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キャンパスナウ

▼2013 早春号

SPECIAL REPORT

地域で活躍するグローバルリーダーを育てる

大学と地域の幸せな関係

創立150周年となる2032年に早稲田のあるべき姿を示した中長期計画“Waseda Vision 150”。ここで掲げられるグローバルリーダーとは、海外で活躍する人材だけではなく、グローバルな視点や感覚をもって地元に戻って地域のために活躍する人材という意味も込められています。こうしたグローバルリーダーを育成することで大学と地域の連携は一層深まるでしょう。よりよい地球の未来を築くため、早稲田にできることは何かを探ります。

鼎談

大学が地域活性化のためにできること

さまざまな視点から地域活性化に関する研究を行う3名の教員が、地域が抱える課題、大学の教育にできること、地域で活躍するリーダーに求められることについて語り合いました。

地域に溶け込み 課題解決法を提案

――本日は地域活性化に関わる研究に取り組んでいる先生にお集まりいただきました。まず自己紹介をお願いします。

早田  減退地域、停滞地域、被災地域といった問題を抱えた地域で、市民が行政に頼らず再生を目指すための提案をしています。社会科学では「社会デザイン」と呼んでいる分野です。

浦野  私が地域研究に関わるようになったのは大学院時代からですが、とくに災害研究との関わりで地域に入ったのは、シンクタンクの研究員としての社会調査がきっかけでした。この当時、大地震発生時の対応策を検討しており、その後1990年に噴火した雲仙普賢岳の地域復興を考えるときに、従来からの地域社会調査と震災研究が結びつき、現在の研究に至っています。

鵜飼  私は町工場の研究を通じて地域の産業活性化を研究しているうちに、町工場を通して地域活性化に取り組むようになりました。

――具体的にどちらの地域で、研究や教育を行っていますか。

早田  新宿区のインナーシティと呼ばれる都心部、郊外では川口市をケースに研究を行い、まちの条例提案や盛人大学(社会人のための教育機関)のお手伝いなどをしています。また、早稲田とつながりの深い岩手県の田野畑(たのはた)村でも、学生と一緒に復興まちづくりを応援しています。

浦野  ゼミでは地域のローカル・ガバナンスを学びたい学生が集まっていて、各自が東京周辺でフィールドを見つけて、ゼミ論にまとめますので、それをバックアップする形でいろいろな地域に関わってきています。私自身のフィールドは、若い頃は都市地域を中心にしていましたが、ある時期から過疎地も歩くようになりました。都市と過疎地を対比しながら、地域社会のあり方を見ていきたいと考えています。現在は、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌(おおつち)町の水産加工業が集積している安渡(あんど)という地域を調査していて、大学院生を巻き込みながら、数年は関係を継続して復興支援をしたいと考えています。

鵜飼 信一/商学学術院教授

鵜飼  私の調査単位は企業なので、中小企業という視点から地域を研究しています。フィールドは大田区、墨田区、葛飾区、北区、日立市などで、町工場の経営や後継者問題などのアドバイスをしています。最近増えているのは、マッチングです。大田区の社長と葛飾区の社長を結びつけたり、若手の経営者を数人集めた座談会を開催したりしています。ゼミでは、今年は学生が墨田区の企業にインタビューを行い、行政や企業の人に報告をしたり、町工場で作られたものに対して意見を出したりしています。

浦野  東京は1980年代後半に一変しましたね。

鵜飼  地域は生態系のようなもので、道を一本通すだけで変わってしまいます。しかも、一度変わったものはもう戻りません。都市計画は、そこで暮らしている人たちや産業を営んでいる人たちのことを総合的に把握することが必要です。例えば、町工場が多い地域には、必ず面白い商店街があります。職住が一緒で、事業は家族経営がほとんど。奥さんも工場を手伝っているので、料理を簡便にするために商店街にはお惣菜屋さんが充実しています。三世代家族も多く、人々が町にしっかりと根付いているので、祭りも盛んです。

浦野  祭りは地域のシンボルですね。住民にとっても自分たちの手で祭りを続けていることが誇りになっています。祭りがある地域は、高齢者も元気で、産業も活性化しています。地域研究はそのような地域の総体を捉えることが必要ですね。

地域が抱える さまざまな問題

――今、先生たちが対象としている地域では、どのような課題を抱えているのでしょうか。

浦野  都心ではとくに1980年代後半から、都市のコミュニティが弱まっています。自分の地域に対する当事者意識が希薄で、浮遊しているような感覚というのでしょうか。例えば、自分たちが住んでいる地域の環境や生活を支えているエネルギー資源がどうなっているか、東日本大震災がなければ、注目されることもなかったでしょう。地域がさまざまな弱みを抱えているのに、気付かずに生きているのです。

