早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

読売新聞オンライン

ホーム > キャンパスナウ > 2016 新緑号 SPECIAL REPORT

キャンパスナウ

▼2016 新緑号

SPECIAL REPORT

“多様な個の尊重”と“全国の教育現場への貢献”を貫いて
早稲田の教員養成

教員就職で、トップクラスの実績を誇る早稲田大学。 長い歴史を通して、多くの教育者を全国の学校現場に送り込んできました。 一方で、教育界はさまざまな変化の渦中にあります。 それに対応するための新たな取り組みにも触れながら、教員養成に込める思いを紹介します。

対談

早稲田大学で養う人間力を教育の現場で生かしたい

教職支援センター副所長の三尾忠男教授と、校友であり教育の現場で活躍する本間信治先生が、教育現場の課題や大学の教職課程に求められることを語り合いました。

良い先生との出会いが人生を豊かにする

三尾  本日は、本間先生とお話できることを楽しみにしてまいりました。まず、私が教員を志した理由ですが、小学生のときの忘れられない経験があります。授業中に質問されたときに、答えられずに詰まってしまった私を1時間待ち続けてくれた先生がいました。クラスメイトも先生と一緒に辛抱強く待っていてくれた。その先生との出会いがその後もずっと私に影響し、教職への想いを強くしましたね。

本間  教員の心の余裕が感じられる素晴らしいエピソードですね。私が教員を仕事に選んだのは、当時は社会運動が盛んだったので、社会を客観的に見られる職業だと思ったからです。卒業してすぐ、産休代替で小学校の先生になったのですが、子どもたちが全く言うことを聞かない。これは難しいと思う一方で、逆に教育は授業で勝負するものだということが分かって、東京都の小学校教員認定試験を受けて現在に至ります。教員は、俳優に似ていると思いませんか。教壇は舞台で、聴衆である子どもたちを惹き付け、満足してもらう。授業後に「勉強した!」という顔をしていたら成功です。新米の頃、先輩に「おはようと言うときの顔を研究しなさい」と言われ、鏡を見て笑顔を練習しました。子どもたちからどう見られるかを常に意識しなければなりません。

三尾  その通りですね。本物の俳優と違うところは、脚本も演出も自分で行うというところでしょうか。私も授業の終わりに、学生が納得した顔をしていると教員としての醍醐味を感じます。

教員はもっと自由で、個性的であれ

三尾  本間先生は、早稲田大学ではどのような学生時代を過ごされましたか。

本間  朝倉征夫先生のゼミで学びました。本当に尊敬し、この先生に一生ついていこうと思っていました。教育実習の相談にも乗っていただきました。

三尾  現在、本学の教員就職指導室では教員志望の学生に採用試験の論文指導や面接指導など、無償で指導会と個別面談を行っています。この規模でここまで手厚いサポートをしている大学は少ないのではないでしょうか。

本間 稲門教育会でも採用試験合格者を集めて、励ます会を行っていますよね。大学と校友が一体となって教員人生を支えています。早稲田大学出身の教員の皆さんは行動力があって、自分の意見を言える人が多く、多彩な人材が揃っていると感じています。

三尾  子どもが接する大人は限られているので、教師も多様であることが大切ですね。

本間  教員は、子どもに共感するところから指導が始まります。だからこそ、挫折や苦しみの経験があって、子どもの辛さを理解できる人材が求められています。

三尾  早稲田大学はもともと多様性のある大学で、学生もバラエティに富んでいますが、個性豊かな人間的魅力を教員という仕事で生かせるといいのですが……。

本間  そうですね。実際の現場では多くの課題に追われ、多忙化の中で、教員が個性を発揮しづらくなっています。子どものためにも、もっと自由でいいと思います。一昔前とは職場環境も変わって、教員同士がインフォーマルな飲み会で語り合うことも減りました。仕事とプライベートの間で学べることもあると思うのですが……。

