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キャンパスナウ

▼2013 盛夏号

SPECIAL REPORT

教育のあり方が変わる

“ICT活用教育”

早稲田大学では他大学に先駆けて教育にICTを取り入れ、授業の質向上に取り組んできました。
“Waseda Vision 150”の核心戦略4「対話型、問題発見・解決型教育への移行」もそのひとつです。
早稲田のICTの現状とこれから、またICTを活用することで教育にどのような変化があるのかを探ります。

※ICT(Information and Communication Technology):情報通信技術

授業紹介

教育者が考えるICT教育の未来

ICTを効果的に活用している2名の先生に、ICT教育について教育者の立場から意見をいただきます。

授業名
「教育方法研究」「教育学プレゼミⅠ」「教育方法学」

学生に学ばせることの本質は何かを常に意識し効果的なICT活用を

三尾 忠男
教育・総合科学学術院教授

 前任の研究所で高等教育におけるICT活用と授業評価に関する研究と研修を行っていたとき、可能性を確信する一方で普及の困難さを感じました。そこで、本学の授業を担当する機会に、私自身で授業のPDCAサイクルを日常的に無理なく実践し、ICT活用の効果を実証しようと考えました。

 ICTは、授業のPDCAサイクルの各段階で活用しています。Plan段階では、前年度のTeaching Portfolio(授業記録)を振り返りシラバスなどを修正します。授業前は、タッチペンの書き込みの残る前年度の提示スライドをチェックし、学生の質問箇所などを確認します。Do段階は、提示スライドとペン機能を用いて学生の反応に逐次対応する授業を心掛け、配布資料もスライドのコピーではなく、学生のノートテイキングを促す工夫をしています。扱う内容が抽象的で理解が難しい理論の場合、理論モデル図と数値データ、実践場面の3段階を組み合わせ、動画資料や実物(レプリカ)、討論や学生参加(クリッカーなど)を用いて理解と定着を目指します。討論などはその場で終わりでなく、授業後にCourse N@viで振り返りを行います。Check段階は、毎回の授業アンケートでICT活用の効果を検証し、次の授業(Act段階)に生かしています。

 このような授業者一人のICT活用だけでなく、FD(ファカルティ・ディベロップメント:教育改善の組織的取り組み)でも活用しています。クラスが異なる同一科目で、教員間で提示・配布資料、評価課題を検討し、ピアレビューも積極的に行っています。非常勤講師が学外からビデオ通話で視聴し意見を出し合うことも。また、Course N@viの学生への非表示機能を用いて教員間で毎週の授業アンケート、各人の得意トピックの授業映像を共有しています。このように、ICT活用で授業のPDCAサイクルの実施が効果的になりました。特に、他の教員と共有することで学生の傾向を知り、より適切な授業改善が可能です。今後は学生のニーズや質の多様化が予想されるので、多面的に自分の授業を捉え、授業の質保証を目指して日常的に使えるツールの一つとしてICTの可能性を実感しています。

 ただし、ICT活用は万能ではありません。15年前、教室のIT設備の不調で、学生の授業への満足度がかなり低くなるという経験をしました。ICT依存度が高すぎたがゆえの苦い経験です。これからも、授業で学生に学ばせることの本質は何かを常に意識して、効果的なICT活用を心掛けていきたいと考えています。

クリッカー:教員の質問やアンケートに受講生がボタンを押して答えると、結果が瞬時に把握できる。結果をその場で教壇のスクリーンなどに映すことも可能

クリッカーを活用した授業

学生の反応に合わせてスライドにタブレットペンで書き込みながら授業を進める

三尾 忠男(みお・ただお)/教育・総合科学学術院教授

1963年生まれ。専門分野は教育工学。1989年文部省大学共同利用機関放送教育開発センター助手、1998年メディア教育開発センター助教授。2001年早稲田大学教育学部助教授、2005年より早稲田大学教育・総合科学学術院教授。共著書に『授業評価活用ハンドブック』(玉川大学出版部)

授業名
「インストラクショナルデザイン」

未来の教育の形はすでにここにある

向後 千春
人間科学学術院教授

 5年前から私の授業は「反転授業(Flipped Classroom)」の方式をとっています。これは、自宅など学校外でeラーニングによる自習をしてから、学校に来て実習やグループワークなどの活動を行う形式です。以前は、教室で講義を受け、自宅で復習や宿題をしていましたので、それを「反転」させた形式なのです。

 具体的には「インストラクショナルデザイン」という教えることの科学と技術を学ぶ授業科目で反転授業を行っています。この授業は、毎年受講生が200名前後の比較的大きな規模のクラスです。2週間で1セットのユニットになっています。

