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村瀬 俊朗(むらせ・としお)/早稲田大学商学部准教授 略歴はこちらから
リモートでも勝てるチームワーク作り
村瀬 俊朗(むらせ・としお)/早稲田大学商学部准教授
2020.6.22
COVID-19の影響により今までの日常は非日常となり、企業はリモートでの働き方をせざるを得ない状況となった。本来リモートワークは仕事を助けるはずだが、現状では多くの人が在宅勤務に疲労を覚え、業務効率も低下した。この理由の一部は現在の特殊な理由もあるが、重要な点は、従来の対面の働き方とリモートワークに対応した行動は違うことだ。これからリモート活用が一層進むことが予測できるため、リモートでの協働を高めるための示唆をチームワーク研究の分野から届けたい。
遠隔勤務が選択肢となると、チームメンバーの作業姿が見えなくなるため、リーダーは対面で行っていた従来の管理監督が難しくなる。このような状況では、細かな指示出しで部下を管理するリーダーシップよりも、各自に主体性を与えて業務をこなさせるサポート型リーダーシップの方が効果的だ。リモートワークに対応するために、リーダーは部下が判断を下して仕事を進められるようにチームの環境を整備する必要がある。そのために以下の点を注意してほしい。
業務の意義を与える
「リーダーは『何をどの様に行うか』の業務指示を出すが、『なぜその業務が重要か』『組織の目的とどう関連しているか』を説明しない」。このような不満を現場から度々耳にする。「なぜ」が理解できなければ、担当業務をどの様に行うと組織に貢献できるか分かりづらく、適切な判断が難しい(1)。リモート下では、リーダーが各業務と組織の目的や戦略との繋がりを明確にすることで、メンバーは自走しやすくなる。
役割分担を明確にする
作業連携を高めるために、個人の業務と責任を明確にし、互いの担当範囲をメンバーが理解する必要がある。担当範囲の不明瞭さは仕事の効率性を低下させる。そして、「誰が何を担当しているか」を十分理解できていないチームでは、仕事に困っている相手に気付くことができず、フォローを上手く行えない(2)。リモートでは他者の動きが見えないため、対面なら自然にできるフォローが難しい。リーダーはオンライン会議などを利用し、チーム全体が各自の役割分担を把握できるように努力を務めて欲しい。
裁量権を与える
自走のためには、各自が物事の判断を下せる状態が望ましい。個人が作業を進める過程で、リーダーに毎回説明し判断を仰がなければならない状態では、責任感が高まらず業務の進行も進みづらい(3)。そのため、リーダーは部下にある程度の裁量権をゆだねる必要がある。部下と相談し、適切な判断が下せる範囲を把握し、その枠内で部下に任せる。経験が浅い場合は、簡単な仕事と小さな裁量権を与え、自走できるようにトレーニングを行う。権限委譲に不安を感じるリーダーも多いが、部下は信じられることでモチベーションが高まり、成長する。
リモートのチームワークの質を高めるためには、リーダーの行動変化だけでは不十分であり、メンバーも意識的に行動を変えなければならない。以下の行動をメンバーは意識してほしい。
職場全員でリーダーシップを担う
リモートでのフォローは難しいため、各メンバーが職場全体を意識し、困っている仲間の支援や情報共有を積極的に行う必要がある(4)。互いに声掛けを行い、滞っている業務やフォローが必要なメンバーを自発的に発見する努力が必要だ。また、チャットツールを用いて手助けを頼みやすい雰囲気をチームに醸造する意識を持つことも重要だ。
リーダーの心情を理解する
リーダーだけに職場の把握作業を押し付けてはいけない。互いに目が届き難いため、メンバーもリーダーと共に、リーダーがチームの作業状況を確認しやすくなるように手助けを行う。リーダーは管理監督の責任を担うため、把握が難いと不安が高まることを理解して欲しい(5)。業務管理アプリなどで仕事の見える化を推し進め、リーダーに安心感を与えて信頼感を勝ち取る(6)。リーダーが力を発揮できるかどうかは、メンバーの支援にかかっていることを忘れてはならない。
リモートでのやり取りのルール化を行う
ドロップボックスなどのファイルシェアやスラックなどのビジネスチャットは手軽な情報共有を可能にする。しかし一方で、多くのメンバーが無差別な情報共有を行うと、各自のモニターに情報が雪崩込み、やり取りされる情報の重要性が分かりづらくなる。その結果、モニター上の情報チェックに疲弊を覚え、重要な情報の見落としも招きかねない。したがって、情報共有を円滑に行うための規範作りが必要となる。例えば、共有ファイルの格納場所、無数に増えるフォルダーやファイルの整理、チャットでのコミュニケーションの方法やレスのタイミングなど、メンバーは不満を感じているかもしれない。効率的な情報共有を行うために、不満を明確にし、解消のために合意を取りルール化を行う。
今回のCOVID-19の状況で不自由に感じる組織も多いだろう。しかし、リモートワークそのものは本来であれば働き方に柔軟性を与え、組織の競争力を高めるはずだ。そしてこのような働き方は今後の社会では益々必要となるだろう。今回の状況を、リモートでも勝てるチームワーク作りの機会ととらえ、組織一丸となって柔軟な働き方を身に着けて欲しい。
(1). Purvanova, R. K., & Bono, J. E. (2009). Transformational leadership in context: Face-to-face and virtual teams. The Leadership Quarterly, 20, 343 - 357.
(2). Marks, M. A., Sabella, M. J., Burke, C. S., & Zaccaro, S. J. (2002). The impact of cross-training on team effectiveness. Journal of Applied Psychology, 87(1), 3 - 13.
(3). Yukl, G. A., & Becker, W. S. (2006). Effective empowerment in organizations. Organization Management Journal, 3(3), 210 - 231.
(4). Hoch, J. E., & Kozlowski, S. W. (2014). Leading virtual teams: Hierarchical leadership, structural supports, and shared team leadership. Journal of applied psychology, 99(3), 390 - 403.
(5). https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000081.000029286.html
(6). Jang, C. Y. (2013). Facilitating trust in virtual teams: The role of awareness. Journal of Competitiveness Studies, 21, 61 - 77.
村瀬 俊朗(むらせ・としお)/早稲田大学商学部准教授
1997年の高校卒業後、渡米。2011年にUniversity of Central Floridaから産業組織心理学の博士号を取得。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)として就労後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。
2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。