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SPECIAL REPORT

“Waseda Vision 150”

世界に貢献する大学を目指して

創立150周年となる2032年を目標に、早稲田大学がアジアのリーディングユニバーシティとして確固たる地位を築くための中長期計画“Waseda Vision 150”が本格的にスタートします。4つの大きなビジョンとそれを実現するための13の核心戦略、さらに具体的なプロジェクトの中で特に重要な取り組みをご紹介します。

対談

世界中の人々を幸せにする
グローバルリーダーを育てるために

早稲田大学が育てたいグローバルリーダーとは具体的にどんな人材でしょうか。
“Waseda Vision 150”の策定にあたった大野髙裕教務部長と米国出身のケイト・エルウッド商学学術院教授が、グローバルリーダーを育てるために、教育の現場で感じている課題、目指したいことを熱く語り合いました。

大野髙裕 理工学術院教授 × ケイト・エルウッド 商学学術院教授

自己犠牲を払っても 人を助けられる人材

大野 “Waseda Vision 150”は、グローバルリーダーを育成するための13の核心戦略で構成されています。そもそも早稲田大学は、創立から約20年後の1904年には清国留学生部を設置し、数多くの留学生を組織的に受け入れました。ある時期のアジアからの留学生が全学生に占める割合は20%を超えていたそうです。近年に入っても、1998年には日本語と英語の2言語教育制度を導入したアジア太平洋研究科をスタートし、2004年には全ての授業を英語で行う国際教養学部を開設しました。1980年代から増やし続けてきた海外大学等との協定は、現時点で約500にものぼります。

エルウッド つまり早稲田は、創立当時からグローバルでリーダーとなる人材を育てていて、その伝統が脈々と伝わっているんですね。

大野 そうなんです。“Waseda Vision 150”で早稲田が育てたいグローバルリーダーは、他者の幸せを第一に考えられるリーダーです。大隈重信は、「人間は知識を身につけると、ともすると利己的になる。自分のことを優先してはいけない。大学では人格教育が大切だ」と言ったそうです。知識を得たら自分のために使うのではなく、他人のために役立てるという大隈重信の教えが早稲田の伝統です。例えば、本学出身者で「日本のシンドラー」と呼ばれた杉原千畝という外交官は、第二次世界大戦中にリトアニアの領事館に赴任していましたが、ナチス・ドイツに迫害された難民を救うために、外務省の指示を無視して約6000人にビザを発給して彼らの命を救いました。正しいと思ったことは、自分が犠牲になっても行動する。早稲田が育てたいグローバルリーダーは、そういう人です。

エルウッド グローバルリーダーの活躍の舞台は、海外でも日本でもいいんですよね。

大野 早稲田は昔から、各地方から学生が集まり、卒業後は地元で地域のために働く人材を多く輩出してきました。今は世界中から学生が集まり、自国に戻って活躍しています。つまり、グローバルリーダーとは、一個人がグローバルな人間になるという意味ではなく、コミュニティを引っ張っていく人材です。グローバル(世界)、リージョナル(アジア地域)、ナショナル(日本)、ローカル(地方)のどこで活躍してもいいんです。しかし今の時代は、どこにいてもグローバルな視点が必要です。常にグローバルな視野とマインドで世界を見て、人々をリードしてほしいと考えています。

エルウッド 素晴らしいですね! 大野先生の熱弁を聞いて感動しました。最近、日本の学生は内向きだと言われますが、米国に比べれば日本の学生は世界を見ていると思いますし、早稲田の学生はそんなに内向きではないと思います。

大野 いい暮らしをするために勉強しようと思っていた学生が、人々を幸せにするために学ばなければならないことに早稲田で気付き、世界に散って行けば、世界は平和になると思います。それくらいの気持ちで人を育てたいですね。

エルウッド 本当にそう思います。他者の幸せを第一に考えることは、人として一番大切なことだし、人生の生き甲斐になると思います。

大野 人が笑顔でいることがうれしい自分でいたいですよね。もともと早稲田にはいいハートを持っている学生が多い。WAVOC(早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター)には、多数の学生が参加していて、東日本大震災の復興支援にはこれまで延べ約3000人が参加しています。そのハートを生かせるように、私たちが仕掛けを作っていかなければなりません。

早稲田のキャンパスを グローバルな環境に

大野 グローバルリーダーを育てるために大学にできることは、内向きの学生の殻を破る仕掛けづくりです。その施策の一つが、海外からやってくる留学生の数を現状の約4000人から1万人にする計画です。早稲田のキャンパスそのものをグローバルにしたいと思います。面白いと思ったのは、タンザニアからの留学生と友だちになった日本人学生が「あなたの国に行きたい」と言って留学先をタンザニアにしたという話。もし出会っていなかったら、興味を持つこともなかったかもしれません。そんなシチュエーションをたくさん作りたいです。日常がグローバルで、海外に行きたくなるような環境にしたいですね。日本全体で見ると、留学する学生は2004年の8万人をピークに、現在は6万人弱に減っています。でも早稲田単体で見れば留学する学生は増え続け、現在では年間約2500名の学生が長期・短期の留学をしています。グローバルキャンパスができつつあることが、功を奏しているのではないでしょうか。

エルウッド そう思います。私は国際教養学部と一緒の11号館にいるので、エレベーターに乗るたびにいろいろな言語が聞こえてきます。本当に良いのは留学生と仲良くなることですが、ほんの少し接点があるだけでも、相手の国に関心を持つきっかけになると思います。

