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キャンパスナウ

▼2016 早春号

SPECIAL REPORT

図書館新時代

図書を読む人々が集う静かな空間――。
図書館といえば、そんな風景を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし早稲田大学図書館では今、その有り様を大きく変えようとしています。
時代の変化に対応して、より多くの人々に役立つ存在へ。
アグレッシブに進化を遂げる、早稲田大学図書館の姿をご紹介します。

Interview

静から動の”館(やかた)”へ時代に合わせて進化を続ける

早稲田大学図書館長の深澤教授に、今何が求められ、どのような図書館像を志向しているのか伺いました。

本質は変わらずに受け継ぐ

図書館長 理工学術院教授
深澤 良彰

―早稲田大学図書館で受け継いできた基本理念について教えてください。

 図書館の本質的な役割とは、知を集積する場であることといえます。その点、早稲田大学図書館は全国の大学図書館のなかでトップクラスの蔵書規模を誇り、かつ、図書、雑誌、電子ジャーナル、データベースなど、形式を問わないあらゆるタイプの学術資源を充実させてきました。

 加えて、これらの蔵書を社会的財産として捉え、国際的な図書文化の活性化や学術研究に広く貢献する姿勢も大切にしています。例えば、早い時期から世界的な書誌ネットワークOCLC(OnlineComputer Library Center)に参加。海外図書館とのデータ共有を実現してきました。さらには「古典籍総合データベース」を設置し、世界に向けて無料公開しています。一冊一冊を丸ごと、かつ、重要なものについてはいくつかの部分ごとにも分けて画像データ化しているため、貴重な古典籍を隅々まで閲覧できるのが特徴です。

 私たちにとっては当たり前のように取り組んできたことばかりですが、海外の研究者に接すると、こうした姿勢が高く評価されていることに気付かされます。特に、日本研究に取り組む研究者が来館した際に、開館の日数や時間、開架図書数などの充実ぶりも含めて、非常に喜ばれることが珍しくありません。

 このように知を集積する場として、必要とする人に必要な資料を提供するという考え方は、過去も現在も、そして未来においても変わることはないでしょう。

時代の変化に柔軟に対応する

―最近はどのような取り組みに重点を置いていますか。

 今後も引き続き大勢の人々に求められる大学図書館として存続するには、時代の変化に柔軟に対応することが大切です。

 従来、大学図書館は、授業や研究テーマに関連する資料を探し、読み込むことを主目的に訪れる場所、というイメージが長らく定着してきました。そのため館内では静かに資料を閲覧できるスペースに多くの面積を割き、また、職員は蔵書の管理に比重を置いてきました。

 そうしたなか早稲田大学図書館では、全学で掲げる「Waseda Vision150」および、ICTの進化・普及といった世の中の大きな動きも見据えて、新たな図書館像を打ち出しています。特に力を入れているのが、教育的機能の充実です。

 今、早稲田大学の授業は「WasedaVision150」に基づき、アクティブ・ラーニングと呼ばれる形式に移行しつつあります。対話型、問題発見・解決型の講義を通じて、学生の思考力やコミュケーション力、リーダーシップ力を伸ばすことがその目的です。

 図書館でもこうした時代の変化に呼応して、ディスカッションが可能なグループ学習スペースを館内に導入。周囲に会話がもれないようする防音機能、利用人数に応じて座席の配置を変えられる可変性を持たせ、学生が活発に議論しながら授業の準備に取り組める場を提供しています。現在、中央図書館では3部屋が稼動中です。その他、学内にはラーニングコモンズと呼ばれる同様の機能がいくつかあるため、こうした拠点とも連携を深めながら、学習の支援体制を学内全体で充実させていきたいと考えています。

グループ学習が可能なスペース

アクティブ・ラーニングの取り組みに呼応して導入。グループで議論しながら学習できる。
うち一室はガラス張りにして、図書館の入口付近に設置。外からも中の様子が見えるため、新たな図書館像を広く知らしめる役割も。

