早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

読売新聞オンライン

ホーム  > 文化

文化

Chang Boye(ちゃん・ぼいぇ)/早稲田大学文化推進部文化企画課学芸員  略歴はこちらから

大学ミュージアムを知的・文化的情報発信の拠点に

Chang Boye(ちゃん・ぼいぇ)/早稲田大学文化推進部文化企画課学芸員
2021.3.18

 日本で最初に博物館が登場したのは、1872(明治5)年のことである。

 1871年に創設された文部省は省内に博物局を設置、翌年、「文部省博物館」という名称で湯島聖堂大成殿を会場に博覧会を開いた。これはオーストリア・ウィーンで開かれる万国博覧会(1873年)への出展参加に向け、国内での資料の収集や保管、公開を目的としたものだった。日本最古の博物館「東京国立博物館」の始まりである。

 それから150年が過ぎたいま、全国の博物館施設は5,700館を超え(文化庁調べ。201810月現在で5,738館)、日本は世界でも有数の「博物館大国」となっている。

 文部科学省の社会教育調査区分によると、博物館の種類は、総合博物館、科学博物館、歴史博物館、美術博物館、野外博物館、動物園、植物園、動植物園、水族館と多岐にわたる。いっぽう、この分類とは別に、大学に附属する「大学博物館」と称される博物館がある。調査によってその数はまちまちだが、現在、全国で200余の大学博物館が開館していると言われている。1996年、文部省の学術審議会学術資料部会が「ユニバーシティ・ミュージアムの設置について」と題した報告をとりまとめて以来、年々その数は増加の傾向にある。「ユニバーシティ・ミュージアム」については後ほど述べることとして、まずは早稲田大学内にあるミュージアムをご紹介したい。

 早稲田大学には計5つのミュージアムがある。

 まず、早稲田キャンパスには、1928年、坪内逍遥により設立された「坪内博士記念演劇博物館」(5号館)、また、1998年、旧図書館を改修して開館した「會津八一記念博物館」(2号館)、そして2018年に1号館にオープンした「早稲田大学歴史館」がある。

waseda_0318_engeki.jpg

坪内博士記念演劇博物館

 演劇博物館は、坪内逍遙博士が古稀を迎えたのと、その半生を注いだ「シェークスピヤ全集」全40巻の翻訳が完成したのを記念して、各界有志の協賛により設立された。古今東西の演劇・映像に関連する資料およそ100万点を所蔵し、様々な分野の研究活動に貢献している、アジアで唯一の演劇・映像専門博物館だ。16世紀イギリスの劇場「フォーチュン座」を模して設計された建物は、1987年に新宿区の有形文化財に指定された。

waseda_0318_aidu.jpg

會津八一記念博物館

 會津八一記念博物館は、會津八一博士蒐集の東洋美術コレクションをはじめ、日本および世界各地で発掘された考古学資料や近現代の絵画、美術作品などの資料約2万点を所蔵している。その中には、重要文化財1件を含む東洋陶磁器、禅書画などの旧富岡美術館コレクションといった東洋・日本美術の秀逸な作品群も含まれる。建物は後に演劇博物館を設計した今井兼次の処女作で、1925年に大学図書館として建設され、1999年に東京都選定歴史的建造物となった。

waseda_0318_rekishi.jpg

早稲田大学歴史館

 歴史館は、早稲田大学の来歴に関する資料をはじめ、同大学がグローバル・ユニバーシティとして発展し続ける姿を可視化し、多様な切り口で大学の全貌を紹介している。そのほか、折々の興味深いテーマを取り上げ、建学以来積み重ねられてきた学術資産や調査研究による新しい成果なども随時展示している。正面玄関にある一対の御影石円柱は、1号館(1935年竣工)の建設にあたり、明治期に正門となっていた円柱を加工したものである。戦火に耐え、本学草創期の息吹を今日に伝えるこの円柱は、‟歴史を明日につなぐ"歴史館の象徴のひとつとなっている。

waseda_0318_sports.jpg

早稲田スポーツミュージアム

 続いて、戸山キャンパスには2019年、記念会堂の跡地に竣工した早稲田アリーナ内に「早稲田スポーツミュージアム」が同時オープンした。同ミュージアムは、近代以降の日本のスポーツ、特に大学スポーツの発展に大きく寄与してきた‟早稲田スポーツ"の歴史と栄光をたどっている。早稲田スポーツの象徴的なシーンや先進的な出来事の紹介を通して、早稲田らしさと誇りを感じることができるほか、体育各部の輝かしい実績や最新情報にも触れることができる。

waseda_0318_museum.jpg

本庄早稲田の杜ミュージアム

 さらに、本庄キャンパスには202010月に埼玉県本庄市と連携して「本庄早稲田の杜ミュージアム」が開館した。同ミュージアムは、本庄市と本学がそれぞれ所蔵する資料を共同で展示する施設としてオープンした。市と大学が所蔵する豊富な資料群を活用し、また、地域の歴史をグローバルな視点からとらえ、本庄の魅力を発信するとともに、地域文化の拠点となることを目指している。

