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▼新緑号

SPECIAL REPORT

精神保健相談室より

早稲田から始まる健康ライフ

本学は、学生の健康に責任を持つ大学として、運動・食・医療・心のケアなどの総合的な視点から、学生の健康増進に取り組んでいます。在学中から卒業後の将来にわたるまで、学生が自己の健康を維持しマネジメントできるように情報発信し、動機づけを行う「早稲田健康キャンパス」の実現を目指した取り組みを紹介します。

学生一人ひとりが安心して将来を考えることができる環境づくりを

保健センター 精神保健相談室 嘱託医
渡邊 衡一郎先生

大学時代は精神的に不安定

 大学時代は、精神疾患が顕在化しやすい時期です。親離れして、社会人になるための準備段階であり、自己のアイデンティティを確立し、人生の選択を迫られる精神的に不安定な時期だからです。私は、10年以上前から本学の精神保健相談に携わっていますが、以前は勉学や就職活動に関する悩みが中心だったのに対し、最近は、対人関係の悩みが多くなりました。大学の中で孤立して友人ができない、人付き合いが表面的で本音を言えないといった状況で、寂しさや孤独を感じている学生が増えているのです。今は、能力主義やスピード至上主義により、社会全体に余裕がなくなっています。自分のことで精いっぱいで助け合いの精神が希薄になっていることが、精神疾患の誘因になっているのではないかとも思います。

 精神疾患も、がんと一緒で早期発見が大切です。家庭では、几帳面だった学生がルーズになったり、睡眠や食欲に変化が見られたりしたら、「どうしたの?」と声を掛けてください。介入する必要はありますが、大学生ですから、本人に気づかせ、考えさせるようにアプローチしたほうがよいでしょう。しかし、学生が親の管理下にいれば安心とは限りません。大学時代には、家と大学の往復だけでなく、課外活動やアルバイトなど親の知らない世界でいろいろなことを経験し、人間関係を築くことが大切です。そうしないと高校生の感覚から進歩せず、社会性も身につきません。就職活動もうまくいきにくくなってしまいます。

精神疾患を理解し、共に乗り越えることが大切

 大学生に増えている精神疾患は、双極性障害、社交不安障害、広汎性発達障害です。双極性障害は、躁(ハイ)とうつが交互に訪れる病気です。うつ病の理解は進んで市民権を得てきましたが、双極性障害では、躁状態のときに周囲が当惑して理解してもらえないことが多く、そのことに悩んでますます悪化し、最悪の場合自殺につながることもあります。社交不安障害の人は、人前で何かするのが苦手ですが、最近は、プレゼンテーション能力が重んじられるようになり、非常に辛い思いをしています。広汎性発達障害の人は、コミュニケーションがうまくとれなかったり、場が読めなかったりすることで周囲の人から浮いてしまうことがあります。以前は、いわゆる“不思議ちゃん”の扱いで、良いところを認めてもらいながら集団に溶け込めていた人が、今では、仲間から排除されてしまうことがあります。このように、障害を持つ人を取り巻く環境が変化したことで、障害が悪化しているケースがよく見られるようになりました。

 障害が原因で大学時代にドロップアウトしてしまうと、その後の人生でますます社会から孤立してしまいます。教職員は、障害を持った学生に対して、型にはまったやり方を強要するのではなく、話し合って折衷案を示すことが大切です。すべての学生が輝けるように、教職員がゲートキーパーになってフォローしていければと思います。学生との接し方に悩むことがあれば精神保健相談室に相談してください。

 10年前の物差しがまったく当てはまらないほど、社会環境は変化しています。大学でも家庭でも学生一人ひとりに柔軟に対応し、学生が安心して将来を考えることのできる環境を作ることが必要ではないでしょうか。保健センターも病気を診断して、あとは当人に任せるのではなく、教職員や家族、そしてキャリアセンターとも連携し、就職して自立できるところまでフォローしていきたいと考えています。

渡邊 衡一郎(わたなべ・こういちろう)/保健センター 精神保健相談室 嘱託医

医学博士。1988年慶應義塾大学医学部を卒業。国家公務員共済組合連合会立川病院、医療法人財団厚生協会大泉病院、慶應義塾大学専任講師を経て、現在、杏林大学医学部精神神経科学教室准教授。2000年4月より、保健センター嘱託医を務めている。