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キャンパスナウ

▼2013 盛夏号

SPECIAL REPORT

教育のあり方が変わる

“ICT活用教育”

早稲田大学では他大学に先駆けて教育にICTを取り入れ、授業の質向上に取り組んできました。
“Waseda Vision 150”の核心戦略4「対話型、問題発見・解決型教育への移行」もそのひとつです。
早稲田のICTの現状とこれから、またICTを活用することで教育にどのような変化があるのかを探ります。

※ICT(Information and Communication Technology):情報通信技術

理事インタビュー

ICTを活用した教育の可能性

情報化推進担当の深澤理事に、早稲田大学の情報化の現状や、ICTを活用した教育の可能性について広い視点でお話していただきました。

多様化するニーズに対応する情報化推進と教育研究スタイルの変化

情報化推進担当理事
深澤 良彰 (ふかざわ・よしあき)
理工学術院教授

Profile
1976年早稲田大学理工学部卒。1978年同大学院理工学研究科修士課程修了、1983年同博士課程修了。工学博士。1992年より早稲田大学理工学部教授。メディアネットワークセンター所長、教務部長、研究推進部長など学内のさまざまな役職を歴任し、2010年より研究推進(総括)および情報化推進担当理事。

――早稲田大学の情報化の現状と社会の状況について教えてください。

 かつて、大学のシステムサービスは主に教職員・学生を対象としていましたが、社会の変化に伴い大学に関わる方々が多様化し、それぞれにあわせたサービスの提供が求められるようになってきました。例えば学生といってもTeaching Assistant/StudentAssistant(教務補助員)やResearchAssistant(研究補助員)を務めるなどさまざまな立場の学生がいますし、教職員の雇用形態も多様化しています。他にも、学生の親御さんやさまざまな立場で大学とつながる校友をはじめ、共同研究をしている企業・他大学・研究機関の方、将来の早大生となりうる受験生や中学・高校生、公開講座の受講生、スポーツなどを通じて早稲田大学を応援してくれるワセダファン、近隣の方々など早稲田を取り巻く人々は多種多様です。その多様なニーズにあわせて、提供するサービスの種類も多岐にわたります。

 本学ではメディアネットワークセンター(MNC)、遠隔教育センターなどが核となって、教育支援、研究支援、学生支援、校友支援、法人運営、そしてそれらを支える基盤システム・教務事務システムなどの情報化を進めてきました。

 早稲田の情報化には三つの特徴があります。一つ目は全学のさまざまなシステムを1箇所に集約して手がけることで、常に新しい取り組みに挑戦できること。例えば全学で標準化している授業支援システム「Course N@vi」(P.12参照)はまだまだ改良が必要ですが、一方でスケールメリットやデータの蓄積、責任の明確化といった利点があります。二つ目は大学と企業の共同体「デジタルキャンパスコンソーシアム(DCC)」を組織し、大学と企業が共にこれからの教育について議論する場を設け、さまざまな取り組みを進めていること。三つ目は、関連会社と連携し、これまでの情報化のノウハウを蓄積していることです。

――情報化の世界は進歩のスピードが速く、数年後の予測すら難しいと思います。そうした中で早稲田大学はどのように情報化戦略を進めているのでしょうか。

 10年前にインターネットがここまで進化するとは想像もつかなかったでしょうし、5年前にスマートフォンが今のように大流行するとは誰も考えていなかったでしょう。しかし世の中や技術に関係なく、教育研究機関である大学がすべきことは決まっています。そして、その環境整備として情報化の推進が必要であり、その情報化を全学的に進めるにはきちんとした戦略が必要です。本学では1997年から、3年の短期計画と、9年の長期計画を組み合わせた独自の情報化推進プログラムを作成し、それに沿って情報化を進めてきました。またこの情報化戦略は、大学の計画である2000年の「21世紀の教育研究グランドデザイン」や2008年の「Waseda Next125」、そして2012年に策定された創立150周年(2032年)に本学のあるべき姿を示した「Waseda Vision 150」とも連動しています。

 20年後の早稲田を情報化の視点で考えると、キャンパス全体が学習の場となり、すべての学生がモバイルPCやスマートフォンのような携帯端末を持ち歩き、授業のほとんどがオンデマンド授業と対話型・学生参加型授業の混在する形態となっているでしょう。また、世界規模の研究コミュニティが複数活動していて、研究論文、研究業績情報、研究費申請・成果報告などがすべてデジタル化されているでしょう。こうした姿を実現するために、情報化は重要な意味を持っています。

ICTはツールの一つ。
対面授業と組み合わせた効果的な教育を

――ICTを活用することで、大学の教育はどのように進化すると期待していますか。

新たな授業スタイルのイメージ

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早稲田大学における
授業支援システムの利用実績
(2007~2012年度)

