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田中 奈津美(たなか・なつみ) 先進理工学研究科 化学・生命化学専攻 博士後期課程3年 略歴はこちらから

新規抗がん剤開発手法でユネスコの女性科学者賞を受賞!

田中 奈津美/先進理工学研究科 化学・生命化学専攻 博士後期課程3年

 「まさか自分が受賞するなんて」。今年で3回目となる「ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞」を見事に獲得した田中さんが、はにかみながらも研究に費やした辛苦と熱い想いを語ってくれた。同賞は第一線で活躍する若手女性研究者に、その研究活動を継続できるよう贈られる賞。化粧品メーカーである日本ロレアルと、日本ユネスコの協力のもと2005年11月に創設された。生命科学、物質科学の分野からそれぞれ毎年2名程度、計4名程度を選考する。私立大学からは記念すべき初の受賞者となった。

 田中さんは2003年、学部4年生の時から、天然物の有機合成を行っている中田研究室に所属。当初から研究に心血を注ぎ、微生物が生み出した抗がん作用が期待される物質を化学合成する、新たな手法の開発に成功した。複雑な構造のため合成は非常に難しく、開発例は世界でも実に3例目の快挙だ。

 現在の研究室に所属してからの5年間、1日平均12時間、合計2500回以上の実験作業を毎日ひたすら繰り返した。「何度も辞めたいと思いました。そんな時いつも支えてくれたのが、指導教授の中田雅久先生や同じ研究室の仲間でした。だから今回の受賞は私一人の力ではなく、研究室全体の成果です」と控えめに話す。それでも「同じ研究分野で成果を出している人を学会で見ると、とても悔しかった」と正直な気持ちも隠さない。そんな言葉の端々からは、研究者に不可欠な「情熱」と「負けず嫌い」の感情があふれ出してくる。

 大の理科好き少女だった田中さんは、顕微鏡や天体望遠鏡をのぞき込んで、小学生時代を過ごした。「国語は大の苦手でしたね(笑)。進学した高校で、女性の化学教師にたまたま教わったことも、研究者への道を歩むきっかけにもなりました」

 研究以外にもさまざまな趣味を持つ行動派の田中さん、もっとも心が安らぐひとときは美術館などで絵画鑑賞をするとき。田中さん自身も、子供のころから実際に風景を描くことで自然に触れ、注意深く自然を観察することで、科学への関心が高まったという。「科学で大切なことは『自然に挑戦しながら進歩し続ける』こと」。そのモットーが、科学者として田中さんの謙虚で前向きな姿勢を物語る。

 来年4月からは大手製薬会社の研究所へ就職が決まっている。「新薬を開発して、病気で苦しんでいる人々の手助けをしたい」と、今回の研究成果を製薬分野でも存分に生かそうと意欲を燃やす。「これからは女性の科学者が少しでも増えるように貢献したいです」。今や自分自身が後輩たちの目標となる立場だ。早稲田が育んだ女性科学者の、さらなる躍進を期待したい。

(提供:早稲田ウィークリー

田中 奈津美(たなか・なつみ)

1981年千葉県生まれ。お茶の水女子大学付属高等学校卒業。理工学部卒業。先進理工学研究科、化学・生命化学専攻、博士後期課程3年。中田雅久研究室。抗がん作用が期待される物質の人工合成法の新規開発で、第3回ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞受賞。来年からは大手製薬会社の研究員として勤務予定。趣味は書道、絵画鑑賞、自らも絵画を描く。