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SPECIAL REPORT

「学びたい」思いに応える早稲田の生涯学習

 近年、人々の学習ニーズの高まりにともない、大学の開放が重要となっています。
 早稲田大学では創立間もない頃から大隈重信を中心に校外教育と称し、講義録の刊行や地方講演会など、ユニバーシティ・エクステンション(大学開放)を積極的に推進、学問の社会への還元に努めてきました。人々の学習ニーズに応えてきた本学の生涯学習の歴史を振り返ると同時に、現在の充実した生涯学習環境を紹介します。

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生涯学習の役割

大学は、生涯学習を通して、人々そして社会にどのような貢献ができるのでしょうか。
加藤哲夫エクステンションセンター所長に話を伺いました。

生涯学習の切り口から社会貢献の可能性を広げたい

加藤哲夫
エクステンションセンター所長(法学学術院教授)

大学のもつ知の財産を社会と共有する

――早稲田大学が生涯学習の場を提供する目的、意義についてお聞かせください。

 本学では、エクステンションセンターをはじめ多くの機関が、大学が培ってきた知の財産を社会に広く開放するという役割を担ってきました。近年、大学には研究・教育のみならず社会貢献も期待されるようになっていますが、本学では創立者大隈重信の時代から「知の開放」を社会貢献と位置付け、取り組んできた歴史があります。

 実際、エクステンションセンターで学んだ方々は、1981年の設立以来、延べ50万名を超えました。これだけ多くの方々が本学の知の財産を共有してきたという事実は、非常に大きな意味を持つと考えています。早稲田が脈々と築いてきた研究の成果を市民一人ひとりの生き方や生活に直接役立てていただくことで、社会はより良い方向へと発展するのではないでしょうか。

 また、生涯学習において大切にしなければいけないのは、「いつでも、どこでも、誰でも」学ぶことができるという視点です。エクステンションセンターでは、2009年にオンデマンド形式のeラーニング講座を開設するなど、より良い環境づくりにも取り組んでいます。

――地域のカルチャーセンターなど生涯学習機関はほかにもたくさんあります。その中で大学は何を重視すべきなのでしょうか。

 生涯学習の機会を提供するだけではカルチャーセンターとの違いがなくなり、大学が関わることの意味が薄れてしまいます。大切なのはやはり早稲田大学に関係する学内外の教員が生涯学習の機会を提供することに携わっている点です。それが本当の意味で大学の知の開放と考えています。エクステンションセンターでは、先生方それぞれ研究活動や正規の授業でお忙しいところ、退職された名誉教授を含め約250名にも及ぶ早稲田関係の教員に講座を担当していただいています。このことは非常に貴重なことと考えています。

 また、独自の単位を設定し、修了制度を設けている点も当センターの特徴です。会員一人ひとりの希望によって体系立てて学習したことを教育機関である本学が認定して修了証を出すことは、受講生の方々の熱意に応えるとともに、継続した学習意欲を引き出すことにつながっています。

広がる年齢層 学生へのサポートも

――どのような目的を持った方々が通われていますか。またプログラムの組み立てなどで配慮している点があれば教えてください。

 会員の年齢層は非常に幅広いのが特徴です。従来から多いのはシニア層の方ですね。若い時に戦争などの影響から十分な学習機会を得られなかった方もいらっしゃいますし、経済的、時間的な余裕を持てるようになったことをきっかけに、いま一度学び直したいと考え通われている方もいます。最近は団塊世代や現役の社会人も増えています。前者は第二の人生として興味がある分野の知識を深めるため、後者はキャリアアップを図るためといった具合に、それぞれ明確な目的意識をお持ちです。

 社会の価値観が多様化する中、人々が関心を持つ対象も多岐にわたるようになっています。そうした状況を踏まえ、当センターではさまざまな講座を開講して支持されてきましたが、そこには講師陣だけではなく職員スタッフの力がとても大きいと考えています。職員スタッフは常に企画テーマに関するアンテナを張り巡らし、情報収集に余念がありませんし、講座の企画会議では時に激論になることもあります。

