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兵藤 智佳(ひょうどう・ちか)/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授  略歴はこちらから

「学生の学び」を支えるボランティアセンター

兵藤 智佳(ひょうどう・ちか)/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授
2022.1.24

1.大学機関としてのボランティアセンター

 早稲田大学平山記念ボランティアセンター(WAVOC)は、2002年に大学の機関として設立し、今年で20周年を迎える。大学が社会的に果たす役割として、早稲田大学が「教育と研究」のみならず、「社会貢献」を掲げたことは、時代として先駆性のある試みであった。その後、学生や教職員、校友の情熱によって、多くのボランティアや社会貢献活動が実施され、現在に至っている。「ボランティア」とは、一般的には「自発性」「無償性」「公共性」によって定義される活動であり、困難を抱える人たちを支援し、よりよい社会を構築することが目的である。WAVOCも設立以来、国内外のフィールドで環境、人権、教育、災害等の多様な分野で「困っている人たち」に向けたボランティア活動を実施してきた。その中でも2011年からの東日本大震災のボランティアについては、この10年間で、のべ8,749人の学生が被災者のために行動したという意味で、早稲田大学による社会貢献として特記すべき事柄である。

 このように当事者や現地のためになるボランティアを目指してきた一方で、ボランティアセンターが行政やNPOの主導ではなく、大学にあることに意味づけをするのであれば、その活動を通じて学生が成長するという教育的な取り組みであることであろう。特に、WAVOCは、学術的な専門性を持つ教員たちが学生のボランティアや社会貢献を支援し、それを「学び」につなげる取り組みを行ってきた。現在も全国的にボランティアセンターを持つ大学の数は増えつつも、研究と実践を両輪として教員が学生の教育に取り組む組織は多くない。

2.教育実践手法としての「体験の言語化」

 学生の学びという点では、ボランティアが自分とは異なる「他者」、特に、社会的に弱い立場に置かれる「当事者」と出会い、かかわる活動であることの意味は大きい。その体験は、学生にとっては、自分にとっての当たり前が揺さぶられ、既存の価値観を批判的に捉えたり、新しく創造する契機となるからだ。そのための方法論として、WAVOCでは、これまで「体験の言語化」と呼ばれる教育方法論を開発、実践してきた。

 「体験の言語化」の基本的な方法は、ボランティアをする中での心のひっかかりに注目し、その場面にいた自分を思い出す。当事者とのかかわりでは、葛藤や矛盾を感じる場面が多く生じるからだ。「体験の言語化」では、学生たちが、そのときの自分や相手の気持ちに言葉を与え、「なぜ、そのときに自分や相手はそう感じたのか」をふりかえり、さらに言葉を与えていく。言葉に向き合うプロセスを通じて、学生たちは、その背後にある価値観や信念、そして、自らが内面化している社会規範に気づき、それらが構築されている社会へ目を向けていく。そして、ボランティアで出会う当事者に対して「この人が困っているのは、この人個人の問題だけではない」という視点を得る。

 「体験の言語化」は、学生たちによるミーティングの場で行われることが多い。ミーティングでは、学生たちが取り上げる場面に対して教員や学生同士が「あなたは、なぜ、そう感じたと思うか」、「相手は、どのように感じていたと思うか」と何度も直接問いかける。こうした実践は、他者との関わりから当事者をめぐる社会に対峙し、自分もまたその社会を構成する一員であるという気づきをもたらしていく。

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3.パラアスリートの支援と「体験の言語化」

 WAVOCの教員として私自身は、ボランティアと「体験の言語化」の具体的な教育実践として、これまで学生とともに障がいを持つアスリートの支援を行ってきた。最初にボランティアに参加してくる学生たちは、その多くが「障がい者は弱い人であり、自分が助けないといけない人」という地点から活動をスタートする。しかし、車いすに乗ったパラアスリートと一緒に過ごす時間を通じて、「この人は弱い人ではない」という違和感を感じるようになる。自分よりも早く「走る」アスリートたちは、既存の「障がい者」のイメージを揺さぶるからだ。学生たちは、モヤモヤとした体験を言語化する中で、「障がいがあるかないかは、できることがあるかないかの違いであり、そこに凸凹があるだけだ。そこに優劣をつけ、差別や排除をするのは私たちの社会の問題だ」といった気づきを得ていく。そして、この気づきが、障がい者をめぐる社会の課題を自分ごととして捉える当事者意識の涵養へつながっていく。こうした学びのありかたは、「理論」からではなく、身体を通じた体験や個々人が感じる感性に基づく学びへのアプローチである。

 「体験の言語化」は、WAVOCから生まれた独自性の高い教育方法論として、すでに早稲田メソッドして体系化されてきた。2014年~2016年にかけては、Waseda Vision150の大学プロジェクト「『体験の言語化』早稲田メソッド構築のための研究」として、科目の開発と展開が行われた。その成果とともに、現在は、学生たちの体験を留学やインターンシップ、アルバイト等にも広げ、グローバルエデュケーションセンター(GEC)の提供科目「体験の言語化~世界と自分~」のシリーズ(28クラス)として提供されている。

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4.コロナ禍と未来に向けて

 以上のように、これまで、WAVOCは、キャンパスを超えて多様なフィールドに赴き、ボランティアを通じて当事者と出会い、その体験を言葉にするという学びを推進してきた。そういう私たちにとって、コロナ禍による影響は甚大であり、活動への大きな制限を受けることになった。もちろん、オンラインでできるボランティア活動への可能性を追求しつつも、直接、対面で人とかかわり、誰かを支援することで得られる学びはオンラインで簡単に代替できるわけではない。

 しかし、コロナ禍は、新しいボランティアの形と学びへの挑戦の機会でもある。これまで私たちがボランティアや教育活動の蓄積の中で大切にしてきたものを見据えつつ、新しい時代に向けて、新たな方法や価値を創り出す必要もあるのだと思う。そういう意味では、未来へ向けて過去をふりかえる、つまりはボランティアと学びについて「体験の言語化」を実践する必要があるのは、私自身でもある。WAVOCも今年、20周年を迎える中で、これまでの成果や課題を含めシンポジウムや書籍等、多様な発信活動も予定されている。この機会に学生のボランティアと学びに向き合う日々の営みを丁寧に言葉にしていく重要性を今一度、あらためて確認したいと思う。


【参考文献】
・早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター編(2016)「体験の言語化」成文堂 
・早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター編 兵藤智佳・二文字屋脩・平山雄大・岩井雪乃監修(2019)「ボランティアで学生は変わるのか~「体験の言語化」からの挑戦」ナカニシヤ出版

兵藤 智佳(ひょうどう・ちか)/早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター准教授。国連人口基金インターナショナルフェロー、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手等を経て、2007年よりWAVOC着任。

マイノリティ支援を専門として、大学生のボランティア教育に関する研究と実践を行っている。

著書に「僕たちが見つけた道標」晶文社2013年。