早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

読売新聞オンライン

ホーム > キャンパスナウ > 2016 錦秋号 SPECIAL REPORT

キャンパスナウ

▼2016 錦秋号

SPECIAL REPORT

平昌、そして東京へ−
躍動のリオデジャネイロ

2016年の8月から9月にかけて開催されたリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック。早稲田大学から多くの校友・学生が出場しました。リオで躍動した「Waseda」の足跡を振り返りつつ平昌と東京、未来のオリンピック・パラリンピックを見据えた取り組みを紹介します。

選手を支えた早稲田のスタッフ

 選手たちが力を最大限に発揮できるよう、日々サポートするドクターやコーチ。
早稲田からも各選手団の一員としてリオデジャネイロに赴いたスタッフが多くいます。
今回は、日本の陸上と競泳のチームをそれぞれ支える奥野教授と鳥居准教授に、五輪での経験や、今後学生に伝えたいことを語っていただきました。

確率させたコーチング方法論を学生にも伝えたい

スポーツ科学学術院
教授(スポーツ方法学)
早稲田大学水泳部 総監督
奥野 景介

 日本の水泳チームのコーチとして、選手団に加わりました。競技技術の指導だけではなく、高地トレーニング合宿の場所選定や、12時間もある時差の解消法など、選手のコンディションを整えるためにスポーツ科学の知見を存分に活用しました。早稲田にはさまざまな分野の専門家がそろっているため、食事における栄養の摂り方から新たなトレーニング機材に至るまで、いつでも知識を借りられる環境は強みでした。

 部としては数年前から、選手のモチベーションを引き上げるため、定期的に選手一人ひとりと面談し、個人目標を定める個別ミーティングを始めました。目標は全力を尽くさないと達成できず、かつ不可能でもない位置に設定することが、選手のモチベーションを最大限に高められるといわれています。このぎりぎりの目標に向かって選手がアグレッシブに取り組んでくれたため、今回、部員2人が見事にメダルを獲得でき、他の選手も自己目標タイムを更新しました。結果はもちろんうれしいですし、スポーツ科学を活用した方法論は正しかった、とさらに上を目指せる自信になりました。

競泳のコーチ陣と記念撮影。前列中央が奥野教授

 今後は、世界で戦う体験と学術的知見を併せたコーチングの精度をさらに高め、水泳部では選手の競技力がさらに向上するよう指導を続けます。同時に、私が考える最前線の現場での実体験に基づいたコーチングについて、授業を通して学生に還元し、伝えていきたいと考えています。

選手のサポートは日常のコミュニケーションから

スポーツ科学学術院
准教授(運動器スポーツ医学)
鳥居 俊

 整形外科のスポーツドクターとして、早稲田の現役・OBの選手4人を含む全52人の陸上チームに同行しました。陸上選手団のドクターは私ひとり。陸上競技のさまざまな種目で活躍する52人全員分のデータを頭に入れながら、トラックを駆けまわって選手を診ていました。

 3大会前くらいまでは、選手が五輪直前にトレーニングで故障し、出場できなくなるというケースが相次いでいました。さまざまな対策でこの状況は改善されつつありましたが、私はさらに万全を期すため、準備をロンドン五輪が終わってすぐの4年前から開始。有力選手が集まる大会や合宿に自ら足を運び、選手一人ひとりとコミュニケーションを重ね、もともと持っているけがや故障しやすい箇所についてデータを集めました。準備のかいあって、今大会は選手が直前に出場できなくなるような新たなけがをせずに終えられたことには手応えを感じましたし、気持ちはそれ以上ですね。特に、銀メダルを獲得した男子400mリレーは、ベストメンバーでけがをせず臨めたことがよい結果につながったと思います。

オリンピック中に選手に声をかける鳥居准教授

 ドクターである私はコーチと選手の橋渡しの役割も担っています。選手たちには気軽に何でも話してほしいし、その環境をつくりたい。本番で目標が達成できるよう、少しでも良い結果が出せるよう、手伝いができたらいいなと思っています。そのためにも、日常的なコミュニケーションによる日々のケアを意識し、本番はベストコンディションで臨めるようにもっていくことが大切だと実感しています。私の研究室に限らず、トレーナーなど選手のサポートをする仕事を目指す学生はスポーツ科学部の学生をはじめとして早稲田に多くいるため、今回五輪で得た経験は学生にも伝えていくつもりです。