三尾  そういった場で相談する機会もなく、未熟な情報だけで、教職に希望を失って辞めてしまう新任教員もいます。何らかの方法で先輩教員がより積極的に関わり、新任も受け止める気持ちが必要かもしれませんね。

多様な価値観の中でも子どもたちを最優先に

三尾  本間先生は教育の現場で、今どのような課題を感じていますか。

本間  現代社会の矛盾は教育現場に表れています。子どもの貧困は大きな問題になっていて、朝ごはんを食べて来ない子も少なくありません。

三尾  私の子どもの頃は、何があっても朝食をとって、学校に行っていましたが、今は保護者の学校に対する価値観が多様で、それがマイナス面に働くこともありますね。

本間  価値観の多様性を認めたいとは思いますが、大前提として、子どもを大切にしてほしいと思います。

三尾  子どもたちにとって何が大切なのかを見失いがちな社会になっていますね。恵まれた環境で育っている学生のほとんどは厳しい環境に置かれた子どもの現状を知りません。教員を目指す学生には、そういった厳しい現状を理解する機会も必要です。

本間  また、文科省の調査によると発達障害は6%の子どもにあると言われ、また虐待を受けた子どもも発達障害と同様の行動を示すという説があります。それに関連すると、日本の子どもの自己肯定感の低さも問題です。

三尾  私が教える早稲田の学生も、自己肯定感が以前より低くなっているのを感じます。自分に自信が持てないのはかわいそうです。これはまさに教育の問題ですね。今、教員側にはどのような課題がありますか。

本間  子どもに向き合う時間をいかに増やすかという課題があります。教育委員会も事務の効率化のためにハード面での支援はしてくれていますが、保護者対応などに掛かる時間が増え、余裕がない。

三尾  授業でICTの活用が進み、学習効果は上がっていますが、その準備には時間がかかりますよね。

本間  国は2020年までに小中学校の生徒一人にタブレット端末を一台整備する目標を掲げていますが、学習が個別化してしまうことが心配ですね。もちろんメリットはありますが、一方で、共に学び合う機会が減ってしまうので、人と関わる力が弱くなってしまうのではないかと危惧しています。

“言葉の力”を持った教員が求められている

三尾  最後に、長年教育の現場に携わっておられますが、教員に必要なものは何だと思いますか。

本間  子どもに共感し、言葉の力で支援することではないでしょうか。

三尾  子どもを一人の人格として尊重するということですね。

本間  教師の言葉によって、自信をつけ、才能を開花させた子どもはたくさんいます。早稲田の教職課程では、それができる教員を育ててほしいと願っています。2030年には、人工知能によって現在ある仕事の何割かはなくなると言われています。今年生まれた子は、現時点で存在しない仕事に就くかもしれません。でも私は、時代がどう変わろうと、子どもたちを一人の創造性を持った人間に育てたい。人間自身が文明を創り、世の中を進化させていくということを子どもたちに教えたいと思っています。

三尾  子どもたちと向き合う一瞬一瞬に、何の意味があるのかを考え続けていきたいですね。

三尾 忠男(みお・ただお)/教職支援センター副所長 教育・総合科学学術院教授
専門は教育方法学、教育工学。修士(教育学)。京都教育大学特修理学科卒業。鳴門教育大学大学院で学校教育専攻を修了。文部省大学共同利用機関放送教育開発センター(後に、メディア教育開発センター)助手、同・助教授を経て、2001年に早稲田大学着任。2005年より教授、2016年より教職支援センター副所長。主な編著書に『FD(ファカルティ・ディベロップメント)が大学教育を変える』(共編)など。

本間 信治(ほんま・しんじ)/板橋区立舟渡小学校 校長
1978年早稲田大学教育学部卒業。埼玉県、東京都で小学校教諭、伊豆大島で教頭、全寮制の病弱特別支援学校の天津わかしお学校の校長を経て2015年より現職。著書に「大丈夫だよ。YOUAREOK!」(清風堂書店)がある。