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さだまさしマニア×バイリンガル芸人 沖縄国際映画祭で活躍の異色コンビ
倉持 治(くらもち・おさむ)/商学部 4年
佐久間 啓輔(さくま・けいすけ)/国際教養学部 4年
2017.11.7
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「学生映画って気持ちが見えないものが多い。だから、感情が爆発する瞬間を撮りたかった」
大学公認映画サークル「シネマプロダクション(シネプロ)」で出会い、初の共同作品『さんさんごご』が第8回沖縄国際映画祭U-25部門でグランプリと観客賞をW受賞、賞金と自分たちで集めた資金約110万円で長編映画『花はだいだい』を完成させた、早大生映画監督の倉持治さんと佐久間啓輔さん。好きなものを突き詰めた先にある、二人の夢とは?
――そもそも、なぜ映画作りに興味を持ったんですか?
- 倉持治さん(以下、倉持)
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僕は小中高とずっとスポーツをしてきて、文化的なことにあまりなじみがなかったんですが、映画を見るのはすごく好きで。入学した商学部では、あらかじめ決まっていることや実践的な勉強がメーンなので、もうちょっと幅のあることをやりたいと考えていたときに映画サークルを知りました。1年次に先輩に頼まれて出演した『日陰のスワン』(監督:早坂裕介)が第28回東京学生映画祭に出場できて、会場にこんなにたくさんの人が見てくれるんだというくらい観客がいて、自分も作ってみたいなと思ったことがきっかけです。
- 佐久間啓輔さん(以下、佐久間)
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そもそも「映画ってすごい!」と思ったのは、小学生のときに見た『火垂るの墓』がきっかけでした。歴史の授業で「太平洋戦争で何百万人が亡くなりました」と聞いても正直ピンと来なかったんですけど、あの映画を見て、戦争は絶対にいやだと痛感したんです。そんな影響力のある映画を自分も作りたいと、そのとき初めて思いました。中学校に入ってハリウッド映画が好きになり、将来はそんな仕事がしたいと思ったので、英語を身に付けるためにアメリカ・ペンシルベニア州の高校に進学しました。早稲田大学入学後はお笑いサークル「POP 3」に入ってスタンダップコメディー(※一人で舞台に立ち、話術で観客を笑わせる芸)やコントなどをやっていたんですが、実は映画が好きなんだと友達にこぼしたら、映画サークルを紹介してくれたんです。
――一作目の『さんさんごご』、二作目の『花はだいだい』共に「疑似家族」がテーマになっています。二人でどのように作っていったのですか?
- 倉持
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子どものころから親の影響でさだまさし(※歌手)さんのファンなのですが、彼の歌や映画で家族がよく取り上げられているというのが理由の一つ。それから、高校2年生のときに母親ががんで入院したんですね。それまで家族って当たり前の存在だと思っていたんですけど、ずっと支えてくれていたんだなと。家族って本当に大切なんだと実感して、そのテーマを選びました。それで『さんさんごご』を作る際、サークル内の映画に出演していた佐久間を見たときに演技が群を抜いてうまかったので、最初は俳優として声を掛けたんです。さすがスタンダップコメディアン!と思って(笑)。ストーリーや脚本を相談すると、言ったことをまとめてくれたり、展開やせりふ回しを考えてくれて、あらためてスタンダップコメディアンはすごいなと(笑)。そんないきさつから、脚本もお願いすることになりました。
- 佐久間
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「スタンダップコメディアン」って言いたいだけだろ(笑)。でも、もともと妄想したことを書く癖があったり、お笑いサークルでコントや漫才のネタを作ったりしていたので、話を書くことに慣れていたんですね。映画の脚本を書くときも、その経験がすごく役立ちました。
――自主制作の『さんさんごご』と違い、『花はだいだい』は自分たちで制作費約110万円を調達し、100人規模のオーディションも行いプロの俳優を起用するなど、多くの人が関わってできた映画ですが、手応えはどうでしたか?