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 現在、アメリカで話題になっているオンライン教育ですが、早稲田大学は2006年からOCW(Open Course Ware)に参加しています。マサチューセッツ工科大学との協力関係に基づき、世界規模の教育ネットワーク構築の実現に向けた試みとして早稲田大学オープンコースウェア(WOCW:http://www.waseda.jp/ocw/)を設けて一部の講義教材を公開しています。また、人間科学部にはオンデマンド授業だけで卒業できる通信教育課程(通称:eスクール)があり、多くの人材を輩出してきました。

 ただし、ICTはあくまでツールであって、それを活用するだけで授業の質が向上するわけではありません。やはり大学の教室で教員と学生が対面で授業をすることでしか得られないものもあります。つまり、これからの大学教育には、ICTを間接的なツールとして活用すると同時に、対話型、問題発見・解決型授業を効果的に組み合わせるなどの工夫が必要だと考えています。オンデマンド授業で予習し、教室では学問のさらに深い部分を教えたり、議論するようにすれば、対面授業の価値が出ますし、授業の質を高めることができるでしょう。

 そのためには、授業に対する教員の意欲を高め、教員が「こういう授業をしたい」と考えたときに実現できるようにハード・ソフト両面のICT環境を整備することが情報化担当部門の使命だと考えています。例えば、現在建設中の新3号館の2階にアクティブな「次世代教育空間」を設置する計画を進めています。講義形式の授業はもちろん、グループワークやプレゼンテーションなど、状況に応じて自由にレイアウトでき、グループワークの際などは組み合わせた机にディスプレイを設置し、学生たちは自分の端末から資料をディスプレイに表示させることもできるというものです。こうした設備をうまく活用した授業が増えることで、学生が積極的に授業に参加し、さまざまな経験を積むことで社会が求めるプレゼンテーションスキルやコミュニケーションスキルを身につけることができると期待しています。

他大学より“3年先”を行く情報化が新しい教育を生み出す

――情報化に関するこれからの可能性について、深澤理事のご意見を教えてください。

学生・教育・職員・交友のICT活用イメージ

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 私は、早稲田は他大学より常に“3年先”を進んでいたいと考えています。技術革新の速い今の世の中で10年先を行くことはできませんが、3年先を進むことができれば一歩リードしていることになるでしょう。ただし立ち止まるとすぐに追いつかれてしまうので、常に先を見て進まなければなりません。そしてそれが早稲田大学における新しい教育を生み出し、多様で良い授業のサポートにつながります。2003年に開設した人間科学部のeスクールも、初めは新しい挑戦の一つとしてスタートしたものです。

 このように早稲田では他大学に先駆けて新しいICT技術を取り入れています。例えば動画コンテンツ作成支援。オンデマンド授業のように教員が作成した動画を学生が見るという使われ方だけではありません。学生でも簡単に動画を作成できるようにしたことで、これまでレポートやレジュメといったかたちで提出していた学修成果を、プレゼンテーション動画で提出することが可能となりました。すると学生は構成や資料の見せ方、話し方などを考えながら制作するため、プレゼンテーション能力が向上するなど、これからの社会で必要とされる能力を身につけることができると期待しています。

 さまざまなツールや機能を導入する一方で、どこまでICTを教育に活用するかといった難しい議論もあります。ICTをコアな「教育」に取り入れるためには、全学生がスマートフォンのようなものを持ち、かつ自由に活用できるなど、今以上に情報インフラが普及していることが絶対条件です。しかし現在はまだそうした状況にないため、情報化の革新を一定レベルに留めている状態でもあります。今後は、社会の情報化がどのように進展するかを正しく見極めながら、学内の情報化を進めていきたいと考えています。

ICTを有効活用することに貪欲になってほしい

――読者へのメッセージをお願いします。

フルオンデマンド授業「研究倫理概論」について熱く語る深澤理事

 より柔軟で多くの人にとって使いやすい環境を整備するためには、相応のコストが必要です。本学では、MNCに集約して情報化を推進することで貴重な予算を効果的に運用しています。また、24時間ヘルプデスクを開設し、学生・教職員の声を吸い上げられるようにしているなど、他大学と比べて運用環境に柔軟性があると言えます。そうした環境を効果的に生かせるか否かは、学生や教職員の意欲次第です。ぜひICTを有効に活用して、先生方にはより質の高い授業を行っていただきたいと思います。そして学生には、自分から積極的にアプローチすることで効果的に知識や手法、考え方を取り入れることができ、自分自身の成長につながることに気づいてほしいですね。大学の教育に制限はありません。教員の教えることだけで満足するのではなく、学ぶことや環境を有効に活用することにもっと貪欲になってほしい。ICTを有効活用する人が増えれば新たなニーズが生まれ、それに応じる形でさらに良い環境を提供できると考えています。