「”館”から出る」を合言葉にして

 一方、ICTの進化・浸透に伴って、学生たちは世界中にあるさまざまな情報を瞬時に検索・閲覧できる時代になっています。そのなかで設備や所蔵内容を充実させ、「さぁ、いらっしゃい」と待つだけでは、図書館の真の価値は見過ごされてしまいます。そこで「“館”から出る」を合言葉とした各種活動にも力を注いでいます。

 その一つが、外部と図書館をつなぐITネットワークの充実です。中央図書館に足を運ばなくてもレファレンスサービス(※1)を利用できるよう、メールフォームを利用したオンラインレファレンスを実現しています。また、将来的には同時操作でレファレンススタッフに相談できるシステムも構想しています。さらには、ILL(※2)の申し込みもオンラインで受け付けており、ネットから申し込んで近くの拠点で受け取れるサービスを展開しています。

 もう一つ、利用者および各学部と図書館をつなぐ教育・広報活動も積極的に行っています。例えば学部や大学院の新入生向けに授業内で講習会を実施し、図書館機能や資料探索法といった図書館情報リテラシーを身につける機会を提供しています。また研究室やゼミとも個別に連携し、学習・研究内容に応じてカスタムメイドの授業も行っています。教育の現場と図書館との距離を縮めたいと考えているのです。

 最近活発化している、学生ボランティア主催によるイベントや、学内の各博物館と連携した展示会の開催も広報活動の一つといえます。学生が図書館に触れる機会をあらゆるかたちで増やすことで、足を運ぶきっかけにしてもらうことが狙いです。

 これら教育的機能の充実に向けたさまざまな取り組みに共通しているのが、図書館が自前ですべての機能を取りそろえるのではなく、学内の多様なリソースを活用する姿勢です。グローバルエデュケーションセンターやITセンター、大学総合研究センター、ライティング・センター、各博物館など、図書館と親和性の高い各部署と有機的につながることで、利用者サポートのさらなる充実を図っています。

※1 レファレンスサービス:利用者の情報探索を図書館職員が支援するサービスのこと。利用者の質問や依頼に応じて情報・資料そのもの、あるいは探索方法等を提示する。
※2 ILL:Interlibrary Loanの略。自館では利用者の求める資料が提供できない場合に、他の図書館の協力を得て提供する、図書館間協力の仕組みの一つ。

職員にも求められる新たなスキル

―図書館職員に必要とされる能力も大きく変わってきているのではないでしょうか。

 職員はひたすら図書と向き合っていればいいという時代ではありません。もちろん、蔵書に関する専門知識を養うことは大切ですが、それと同時により積極的に利用者と向き合い、図書館を有効利用してもらうための提案やサービスの精神も求められています。図書館利用を促進するためのプレゼンテーション能力、あるいは利用者をサポートするホスピタリティ、イベント企画力など、今までの図書館職員には縁の薄かったスキルを磨いていかねばなりません。

 そうしたなか早稲田大学図書館では、2009年に「アカデミック・リエゾン」を設置。利用者接点業務を行う図書館員が講習会の企画立案、運営、教員との連携、講習会の講師を担当する体制を確立しました。このアカデミック・リエゾンのサービス向上に向け、図書館の各拠点に散らばっている担当職員がオンライン上でつながり、情報共有や意見交換できる仕組みを整えてきています。また、個人のスキルアップを目的に各種研修の受講を推奨しているほか、図書館先進国で実務などを経験する海外研修や国際会議へも定期的に参加しています。

電子ジャーナル利用のリテラシー向上が急務

―時代の変化に柔軟に対応していく上で、克服すべき課題はありますか。

 図書館に求められる役割が広がっているのに対し、限られた予算でそれらを実現しなければなりません。そのため定期的な蔵書内容の見直しや、外部に業務を部分的に委託するといった工夫により、効率的な運営を推進してきました。

