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キャンパスナウ

▼2015 盛夏号

SPECIAL REPORT

早稲田と演劇、その密な関係

1928年に坪内逍遙先生が演劇博物館を創設したとき、早稲田大学には、演劇界を盛り上げ、演劇の持つ可能性を追求するという使命が下ったのかもしれません。早稲田と演劇の切っても切れない、密な関係に迫りました。

早稲田の演劇研究と教育

早稲田大学では、坪内逍遙先生以来の演劇研究の伝統があり、様々なアプローチで研究が進められています。3人の研究者に、研究と教育の2つの側面から早稲田演劇への思いを語っていただきました。

「自分が覆される」現代演劇の魅力を伝えたい

藤井 慎太郎/文学学術院教授

 フランス語圏ヨーロッパ・北米における現代舞台美術(演劇、ダンス等)を研究しています。文化政策が充実しているフランスは、ヨーロッパでも有数の豊かな劇場文化が醸成されていて、パリは世界中の面白い作品がつねに上演されている、私には夢のような場所です。途轍もない作品を見て、“昨日までと同じ自分ではいられなくなるような衝撃”を受ける―そんな経験が私の原点にあります。学生のみなさんにも、自分を超えた異質な何かと出会って、揺さぶられる経験を大切にしてもらいたいですね。そういう力のある作品、それらを生み出す文化的な背景、政治経済的な制度を研究し、ひいては日本の舞台芸術の発展にも貢献できれば、と思っています。

 授業では、伝統ある早稲田の演劇映像コースという看板に恥じない(!)ように意識しながら、古代ギリシャから現代に至るまでのヨーロッパ演劇を体系的に講義し、現代の舞台芸術をめぐる様々な問題を取り上げています。学生がレビューシートに寄せてくれた問いに授業で一つ一つ回答し、別のアプローチからの説明を試みるなど、理解を深めてもらうための努力をしています。

翻訳を担当し「小田島雄志・翻訳戯曲賞」を受賞したワジディ・ムワワド作「炎 アンサンディ」の脚本

 また、演劇を総合的に理解することの重要性も伝えたいと考えています。伝統的な演劇研究では戯曲(テクスト)を読むことに重点が置かれてきましたが、現代演劇において、テクストは絶対に必要不可欠なものでもない。その演劇を生み出した政治的、社会的、経済的な背景、稽古場や劇場の中で作品がつくられていく過程の全体を知ることが、演劇のより深い理解につながります。そうした総合的な視点は、現代の演劇界が必要としている人材にも求められていると思います。

 どらま館が生まれ変わったことをきっかけに、教員と学生、理論と実践がもっと接点を持ち、いい意味で火花を散らすことができれば、新たに面白い演劇が早稲田から生まれるのではないかと期待しています!

演劇×人類学×社会貢献 「演じる」ことで、他社の眼でものを見る

石野 由香里/平山郁夫記念ボランティアセンター助教

 私は俳優としての実体験から、演劇という手法を2つの側面から教育に生かしたいと考え、その手法を開発しています。一つは、演じることによって他者を理解するという側面です。日常ではしばしば、相手の気持ちが理解できないことでトラブルが起こりますが、他者を演じることによって、自分の視点や解釈が、たくさんある中のたった一つでしかないという気づきを得ることができます。もう一つは、芸術的な側面です。身体を使って動きながら他者の気持ちを想像することで、自分には無かった新しい発想が生まれます。

「社会貢献のためのクリエイティブな発想と実践」授業の様子

 授業では、将来的に各々の仕事の中で課題を解決する際、多様な人々の目線に立った上で、社会に対し働きかける方法を自らの力で導き出せるような仕掛けを実践しています。それは、他者の目線に立つことが大前提となるボランティアや地域づくりに対して、演じることで「その人になってみる」というシンプルな方法です。学生たちは障がい者就労支援NPOや高齢化団地など、それぞれが関心を持った現場でフィールドワークを行い、そこで見た現実をそのまま再現します。発表の場では観客である履修生や現場の方々に演者としても参加していただき、共に現場の課題を掘り起こし、今後何をすべきかを議論します。学生たちからは「分かっているつもりで、分かっていなかったことに気付くことができた」「演じることを通して、自分のモノの見方や価値観を認識し、リセットできた」といった声が多く上がります。授業修了後に履修生達が自ら「あくと~社会とつがる演劇プロジェクト」という団体を立ち上げ、様々な現場で活動しています。

 日本の社会を牽引する立場となっていく早稲田大学の学生たちが、他者を理解する手法を獲得していけば、社会はもっと良くなると信じています。演劇は、自分の発想や限界を超えたことに出会えるもの。演劇が持つ力を多くの人に知ってほしいですね。

石野先生監修・出演の舞台&ワークショップ出演者・スタッフ募集中

ローマの支配下にあったユダヤを舞台に、人はなぜ他者を排斥し攻撃しようとするのかを問い、出演者・参加者共に解決策を探る試み。
●2015年11月26日~29日 早稲田小劇場どらま館にて

アングラ演劇の"過剰さ"を現代の学生と共に考えるる

梅山 いつき/坪内博士記念演劇博物館助教

 私の専門は1960年代の小劇場演劇第一世代、いわゆるアングラ演劇です。私が生まれる前のことなのでリアルタイムで舞台を見たことはありませんが、学生時代に行った黒テントの稽古場に貼ってあったポスターを一目見た瞬間、その迫力に心を奪われました。研究を始めるきっかけのひとつですね。当時の小劇場演劇には、実験的で先鋭的なことをやりたい人々を集める求心力があり、横尾忠則や粟津潔、宇野亜喜良といった日本を代表する美術家が舞台美術やポスター等のアートワークを担当し、後に伝説となるような作品を次々と生み出していました。ポスターは単なる広報としての機能を超えた、集団にとっての旗として重要視されていたため、舞台が消えた今でも当時の息遣いを伝えています。また、劇団の中には演劇センター68/71(現・黒テント)のようにメディア戦略に長けた集団もありました。研究ではそうした批評や戯曲を読み解く作業を進めています。

演劇博物館の活動を伝える「演劇博物館報 enpaku book」

 アングラ演劇の特徴を一言で言えば、その“過剰さ”にあります。表現の質にも活動の量にも圧倒的なパワーがありました。ややもすれば、暑苦しくも感じられるほどではありますが、なぜそれほどまでに社会を問うたのか、時代を超えて今の学生と共に考える機会があってもいいのではないかと思い、授業でも紹介しています。

 また、演劇博物館の助教として、学内の文化施設を最大限活用しながら、エンパクの演劇研究拠点としてのパフォーマンス力を高めていきたいとも考えています。早稲田小劇場どらま館と合わせて、研究と実践の両輪を回すことができれば、バランスの良い演劇人を生み出す最高の環境をつくれるのではないでしょうか。学内にとどまらず、学外からも演劇が好きな方、演劇界をより盛り上げていきたい方が早稲田に集まるよう、魅力的な企画を生み出していきたいですね。

企画展「広場をつくる・広場を動かす―日本の仮設劇場の半世紀―展」(演劇博物館、2011年)撮影:鹿野安司