 1週目は、「eラーニング(Course N@vi)」を使って講義を配信し、並行してテキストを読んでもらいます。終わったら小テストが出ますので、それに答えてもらうことで基本的な知識をチェックします。そして最後に、数時間をかけなればできないような課題を提示し、オンラインでファイルを提出してもらいます。これが宿題です。このように、まず講義を聞いてから宿題を先にやるというところがポイントです。お分かりのように、1週目は教室に来る必要はありません。各自が自宅や端末室のパソコンで講義を聴き、宿題をやるのです。

 2週目は、教室に全員が集まります。あらかじめランダムに分けられた5人一組のグループになって活動を行います。すでに1週目にeラーニングで講義を聴いていますので、教室では教員の講義は一切ありません。すぐに活動の説明をして、グループワークを行います。グループワークは1週目に講義をした内容を応用する実習です。話し合ったり、身体を動かすゲームをしたり、皆の前で発表したり、そのときによりさまざまな活動をします。それにより、前の週で頭に入れた知識を自分のものにすることができるのです。

 このような反転授業は、ICTを授業に活用することで初めて可能になりました。とりわけ、人間科学部で通信教育課程(eスクール)が開設されてから、Course N@viによるオンデマンド授業の配信がごく普通になったことが大きいと思っています。教室で行う講義をすべてeラーニングに置き換えた上で、教室での学習活動を設計し直すことで、学習効果は飛躍的に高まります。これからの大学教育はこのように変わっていくでしょう。

向後 千春(こうご・ちはる)/人間科学学術院教授

1958年生まれ。早稲田大学人間科学学術院教授。博士(教育学)(東京学芸大学)。専門は教育工学、教育心理学、特に、eラーニング、成人教育、インストラクショナルデザイン。著書に『いちばんやさしい教える技術』(永岡書店)、『統計学がわかる』(技術評論社)、『自己表現力の教室』(情報センター出版局)など。)

第1回 WASEDA e-Teaching Award

5月17日、ICTを活用して授業の質の向上に努めた先生方を表彰するWASEDA e-Teaching Awardの第1回表彰式が開かれました。22件のエントリーの中から、入賞された3人の先生の取り組みを紹介します。

当日は、高麗大学校のHikyoungLee教授(Center for Teachingand Learning 所長)から同校の取り組みについての講演も

オンデマンド授業部門賞
オンデマンド+多角的支援で、日本語発音授業の学習効果を向上

戸田 貴子
国際学術院(大学院日本語教育研究科)教授)

 皆さんは外国語の発音に苦労した経験はありませんか?海外からの留学生も日本語の発音に悩みを抱えていることが多いのです。日本語教育研究センターでは、発音に特化した授業を立ち上げ、さらに、自分のペースで何度でも練習ができるよう、オンデマンドコンテンツを導入しました。動画やスライドなどの映像コンテンツで日本語の音声を聞き、いつでもどこでも発音練習を行うことができます。また、自らの発音を録音し、音声ファイルを提出すると、フィードバックを受けることもでき、学習効果を上げています。

CCDL(Cross-Cultural Distance Learning)授業部門賞
海外の大学院との遠隔交流で、多角的視点から専門知識を学ぶ

太田 宏
国際学術院(国際教養学部)教授

 国際教養学部の科目「Global Environmental Politicsand Policies(地球環境政治と政策)」では、ハワイ大学がアジア太平洋地域の大学や研究機関と提携し、人材育成や環境保全に関するオンライン学習教材開発に取り組んでいる「アジア太平洋イニシアチブ」の交流授業に、テレビ会議システムを利用して参加しています。気候、エネルギー、食料安全保障といった国際的なテーマを他国、他分野の大学院生と意見交換することで、学生たちは知的好奇心が刺激され、学習意欲が高まっています。

Course N@vi活用部門賞
プログラミングの授業でe-Text環境を構築
習熟度の個人差に対応し、学習の蓄積効果も

武沢 護
教育・総合科学学術院(大学院教職研究科)
客員准教授、高等学院教諭

 高等学院の3年生の選択授業「情報サイエンス」では、Mathematicaという数式処理ソフトを用いた学習を行っています。理解度・習熟度に個人差があるため、Course N@vi上にe-Text環境を構築し、授業の効率化を図りました。Course N@vi上では、プログラミングの説明文を読むだけでなく、各自で作業途中のデータを保存することもでき、受講したデジタルネイティブ世代の生徒たちからは高評価を得ています。今後、他の授業でも双方向性を生かした形で活用したいと考えています。