願者が応募してきているのです。受講することになった社会人にインタビューしてみると、「自分は管理職ではあるが、権限を使って若い人を動かそうとすると嫌われて最小限の協力しか得られない。権限をなるべく使わずに若い人に動いてもらいたいので『権限によらないリーダーシップ』を学びに来た」というのです。

どう身につけるか

 このように若者の自己決定重視にも合致し、社会からも期待されるようになってきた「権限によらないリーダーシップ」は、どのようにしたら身につけられるのでしょうか。それにはリーダーシップに必要な最小限の行動のリストを意識し、いろいろな場面を想定して練習する必要があります。

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 上の3つが最小限の行動リストです。「目標設定・共有」は、先ほどふれたゴール設定と共有です。「率先垂範」はそのゴールに近づくための行動を真っ先にやってみせることです。それに共鳴して動いてくれる人はいるかもしれませんが、なにかの事情で動きづらい人もいるかもしれません。そういう人が動けるように支援したり、あるいは逆に目標を実現するために支援を要請したりするのが「相互支援」です。こうした行動を意図してとれるか、またとったつもりになっていて周囲にしっかり伝わっているかを、まずは教室でクラスメートを相手にお互いに練習しあうのです。

日向野による解説動画

どんな科目構成なのか

 下記は2022年度の科目構成です。プログラムの基盤となる「リーダーシップ開発:理論とスキル」「リーダーシップ開発:問題解決プロジェクト」の2科目に加え、リーダーシップを日常生活で発揮したい場合や、卒業後に生かしたい場合、他者のリーダーシップ開発に携わりたい場合など、クォーター制で目的別に履修できる科目を多数用意しています。

 まず、「リーダーシップ開発:理論とスキル」でリーダーシップ理論とその発揮に必要なスキルを学び、次の「リーダーシップ開発:問題解決プロジェクト」では、企業から与えられる課題に対して、グループ単位で解決策を提案するコンペティションに取り組みます。そうした一連の活動を通して、リーダーシップのスキルを活用する成功・失敗体験を重ねていきます。

 プログラム成功の鍵となるのが、活動の最後に学生同士で行う「振り返り」です。というのも、リーダーシップの評価は、他人に対する影響力によるからです。つまり、チームメンバーに自分の行動がどう捉えられたかをフィードバックし合うことが肝心なのです。

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 しかしながら、仲間から課題点を指摘されると、人格をまるごと否定されたような気がして不安になってしまいます。そこで、最初の段階では良かったことだけをフィードバックするというルールとし、信頼関係ができたところで徐々に改善・提案を入れていき、互いの意見を受け入れ合える「心理的安全性」を作っていきます。こうして、履修生はポジティブな意見もネガティブな意見も受け止め、次に生かすことができるようになるのです。

 なお、2023年度には「理論とスキル」よりさらに気軽に受講できるトライアル科目が開講され、それをもとに2024年度にはオンディマンドで入門科目が配信される予定です。

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日向野 幹也(ひがの・みきなり)/早稲田大学グローバルエデュケーションセンター教授

東京大学経済学部卒業、同大学院社会科学研究科博士課程修了、経済学博士。
東京都立大学、立教大学を経て、現在早稲田大学グローバルエデュケーションセンター教授。
専門は「リーダーシップ開発」。

<主要著作>
『大学発のリーダーシップ開発』(編著,ミネルヴァ書房,2022年)、『高校生からのリーダーシップ入門』(ちくまプリマー新書,2020年)、『大学教育アントレプレナーシップ』(ナカニシヤ,2018年,共著増補版日本電子出版, 2020年)、コミヴェズ他『リーダーシップの探求』(監訳,早稲田大学出版部,2017年)ほか多数。