 以上、長くなったが、これらが本学に附属するミュージアムたちだ。数もさることながら、これだけ多様性に富むミュージアムを抱える大学は、日本では稀有の存在であり、本学が豊富で歴史的価値の高い文化資源を有していることの証左ともいえる。これらを保存・整理し、調査研究を続け、展示や教育活動を展開して社会に還元していくことがミュージアムの使命である。

 1996年の文部省の学術審議会学術資料部会による報告「ユニバーシティ・ミュージアムの設置について」には、ユニバーシティ・ミュージアムの整備に関して以下の提言がなされている。

1.ユニバーシティ・ミュージアムの必要性
・学術研究の基盤である実証的研究を支援するものである。また、社会が要請する「開かれた大学」への具体的で有効な対応策である。

2.ユニバーシティ・ミュージアムの機能
・単なる学術標本保存施設又は収集した学術標本の展示を主たる目的とする施設ではなく、情報提供、公開・展示、研究、教育等機能を持つ必要がある。
*報告では学術標本を、「自然史関係の標本や古文書・古美術作品等の文化財に限定されるものではなく、学術研究により収集・生成された『学術研究と高等教育に資する資源』である」と定義している。

3.ユニバーシティ・ミュージアム整備の基本的な考え方
・学術標本を活用した研究・教育が発展する可能性のある大学に、地域性と学術標本の種類をも考慮して設置することが望ましい。
・国を超えて活用できるネットワークを構築し、個別の研究に世界的規模の視野と位置付けを与えることが望ましい。

 大学博物館には「学術標本の収集・整理・保存・公開の充実」に加え、それらを積極的に発信し、高等教育の成果を社会に還元する機能が求められている。

 ここ近年、本学の各ミュージアムでは様々な取り組みが行われ、博物館機能は目覚ましい進化を遂げている。その一例として、2017年に文化資源の幅広い教育的活用を目的に、文化資源データベースを構築した。現在、演劇博物館、會津八一記念博物館、大学史資料センター、文化企画課が所蔵するコレクションおよび史資料が横断検索できるほか、3Dデータベースやバーチャルミュージアムも実装されている。上述した「ユニバーシティ・ミユージアムの設置について」では、学術標本の公開・活用に資するため、多方面での利用者が活用できるデータベース化を図ることが望ましいとされた。まさにこれに相応するもので、学術標本の保存・活用の基盤となることから、今後さらに充実させていきたい。

 筆者が所属する本学文化推進部は、その使命に、1882年の建学以来、今日まで蓄積してきた多種多様でかつ貴重な文化資源の公開・活用を通して、新たな教育を展開、さらなる文化形成の発展に貢献すると同時に、大学と社会の結びつきをより強め、早稲田の文化を未来の世代へ継承していくこと──を掲げている。

 理想的な大学ミュージアムの姿を目指すにあたり、総合的な計画や人員体制、財政面、ネットワークの構築など、その課題は多いが、学芸員として今後もミュージアムを含む大学全体が知的・文化的情報発信の拠点となるよう積極的な推進を図っていきたい。

 會津八一は、1927年、大学創立45周年と大隈記念講堂竣工記念を祝う式典で、「実学論」と題して、学問の討究や教育における実物資料の重要性を力説し、実物を介して学ぶ博物館設立の意義を訴えた。そしてその後、早稲田大学には5つのミュージアムが誕生している。このほか、2021年秋には国際文学館(通称「村上春樹ライブラリー」)も開館予定だ。

 現在、我々は會津が理想としていた姿に、どこまで近づくことができただろうか。今後さらに、本学の文化資源の活用およびその継承に力を注いでいきたい。

Chang Boye(ちゃん・ぼいぇ)/早稲田大学文化推進部文化企画課学芸員

2013年8月~20188月 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館学芸員
2019年12月から現職