早田  都市は文明を生み出す牽引装置ですから、文明が生まれる力が弱まっているということにもなりますね。都市にはバリューチェーンがあって、人々がお互いに励まし合い、良いところを貸し借りして創造的コミュニティが地域ごとに成立していたのですが、どこかの段階から身の回りという感覚が希薄になり、チェーンがぶつ切れになっています。携帯デバイスが普及して、ますますその傾向は高まるばかりです。こうした都市の負の側面が悪化すると、一緒に暮らしているのに会話のない家族みたいに、崩壊してしまいます。

鵜飼  反対に、地域に根ざしているという感覚がしっかりと残っているのが、町工場で働く生業の人たちです。とはいえ、私が調査を始めた昭和60年頃は、例えば大田区には8,000軒の町工場がありましたが、今は4,000軒と半減しました。自分の代で廃業しようと考えている経営者が多い地域をなんとか元気にしたいと思って応援しています。明るい話題では、大田区の町工場が集まって「下町ボブスレーネットワークプロジェクト」を立ち上げ、ソチオリンピックに向けてボブスレーのそりを作りました。よい記録も出しているそうです。多くの町工場が参加してのものづくりが祭りの御神輿みたいになって、起業家魂を燃え上がらせ、地域が活性化しています。地域に根ざした企業に火をつければ、社会は明るくなるのではないでしょうか。

浦野  日本は少子高齢化で人口が縮小していますが、それを最も厳しく受け止めているのが、過疎地です。全般的な縮小社会化のなかで、地域をどう再編するか、商業や行政の集約地、中核的な人間関係が凝縮する施設など、地域の核をどう作るかが課題になっています。

早田  私は農村の活性化の可能性は無限にあると思っています。例えば田野畑村のブロッコリーは単体なら輸送コストがかかるので仙台までしか出荷されませんが、鮭と牛乳をセットにしてブイヤベースセットとして売れば、付加価値がつき価格も2~3倍になって東京まで届きます。そういった価値づくりをすることが面白いですね。

鵜飼  高知県の馬路(うまじ)村のゆずジュースもそうですね。規格外で出荷できないゆずをさまざまな製品に加工してブランド化し、成功しました。逆に全国展開しなくとも、地場に根ざしたものを作れば、地場の中で生きていく道があります。岩手県釜石(かまいし)市にある新日鉄の元下請けの企業は、鉄を溶接する技術を使って、いくらの自動計量機、わかめの自動塩漬け装置、煙が出にくい薪ストーブなど、地場のニーズを満たす自社製品を開発し、特許も取得しました。東日本大震災で設備が全部だめになり、再投資で借金が倍になってしまいましたが、漁師さんが製品を再購入してくれ、停電などで薪ストーブの需要も高まり、以前より売上が伸びているそうです。

地域に活力を生む 学生の力に期待

大槌町安渡地区のワークショップの様子

浦野 正樹/文学学術院教授

早田  被災した地域は、自治体をバックアップするNPOの支援が届いている地域とそうでない地域で明暗が分かれています。そんなときこそ、学生の「力を引き出す力」に期待できます。学生が被災地の現状を目の当たりにし、地域の皆さんと共に苦しみ、喜びを感じることは教育上も大変意義があると思います。

鵜飼  学生が来るだけで、地域の人々は元気になります。中小企業論の授業では、試験ではなくレポートを課しているのですが、町工場の社長にインタビューするだけではなく、握手して写真を撮り、ものづくりをする人の手の感触もレポートさせています。さらに、お礼のはがきを出すことも条件としているので、1月頃は大田区などの産業集積地にお礼のはがきが200~300枚飛び交っています。訪問先の社長にも喜ばれていますよ。

早田  学生は民俗学で言うところの「マレビト」なんですよね。たまにやって来て、よそ者の視点で斬新なアイデアを出し、地域にあるものに価値を見出す。地域の皆さんも学生の新鮮な提案に耳を傾けてくれます。

浦野  町おこしを考えている人たちと学生が接点を持つだけで、いろいろな再発見が期待できますね。

鵜飼  本学のインキュベーションセンターにも、地域の観光資源の売り方の提案などを行っている「アジール」という企業を運営している学生がいます。学生は、我々では気付かないようなニーズを発掘できる力を持っています。

早田  早稲田の学生は新たな発見をするだけでなく、コミュニティに入り込んで「やってみようよ!」と周囲を引っ張っていくことのできるリーダーシップも持っているのではないでしょうか。

リーダーに必要なのは、世界は一つひとつという発想

――卒業して社会に出て、地域のために活躍するリーダーになるために、必要なことは何でしょうか。

早田  日常に埋没せず、常にフレッシュな感覚を持ち続けることです。変化を楽しみに変えていくことができ、自分とは違う考えを持った人に刺激を受け、喜びを感じられることが大切です。