大野 やはり、リアルに世界と触れないとだめですよね。今の若い人たちは、インターネットの情報で何でも分かったような気になっています。しかしそれでは物事の本質がつかめない。そこで、私が考えているのは、大学で理論と実践のスパイラルを起こすことです。例えば、実践で短期留学をして、語学力だけでなく自分に何も語るべき、あるいは貢献できる中身がないことに気付いて、日本に帰って来てそれに関する理論を勉強する。それでまた留学をして手応えを感じ、自信をつけて社会に出て行く。そんなスパイラルを起こしたいですね。

エルウッド 20年後には、全員が海外留学するという目標になっていますね。

大野 日本と海外を行き来する学生が増えることに際し、大学としてはリスク面からもコスト面からもしっかりフォローしていきたいと考えています。現在、早稲田大学の職員が駐在している海外拠点が10カ所あり、きめ細やかなサポートをしていますし、コスト面では、1か月の滞在でエアチケットも含めて約10万円で行けるような短期留学も用意しています。

 短期留学を後押しする制度として、2013年4月から、17の学部・研究科でクォーター(4学期)制の本格的な導入を開始します。留学のハードルはますます低くなるでしょう。また教員も夏休みと前後のクォーターを組み合わせるなどすれば、これまで以上にまとまった研究時間が確保できるだけでなく短期の在外研究にも行きやすくなります。

生きて行くために必要な 考える力を伸ばしたい

大野 これからは、一人の学生に対して、教員だけでなく、職員、地域の人、企業の人が学生に関与していくべきだと思っています。昔の子どもたちは、地域コミュニティの中でいろいろな大人に関わりながら成長しました。その環境を大学4年間で作りたいと考えています。これからの大学はいろいろな年代の人が学ぶ場になるでしょう。大学内に若者も老人も一緒になったコミュニティができたら面白いと思います。そのコミュニティに、早稲田の街全体も巻き込んでいけたらいいなぁと思い描いています。

エルウッド 早稲田の「門のない大学」という表現は、本当に素敵ですね。街全体でダイナミックに教育を考えると可能性が広がりそうです。在学中にいろいろな出会いを通して、考える力を伸ばしてほしいですね。

大野 今の学生は、知識はあっても考える力が弱いというのが残念なところです。

エルウッド ある学生が難しい本を一生懸命読んで口頭試問に臨んだけれど先生の質問は「なぜこの本が書かれたのか」という1問だけで、答えられなかったそうです。「なぜそうなのか」を考えていないんですね。

大野 これからは、一方的に知識を詰め込む授業ではなく、ディスカッションやグループワークにもっと時間を割くようなカリキュラム設計を進めていきたいと考えています。

エルウッド 4年間は長いようで短いですから、1年生のうちから、自分が何のために早稲田大学で学ぶのかを考えさせたいですね。商学部では、以前から1年生でも受講できるプロゼミ(総合教育科目演習)という科目があり、好評です。早いうちに自分の課題を見つけるためにもゼミ形式の授業を充実させられるといいと思っています。

大野 いろいろな学部で1年生のうちからゼミの必修化を始めています。モチベーションが高い1年生のうちに、少人数のゼミで身近な話題を議論する機会を作り、自分たちの議論には中身がなく、もっと勉強しなければならないことに気付いてほしいです。

エルウッド ディスカッションするとお互いの考え方を学ぶことができますし、知識は何のためにあるのか、知識をどう使うかを考える機会になりますね。

“Waseda Vision 150”で 世界をHappy-Happyに

エルウッド 他者の役に立つ人材になるためには、他者をよく理解しなければなりません。それはまさにコミュニケーション能力です。コミュニケーションというと、発音、文法、単語という話になりがちですが、それはコミュニケーションを支える要素に過ぎません。本当のコミュニケーション能力とは、他者の考えを聞く力です。同時に、伝える力も大切で、自分の常識で話そうとしても相手は何を言っているかさっぱり分からないこともあります。例えば、謝罪しているつもりなのに向こうが謝罪とは認めないような言い方になったりします。あらゆる場面で通用するコミュニケーション能力を教えたいと思っています。

大野 リーダーは聞く力が必要ですね。相手の意見を受け止めた上で、自らの信念で行動できる人です。ちなみに、素晴らしいリーダーは素晴らしいフォロワーにもなれる人だと思います。

エルウッド 迎合することもないし、自分の意見を押し付けることもない人ですね。

大野 もしも20年後の世の中が、私たちが理想とするリーダーを必要としていなかったなら、大隈重信が作った早稲田大学のミッションは終わったということになります。でもそんなはずはありません。賛同してくれる人を一人でも多く増やし、他の大学にもこの考え方を広めていきたいですね。

 “Waseda Vision 150”に込めたのは、早稲田が世界を救いたいという想いです。グローバルリーダーを育て、みんなが幸せだと思える社会に近づけたいと思います。私は勝ち負けが前提にあるwin-winという言葉があまり好きではありません。そうではなくてHappy-Happyな社会にしたい。いろいろな価値観のHappyがありますが、みんながそれぞれ幸せになれる社会です。これからの20年間で、たくさんのHappyを導きだせるような人材育成を実現しましょう!

大野 髙裕(おおの・たかひろ)/早稲田大学理工学術院教授

早稲田大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科博士課程修了。工学博士。同学部専任講師、助教授を経て、1995年教授。2006年11月国際部長、2010年11月より教務部長。

ケイト・エルウッド/早稲田大学商学学術院教授

1983年にペンシルベニア大学から留学生として来日。国際基督教大学に編入、日本史を専攻。同大学卒業後、日本企業勤務を経て、コロンビア大学ティチャーズ・カレッジ英語教授法修士課程修了。2002年より本学商学部専任講師をつとめ、2009年に商学学術院教授。研究テーマは異文化語用論。