沖縄国際映画祭で、たくさんの観客の中レッドカーペットを歩く二人
- 倉持
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資金集めがうまくいったことには、自分たちが一番驚いています。制作は大変なこともたくさんありましたが、印象に残っていることとして、モニター越しに感動することがよくありました。ラストシーンの撮影では、スタッフみんなが泣いていました。監督としては観客の立場になって登場人物を客観的に考えなければいけないですが、その場にいる人たちの感情を引き出すような瞬間があるのが、映画撮影の面白いところだなと思いますね。『花はだいだい』を通して、監督ではなく、撮影の方に興味が移っていったのも自分としては発見でした。
- 佐久間
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僕は自分の甘さを実感しました。沖縄国際映画祭で上映したとき、見た人が「話が甘い」と言っていたのを小耳に挟んで、すごく悔しかったんですよね。映画サークルだと「話を考えました、じゃあ撮りましょう」という環境が楽で居心地が良かったし、楽しかったのですが、それに甘えていたのかもしれません。将来、商業ベースで映画を作るためには、もっと自分に厳しくならないといけないと感じました。だから、誰にも有無を言わさない面白い話を作ろうと思って、最近はずっと脚本を書いていますね。
――好きな授業や映画を作るにあたって役立った授業などはありますか?
- 倉持
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「教育心理学」(担当:高橋あつ子教育・総合科学学術院教授)の授業ですね。授業の始まりに、小学生がするような遊びをしたんですけど、それが子供心に帰るような感じで面白かったです。
- 佐久間
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僕も似た理由で、「Educational Drama」(担当:藤倉健雄国際教養学部非常勤講師)という授業ですね。子どもに演劇を教えるための授業なのですが、子どもに物事を伝えるのって、シンプルなだけに一番難しいことなんじゃないかと思いました。チーターになりきって動いたり、心理学を活用したり、すごく勉強になりましたね。
- 倉持
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子どもに何か伝えるって、言葉で論理的にというより、ちゃんと感情を出さないと伝わらない。普段の生活の中で、感情を出す機会ってあまりないじゃないですか。映画館でもシーンとして見てるし、波風立てるようなリアクションをする場所ってない。だからそういう場面って大事だなと思いました。
- 佐久間
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それって『さんさんごご』を作るときの理由の一つだったよね。学生映画って、みんなきれいな感じで納めたいのか、本気で泣いたり笑ったり感動したり、感情をそのまま表現しているのってあんまりないんです。だから、感情がストレートに爆発する瞬間を撮りたいねと倉持とは話していました。そういう意味で、『さんさんごご』も『花はだいだい』も"直球"の映画なんです。
――これからの予定は?
- 倉持
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卒業後はテレビ局に就職して報道カメラマンになります。学生のうちにやりたいことは全部やろうと思っていて、夏休み中に東日本大震災で大きな津波被害を受けた福島県南相馬市に滞在し、知人の祖母に密着取材したドキュメンタリーを撮影しました。就職したらしばらくは自分の映画は作れないかもしれませんが、報道やドキュメンタリーでも自分の思いを伝えられるものを作っていきたいですね。
- 佐久間
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僕は学生時代の最後の1年間は米国フロリダの大学に留学して、広告や映像の勉強をします。その大学はCGやモーションキャプチャーのスタジオが充実しているので、それも楽しみです。将来は、映画監督になりたいです。
- 倉持・佐久間
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作った映画についてはできるだけ多くの人の意見が知りたいです。 DVDをお渡しするので、キャンパスで僕たちを見掛けたら、ぜひ声を掛けてください!
(提供:早稲田ウィークリー)
倉持 治(くらもち・おさむ)/商学部 4年
神奈川県出身。横浜市立南高等学校卒業。1年次に出演した『日陰のスワン』(監督:早坂裕介)は第28回東京学生映画祭本選出場。自身も主演俳優賞を獲得。2年次に初監督を務めた『さんさんごご』が「第28回早稲田映画まつり」で観客賞を受賞、「AOYAMA FILMATE」「ところざわ学生映画祭」でも本選進出。「第8回沖縄国際映画祭」U-25部門でグランプリと観客賞をW受賞。4年次にダブル監督作品『花はだいだい』が、第9回同映画祭でプレミア上映された。両作で監督・撮影を担当。
佐久間 啓輔(さくま・けいすけ)/国際教養学部 4年
愛知県出身。Hempfield Area Senior High School卒業。2年次に主演した『Lacuna』(監督:松本仁志)は第28回早稲田映画まつりでFilmarks賞を受賞、イタリア・ベネチアで開催されたCa’ Foscari Short Film Festivalの招待作品となった。『さんさんごご』では脚本と主演、『花はだいだい』では監督と脚本を担当した。
二人が尊敬する人は、沖縄国際映画祭で出会い以後もアドバイスをいただいている、中江裕司さん(※『ナビィの恋』『ホテル・ハイビスカス』の監督)。「40年近く商業映画を撮っているのに、今でも映画に対する情熱が純粋なのがすごい」(倉持)「『映画は愛しか映さない』など、発言が名言ばかりで刺激的」(佐久間)。