――最近、学生を対象とした講座にも力を注がれています。その背景と目的についてお聞かせください。

 例えば今年の4月から、将来法曹を目指す学生を対象に、法律基本科目を基礎からしっかり勉強する「法曹をめざす基礎講座」を開講します。近年いわゆるダブルスクールの学生が増えています。その要因の一つとして、学生たちが将来を不安に感じている点があげられるでしょう。将来の進路選択や就職活動で学生に求められる素養が複雑化、高度化しています。従来の大学の授業に加えて、学生たちのこれからの人生をサポートする学習機会が必要と考えますし、そのニーズにも応えていくことが重要だと認識しています。

 この講座には本学出身の弁護士が講師として参加しますので、法曹現場の生の声を届けるとともに、学生に近い目線で学習をサポートすることができるという大学の生涯学習機関ならではのメリットがあります。これからは情報発信をより充実させ、より多くの学生に利用してもらいたいと思っています。

生涯学習から広がるさまざまな可能性

――生涯学習の機能も期待される大学は、今後どのような姿を目指すべきとお考えですか。

 これまで述べた通り、本学は生涯学習の面から人々のライフステージに関わりを持つようになってきました。今後は、地域や自治体・企業、各種団体など、各セクターとの結びつきを広げ、深めることがいっそう重要です。

 生涯学習の先進国アメリカには、大学は知を獲得しこれを実践に移す場として、社会の先端に位置する機関であるべきとの考えが広く行き渡っており、学外セクターと連携しながら社会的課題の解決にあたる多くのプログラムが存在します。大学で得た学識を社会を通じ実践することによってはじめて大学教育は完成します。キャップストーンという四角錐の石を頂上に置くことによりピラミッドが完成することになぞらえ、大学が人々の人生のあらゆるステージにわたって関わり続けるという、キャップストーン・プログラムと呼ばれるものです。こうした考えを本学が標榜する生涯学習にも取り入れていくことが、いっそう充実した社会貢献につながると思っています。

 当センターにはすでに大使館や自治体と連携した講座開設の実績があります。こうした連携講座は大学ならではのものですし、異文化交流の促進にもつながります。これからも生涯学習という切り口から、さまざまな可能性を追求していきたいですね。

「講義録」の意義を説いた大濱総長

 1955年、海外の大学を視察した第7代総長の大濱信泉は「学歴偏重の反省」と題する一文の中で、それまで早稲田大学の通信教育がいかに社会的使命を担ってきたかを述べている。

「《前略》…教育は学校の独占物ではないということである。裏返していえば、学校へ行かなくとも、出版物の発達した現代においては、心掛次第で学問をすることができるということである。…《中略》…知識をひろめ、見識を高めることは読書によっても十分にその目的は達せられる。しかし読書といっても、手あたり次第の乱読では、労多くして効果がすくない。せめて高等学校程度までは、系統的に学ぶことが望ましい。そのための制度が通信教育にほかならない。早稲田大学は、この点に着目して、高等教育の普及をその社会的使命の一つとして、古くから講義録による社会教育に力を捧げているのである。…《後略》」 (『早稲田大学通信教育の概要』1956年、本文より一部抜粋)

加藤哲夫(かとう・てつお)/エクステンションセンター所長(法学学術院教授

早稲田大学法学部卒業後、同大学院法学研究科に進学。博士(法学・早稲田大学)。専門分野は民事訴訟法、倒産法。2002年法学部長就任、2004~2006年法学学術院長(学部長兼任)。2006~2009年図書館長。2010年9月より現職。 文部科学省科学技術学術審議会専門委員、国立情報学研究所(NII)客員教授等歴任。現在、日本民事訴訟法学会理事長、最高裁判所・下級裁判所裁判官指名諮問委員会(東京)委員等を務める。