関連研究の紹介

スポーツやオリンピックに関連する早稲田大学の研究を紹介します。

競技力を大きく左右する睡眠

スポーツ科学学術院 教授
(睡眠医学・精神医学)
内田 直

 競技力を向上する三要素は、練習、栄養、休息・睡眠と言われています。スポーツと睡眠の関係が研究対象になったのは、ここ15年くらいのこと。早稲田大学でも、アスリートのパフォーマンスを最大化する睡眠条件や時差対策の研究を進めてきました。

 国際試合で世界中を飛び回っているアスリートの悩みの一つが、時差ぼけです。オリンピックの場合は、約2週間前から現地入りして徐々に体を慣らし本番の試合に臨みますが、時差ぼけがなければ、現地ですぐに充実したトレーニングを始めることができ、安心感が高まるでしょう。これまでにも多くのアスリートが時差対策を行い、効果を報告しています。特に時差ぼけの影響が出やすい東向きの移動の場合は、体の中のリズムを現地の時間に合わせてから行くことが理想的。日本で、夜更かし・朝寝坊を実践し、食事の時間もずらし、さらに光を浴びる時間、眠気を誘うメラトニンの分泌なども調整し、複数の対策を講じることで、生体リズムを4時間くらいシフトしておけば、現地での時差が少なくなり、楽になります。

 今後もスポーツドクターとして、運動のタイミングが睡眠に与える影響など、未解明のテーマに取り組み、アスリートにアドバイスができればよいと考えています。

サーカディアンリズムと自然界のハーモニー

睡眠を司る、体温、メラトニン・コルチゾールの分泌、レム睡眠の周期は変わらないが、位相をずらすことはできる

バイオメカニクスの観点からパフォーマンス向上を目指す

スポーツ科学学術院 教授
(運動生理学・バイオメカニクス)
川上 泰雄

 人間の骨格筋のはたらきやトレーニング・成長・加齢による変化、身体運動能力の規定因子やその向上方策に関して、運動生理学・バイオメカニクスの観点から研究を進めています。

 国際大会でのメダル獲得のためには選手のパフォーマンスを最大限に研ぎ澄ます必要があります。ところが、トップアスリートですら、自身のパフォーマンスや身体コンディションについて客観的で精確な評価をすることは難しい。この点に関して科学的アプローチを試み、「科学でメダルを獲る」日本を世界に向けてアピールしたいと考えています。

自身の「中身」を可視化

 平昌・東京でのオリンピック・パラリンピックに向けては、埼玉県の指定した「彩の国2020ドリームアスリート」の身体能力の詳細計測を研究室メンバーで実施中。トレーナーとともに選手の競技力向上サポートを行っています。

 さらに先の国際大会を見据えたジュニア選手の発掘・育成や、一般人の健康増進への応用(内閣府戦略的イノベーション創造プログラム:次世代農林水産業創造技術[時間栄養・運動レシピ開発])も行っています。

東京オリンピック・パラリンピックを地方創生につなげる視点

スポーツ科学学術院 教授
(スポーツマネジメント)
原田 宗彦

 スポーツは、人々を魅了するだけでなく、地域経済を動かす力も備えています。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に当たり、今、そのメガ・イベントをいかに都市・地域の活性化につなげるか、という戦略的な視点が求められています。

 参考となるのは2012年のロンドン五輪です。これを機にイギリスのインバウンドは増加。開催地周辺での人的交流や観光等により地域経済への波及効果が顕著な事例となりました。

 一方の日本は、競技施設のほかにスキーやマリンスポーツ等のレジャー環境も充実するアジア随一のスポーツ資源大国。スポーツを観光資源として、地域に人を呼び込む「スポーツツーリズム」の取り組みが期待されます。

 このようなスポーツと地域資源の戦略的な活用を進めるのが官民一体の組織「スポーツコミッション」です。既にスポーツの力に着目する自治体は増えており、日本全国にスポーツコミッションが続々と誕生しています。

 2020年の東京に前後して、ラグビーW杯やワールドマスターズゲーム等の誘致も決定しており、こうした国際大会の継続的な開催はさらなる波及効果が期待できます。私も現在、官民双方の取り組みに携わっており、スポーツの新たな可能性を開く一助となる考えです。

原田教授が誘致に携わった国際自転車レース「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」。2015年はパブリックビューイングも含めると14万3千人の観客を集めました。国際的スポーツ大会が地方創世に寄与した好事例といえます。
Photo:Yuzuru SUNADA

『スポーツ都市戦略』 原田宗彦著 (学芸出版社)
オリンピックを契機に、都市や地域の持続的な成長につなげるための方策がまとめられています。