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中門 亮太(なかかど・りょうた)/早稲田大学會津八一記念博物館助手 略歴はこちらから

オセアニア民族造形美術品展 —1089点の寄贈コレクション

中門 亮太/早稲田大学會津八一記念博物館助手

 早稲田大学文化推進部では、2010年度に埼玉県鶴ヶ島市からオセアニア民族造形美術品1089点の寄贈を受けました。この度、早稲田大学文化企画課と早稲田大学會津八一記念博物館の共催により、「オセアニア民族造形美術品展」を開催いたします。

オセアニア民族造形美術品の成り立ち

 寄贈された資料は、新潟県石打村(現南魚沼市)出身の故・今泉隆平氏(1908~1997)が、民族美術品の輸入販売をしていた大橋昭夫氏を通じて収集したものです。現在では制作されなくなってしまった資料も多く、世界的に見ても貴重なコレクションと言えます。

 資料は、パプアニューギニアの精霊堂の柱や精霊像を中心に、仮面、楯や槍などの武具、太鼓や笛などの楽器、土器・木器などの日用品と、多岐にわたります。収集地域もセピック川流域のほか、ニューギニア高地や海岸地域、島嶼部など広い地域に及びます。パプアニューギニアには、700を超える部族、800を超える言語があるといわれており、現在でも親族組織を中心とした部族社会が根幹にあります。そのため、例えば一口に精霊像と言っても、地域によって精霊の顔や描かれる表象、色使いなどが異なり、様々な表情があります。會津八一記念博物館1階企画展示室では、寄贈資料を地域ごとに展示し、その多様な民族世界を垣間見ることができるよう展示を構成しました。

多様な民族世界

 パプアニューギニアは、日本から南に約6000㎞、赤道とオーストラリア大陸にはさまれた南太平洋上に位置します。16世紀の西欧社会における「地理上の発見」以降、「最後の楽園」、「最後の石器時代」、「未開人・野蛮人」など、所謂「文明人」の毀誉褒貶に晒されてきました。しかしながら、欧州から遠く離れた太平洋上に位置するという地理性、熱帯下の過酷な自然条件による開拓の困難さ、色濃い部族社会の存在などのため、アフリカやアメリカ大陸と比べて植民地支配による影響が少なく、伝統的な社会や信仰が保持されてきました。

 寄贈資料の中心を占めるのが、セピック川流域の精霊像と精霊の仮面です。人々は、あらゆるものに精霊が宿っていると考えおり、キリスト教が普及した現在でも、精霊信仰は人々の生活の中心となっています。彼らが生み出す彫像や仮面などの民族造形品は、「セピックアート」と称され、世界でも貴重な民族芸術として評価されています。

 企画展示室に入ると、正面にアベラム族の「精霊の家:ハウスタンバラン」の資料が並んでいます(写真1)。精霊の家は、セピック川流域を特徴づける建物で、地域や部族によって様々な形がありますが、いずれも集落の中央に聖堂のごとく建てられています。室内では様々な儀礼や、社会秩序を保つための会議が行われますが、基本的には通過儀礼を経た成年男性しか入室が許されません。通過儀礼では、体に傷をつけて瘢痕分身を作り出す例が多く見られます。精霊の家の室内には、所狭しと精霊像や仮面が並んでおり、若者はたくさんの精霊に見守られ、その力を得ることで一人前の男として生まれ変わるのです。アベラム族の精霊の家(写真2)は、三角錐形をしており、赤や黄色で鮮やかに描かれた樹皮絵画が隙間なく敷き詰められるのが特徴です。パプアニューギニアの国会議事堂のモデルにもなっており、まさにセピックアートの代表格と言えるでしょう。精霊の力は、人々の健康や部族の繁栄から、作物の豊穣、狩猟の成功、戦争の勝利など様々な事柄に及びます。その他にも、鳥や蛇、ワニなどを自分たちの祖先とする信仰があり、彫像類にも様々な姿で描かれています。彫像の中に隠された動物を探すのも、展示品を見るうえでの一つの楽しみ方でしょう。