 しかし昨今コストが大きく膨らんでいる分野もあります。特に負担となっているのが、電子ジャーナル関連の経費です。海外のジャーナルを中心に値上がりしていること、円安による為替レートの悪化、消費税増税という三重苦により、一挙にコストが増加している状況です。とはいえ電子ジャーナルは学術研究において非常に有用な媒体であるため、広く利用できる環境はできるだけ維持したいと考えています。

 そのなかで不可欠といえるのが、利用者のリテラシー向上です。大量のデータを不必要にダウンロードする行為が散見されるほか、利用者のI D・パスワードが違法に乗っ取られるといったリスクも抱えています。そのため電子ジャーナル利用に関する啓蒙活動に力を入れ、適切なシステムの利用、ID・パスワードの厳重な管理方法などについて普及したいと考えています。

ガイダンス&講習会

早稲田大学図書館では蔵書を豊富に取りそろえるだけでなく、各種サービスも充実させている。こうした機能をフル活用し、学びに役立ててほしい。そんな思いから、利用者支援に当たるアカデミック・リエゾンが学部や大学院の授業内で講習会を行うほか、図書館の適切な利用方法についてガイダンスを行っている。

イベント&展示の開催

学生が図書館に触れるきっかけづくりのためのイベントや、所蔵する貴重な資料を紹介する展示も積極的に開催している。

常に新しい図書館像を模索する

―今後に向けて抱負をお願いします。

 今、大学は変化の渦中にあります。前述した通り学生に関しては学び方が変わってきていますし、教員も研究者として国際的に厳しい競争にさらされており、より多くの資料に触れることが求められています。こうした変化に対応できる環境づくりに向け、図書館が中心的役割を担っていかなければなりません。ITなどの最新技術を引き続き積極的に活用しながら、図書サービスの充実に取り組み、常に新しい図書館像を打ち出していきたいと考えています。

深澤 良彰(ふかざわ・よしあき)/図書館長 理工学術院教授

早稲田大学大学院理工学研究科で博士課程を修了後、1992年早稲田大学理工学部情報学科教授に就任。2010年から2014年まで研究推進(総括)および情報化推進担当理事。2014年より図書館長。

多彩なニーズにバランスよく対応できるように

図書館調査役(電子資料担当) 笹渕洋子さん

 早稲田大学図書館は総蔵書数550万冊を超える国内有数の図書館ですが、近年は印刷体の資料以上に、インターネットを通じて提供される電子資料の整備により費用の多くを投じています。一口に電子資料と言っても、最新の研究成果である学術論文がいち早く掲載される電子ジャーナルから、ヨーロッパで15、16世紀頃に出版された書籍の画像イメージのデータベースまで、本学で必要とされる資料は多岐にわたります。また当館が誇る古典籍総合データベースは無料で公開していますが、海外出版社から提供される電子資料は有料、かつ価格が毎年上昇するため、限られた費用の中で必要な電子資料を維持し利用に供するには工夫が必要です。このような課題は他大学、また世界でも共通することなので、国内では「大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)」が出版社との価格交渉などに取り組んでおり、当館もその運営に継続的に参加しています。こういった学外からの情報も参考にし、本学にとってより良い条件で電子資料を提供する環境を整備・維持することが、電子資料担当の役割です。

 学術資料の電子化は海外の方が進んでおり、日本語の学術資料電子化は遅れていると言わざるを得ません。しかし本学の5万人の学生、特に学部生の皆さんが日常的に利用できる日本語コンテンツを充実させることは重要だと考え、提供元等に働きかけています。また研究者が利用する電子資料は、分野によって電子化の進行度も価格規模も異なります。このような大規模な大学ならではの多様なニーズに対して、必要な資料をバランスよく提供していくことが課題となっています。

 また、電子資料は図書館サイトの「学術情報検索」や「蔵書目録WINE」を入口としてご利用いただけますが、その存在や利用方法をよく知らないという方も実は多いのではないでしょうか。今後はさらに多くの方に、より容易に電子資料を活用していただける環境の整備にも取り組んでいきたいと考えています。