浦野  地域で起きていることに興味を持ち、違う世代、違う考えを持った人の動向を見ながら、自分の方向性を見定める慎重さが必要だと思います。そして、自分がやろうとしていることをサポートしてくれる人材を発掘し、良い人材とつきあう能力が必要ですね。

鵜飼  早稲田の卒業生が地方都市に行くケースで最も多いのは、一般企業の社員として転勤するパターンだと思います。たとえ数年でもその土地に溶け込み、仲間を作って、自分がいた痕跡を残そうとするマインドを持ってほしい。その地域出身者でなくとも、よそから来たからこそ、愛着を持ちやすいということもありますよね。

浦野  知らない地方に行くことをチャンスだと思い、積極的に地域の人とつきあい、地域の良さを発見しようとするメンタリティを教育したいですね。

鵜飼  明治以降、柔道家や空手家などの武道家が海外に行って現地化していますよ。自分たちがやりたいこと、広めたいことを持って世界に出て、ローカルに根付くという発想だったと思います。昔はグローバルという発想はありませんでした。そもそもグローバルというものの実態はなく、ローカルの集合体がグローバルですから。

川口市盛人大学。市民・行政職員・早大生が机を並べてワークショップでコミュニティ・デザインを学ぶ

早田 宰/社会科学総合学術院教授

浦野  もう一つ別の視点で言うと、グローバルリーダーは地域の文脈に合わせて、自律的に行動する力が必要です。自分の価値観を変容させながら、地域と関わっていく柔軟さが求められます。

鵜飼  地域に入っていくには、その地域に対応して自分を変えないといけませんね。「世界は一つ」と思っていたら大間違いで、「世界は一つひとつ」です。

浦野  地域の状況に合わせたさまざまな戦略メニューをたくさん持てば、選択肢が広がって、さまざまな可能性があります。

早田  多様性を良い方向に活かしていけるのが、グローバルリーダーではないでしょうか。そして、各地域の多様性をチェーンでつないでいく力も必要です。

浦野  地域によってスタンダードが違うということを十分わきまえた上で、それらをつなぐ仕組みを考えていかなければなりませんね。難しいですが、その知恵を作り出せる人間こそ、グローバルリーダーです。

鵜飼  自分と他者の違い、多様性を理解するためにも、やはり一般教養が重要ですね。教養と言えば、学生は早稲田のことに無関心ですが、例えば演劇博物館など、早稲田が持っている文化はそのまま世間で通用する教養なので、知っておくべきですよ。そもそも身の回りにあるものに関心を持つことが教養の出発点ですから。

浦野  早稲田に関わる歴史上の人物を知るだけでも、教養になります。

――では最後に、今後の抱負をお聞かせください。

早田  海外では地域学の人気が高く、優秀な学生が専攻するいわば憧れのコースです。日本ではまだよく理解されていないので、地域学を学問体系のなかに位置づけるように取り組んでいきたいと思います。

浦野  研究、教育、社会的な実践をつなげる仕組みを作り、地域に根ざした発想で物事を考えられる人材を育てたいと考えています。

鵜飼  活動範囲を広げ続けてきたので、今後はテーマを絞って深入りしていこうと思っています。改めて自分の目と足で町工場をみつけ、中小企業エバンジェリスト(伝道者)として、地域活性化のお役に立っていきたいと思います。

鵜飼 信一(うかい・しんいち)/商学学術院教授(中小企業論)

1971年早稲田大学商学部卒、1980年同大学 院商学研究科博士課程修了。社会工学研究所、三菱総合研究所勤務を経て1986年早稲田大学商学部専任講師、1988年同学部助教授、1994年同学部教授。2011年より早稲田大学インキュベーション推進室長。NPO法人ものづくり品川宿理事長。大田区優工場選考委員長。

浦野 正樹(うらの・まさき)/文学学術院教授(地域社会論)

1973年早稲田大学政治経済学部卒、1981年同大学院 文学研究科博士課程単位取得退学。未来工学研究所研究員、早稲田大学第一・第二文学部助手を経て、1986年同学部専任講師、1989年助教授、1994年教授。2001年より早稲田大学地域社会と危機管理研究所所長。2010.2012年文学学術院長。2005.2006年デラウェア大学 災害研究センター客員研究員。2007.2011年関東都市学会会長。

早田 宰(そうだ・おさむ)/社会科学総合学術院教授(都市計画、住宅政策、コミュニティ開発)

1989年早稲田大学政治経済学部卒。1993年同大学院理工学研究科建設工学博士課程単位取得退学。1994年東京都立大学工学部助手。1995年早稲田大学社会科学部専任講師。1997年同助教授。2002年より現職。2003年英バーミンガム大学都市・地域研究所名誉研究員。2004年中国・北京大学環境学部訪問研究員。