写真1

写真2

 次に、マダン州やハイランドの資料に目を向けてみましょう。マダン州ラム川下流域は、セピック川流域と並ぶ彫像類の産地として知られています。古くはセピック川とラム川は一つの大きな湾をなしており、同じ文化圏に属していたと考えられ、セピック川下流域の資料と似た表情をしています。ハイランドは、ニューギニア島の脊梁たる中央山脈周辺の地域で、熱帯地域にありながら降雪が見られます。他の地域と比べ気候が穏やかで、熱帯病のリスクも少ないことから、古くより多くの人々が暮らしてきました。他の地域と比べ好戦的な部族が多く、現在でも時折部族間の闘争が見られます。楯を見ると薄手で軽く、より実戦的な形が見られます。「マッドマンの土面」(写真3)も、争いに弱い部族が戦わずして敵を追い払うために生み出されたものです。

写真3

写真4

 一方、モロベ州やミルンベイ州の資料は、セピック川流域やハイランド地方の原色豊かな資料と比べ、幾分落ち着いた印象を与えます。これらの地域は、海岸部・島嶼部と言われる地域で、多くの島々が点在しています。土壌がやせていて作物が十分に育たない島や、日常の調理に必要な土器を作るための粘土が採れない島など様々な環境があり、人々にとって周辺の島々との交易は、生活のために不可欠でした。特に、ミルンベイ州トロブリアンド諸島を中心に見られる儀礼的交換である「クラ交易」は、B. マリノフスキの研究によって広く知られています。寄贈資料には、クラ交易に使われたカヌーの舳先飾り(写真4)のほか、各地域で半ば特産品として製作された土器や木器があります。本地域の資料は交易品としての性格が強く、洗練された丁寧な作りのものが多くみられます。

 大隈記念タワー10階125記念室では、会期を2期に分けて、それぞれ「あらわれたる霊のかたち」、「現代(いま)に伝う暮らしのかけら」と題して展示を行います。前者では精霊像や仮面を中心とした精神世界を、後者では農耕や生活にかかわる道具、武具などを展示します。併せてご覧いただくことで、パプアニューギニアの世界をより深く知っていただけると思います。

ワントクの精神

 パプアニューギニアの社会では、「ワントク:wantok」と言われる文化があります。語源は“one talk”、一つの同じ言葉を話すという意味で、親戚や友人、仲間などを指す言葉です。私はこれまで何度かパプアニューギニアへ調査に行きましたが、いつの時も人々はワントクとして温かく迎え、笑顔で協力してくれました。しかし、時には「お前の調査は我々に何をもたらしてくれるんだ?」という問いを受けることもあります。「あくまで学術的な調査である」ということで納得をしてもらいますが、ワントクの文化からすると、情報を提供してもらうだけというのは一方的なのかもしれません。今回の展示を通して、多くの人にパプアニューギニアの世界を知っていただけることで、彼らのワントクとして少しでもお返しができればと思います。

埼玉県鶴ヶ島市寄贈 オセアニア民族造形美術品展
  1. 共催:早稲田大学文化企画課・早稲田大学會津八一記念博物館
  2. 協力:埼玉県鶴ヶ島市・鶴ヶ島市教育委員会
  1. —多様な民族世界—
  2. 2011年11月21日(月)~2012年1月12日(木)
  3. 開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで) 入館無料
  4. ※日曜祝日、12月23日~1月5日の期間、1月10日は休館
  5. 会場:早稲田大学會津八一記念博物館 1階企画展示室
  6. http://www.waseda.jp/aizu/index-j.html
  1. —あらわれたる霊のかたち—
  2. 2011年12月12日(月)~2012年2月29日(水)
  1. —現代(いま)に伝う暮らしのかけら—
  2. 2012年3月10日(土)~2012年4月21日(土)
  3. 開館時間 10:00~18:00 入館無料
  4. ※日曜祝日、12月29日~1月5日の期間、1月10日は休館(ただし3月25日、4月1日は開館)
  5. 会場:早稲田大学大隈記念タワー 10階125記念室
  6. http://wasedabunka.jp/event/exhn/archive/2011/ex125log_20111108.php
【関連企画】
  1. ポリトライブ特別展~パプアニューギニア精霊の森の暮らし
  2. 2011年12月13日(火)~12月22日(木)
  3. 開館時間 9:30~17:45
  4. ※12月19日(月)は閉館
  5. 会場:鶴ヶ島市立中央図書館 2階展示室

中門 亮太(なかかど・りょうた)/早稲田大学會津八一記念博物館助手

1982年生まれ。2009年早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程入学、2011年4月から現職。専門は日本考古学、民族考古学。