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尾澤 重知(おざわ・しげと)/早稲田大学人間科学学術院 准教授  略歴はこちらから

対面授業の代替から、探究のプラットフォームとしてのオンライン学習へ

尾澤 重知(おざわ・しげと)/早稲田大学人間科学学術院 准教授
2020.12.21

学習機会の拡張としてのオンライン授業

 オンライン授業は、対面授業の「代替」として捉えられることがある。しかし、それは本当だろうか? 確かに、新型コロナウイルスへの対応策として、やむを得ずに導入された経緯はあるかもしれない。しかし、本来の意義は、誰もが、どこでも、いつでも学ぶことができる学習機会の拡張にある。

 実際に、かねてからオンライン学習は世界で広がってきた。非営利のKhan Academyは2008年に開設され、初等教育から大学教育まで、様々な科目が無償で提供されている。MOOCs(大規模オンライン講座)として知られるcourseraやedXは2012年に運用が始まり、多くの利用者がいる。

 日本国内において、インターネットを利用した大学教育の先駆けは早稲田大学人間科学部の通信教育課程(eスクール)である。eスクールでは、オンデマンド授業だけでなく、教育コーチと呼ばれるサポートの仕組みを持ち、高い卒業率を誇る。

講義録から通信衛星の活用、インターネットへ
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政学講義会の講義録

 歴史を振り返ると、学習機会の拡張に最初に貢献したのは「講義録」と呼ばれる出版物である。講義録は、経済的な理由から上京や進学が叶わない人々にとって重要な学習の手段だった。講義録においても本学は先駆的な存在だったとされる[1]

 日本における通信教育の進展にあたっては、民間企業による貢献も大きい(表)。旺文社が1952年に放送をはじめた「大学受験ラジオ講座」、1961年に現在のZ会が静岡県で開始した郵便による通信添削、1989年に代々木ゼミナールが通信衛星を利用して展開した同時中継型の授業など、いずれも世界に類を見ないサービスでもある。いずれも地域を問わず学習機会を拡張し、教室にとどまらない多様な学習形態を実現させてきたという事実は重要である。

表 日本における通信教育

年代 事項 代表的企業 対象・メディア
1950~80年代 テキストとラジオとの融合 旺文社ラジオ講座 個別・出版物・ラジオ
1960年〜 通信添削 ベネッセ、Z会 個別・出版、郵便
1990年前後〜 通信衛星を用いた授業生中継 代々木ゼミナール 教室集合・通信衛星
2000年後半〜 ビデオ受講 東進ハイスクール 教室個別・ビデオ
2010年以降〜 ネット受講

リクルート(スタディサプリ)

個別・インターネット

「孤独な学習」をいかに乗り越えるか

 オンライン授業に限らず、対面を伴わない学習において課題として挙げられるのは、「孤独な学習」に陥りがちな点である[2]。教室で受講をしていれば、それが一方通行型の講義であっても、自身を律する他者の眼差しが存在する。ノートを取るべきタイミングは、他者の筆記の音が教えてくれる。しかし、オンライン授業ではこれらの付加的な情報が手に入れにくい。しかも、自身の知的好奇心を、常に自分自身で駆り立て続けなければならない辛さもある。

 しかし、孤独だからこそ可能で、効果的な学習法もある。一つは、頭の中で考えるだけでなく、見えるようにする、声に出す、あるいは、あたかも他者がいると想定して説明する学習法である。学習科学という研究領域では、これらの方法は外化[3]や、説明効果[4]として知られている。

 経営学では、このような外化(Externalization)を含む活動のプロセスを知識創造と関連づけようとする理論もある[5]。暗黙的な知識を言葉として共有できるようにし、それをさらに暗黙的な知識へと変換することは、個人にとってだけでなく集団が創造性を発揮するために欠かせない。

探究のプラットフォームとしてのオンライン学習

 「孤独な学習」と述べたが、オンラインでの学習は、常に孤独というわけではない。オンラインによって容易になったピア・レビュー(相互評価)と呼ばれる学習法では、受講生同士がお互いのレポートや作品の評価をし合ったり、オンラインでのディスカッション等を通して批評したりする。教員が一方的に「正解を教える」のではなく、学生同士(同級生、仲間、友人、同僚、すなわちピア)が相互に学び合い、「問い」そのもののあり方を探ることも重要であろう。Wikipediaがそうであるように、相互編集が生み出す可能性に期待したい。

 さらに、「探究学習」を授業に取り入れることで、オンラインでしかできない経験の提供も可能になる。著者は、学習科学の知見に基づくグループ学習の支援(問題発見・解決型教育)を研究テーマとしており、実際、自身の授業でも探究学習を60人程度が受講する授業で導入してきた。

 対面授業の場合、「探究の成果についてビデオ作品を制作し、発表する」という課題を設定すると、授業時間や人数に制約されてしまう。しかし、オンラインでは実現が容易である。しかも、ピアレビューを組み合わせることで、学生は課題を「提出(発表)して終わり」ではなく、相互の学習を促すことも可能となる。2020年度はオンラインの特性を活かし、これまでにない成果が見られた。

 対面授業の代替ではなく学習機会の拡張として、また、「教わる」から、学習者同士が相互に「学び合い」「探究を目指す」プラットフォームとしてこそオンライン学習の意義がある。

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図 授業の成果例
探究に基づきプロモーションビデオ(1分程度)を制作し、ピアレビューを経て発表した


[1] 「早稲田の通信講義録とその時代 1886-1956」展に寄せてhttps://yab.yomiuri.co.jp/adv/wol/culture/160309.html
[2] 佐藤 卓己 , 井上 義和 編(2008).ラーニング・アロン 通信教育のメディア学. 新曜社, 東京
[3] Shirouzu, H., Miyake, N., & Masukawa, H. (2002). Cognitively active externalization for situated reflection, Cognitive Science, 26, 469-501.
[4] Bisra, K., Liu, Q., Nesbit, J.C. et al. (2018). Inducing Self-Explanation: a Meta-Analysis. Educational Psychology Review, 30, 703-725.
[5] Nonaka, I. and Takeuchi, H. (1995). The knowledge creating company: how Japanese companies create the dynamics of innovation, New York: Oxford University Press.

尾澤 重知(おざわ・しげと)/早稲田大学人間科学学術院 准教授

1995年慶應義塾大学環境情報学部に入学し、インターネットと社会心理学を学ぶ。
1999年から北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科にて、新たな教授法や情報技術を用いたグループ学習の支援に関する研究に従事。
大学院修了後、早稲田大学人間科学学術院助手として、中学生と社会人をネットで結んだキャリア教育の研究、大分大学高等教育開発センターでは、大分県内における大学間の連携授業の研究などを進める。
2010年から現職。専門は、学習科学・教育工学。