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▼錦秋号

SPECIAL REPORT

男女共同参画社会を実現し、新たな知を創造する

男女共同参画社会とは、男女の性にかかわらず、平等に社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、共に責任を負う社会をいいます。男女共同参画社会の実現には、教職員のワークライフバランスの充実や若手研究者支援、男女共同参画の意識を持った学生を社会に輩出するといった、大学の役割が重要です。
本学における取り組みをはじめ、大学に求められている役割、意義について探ってみます。

Chapter.4 研究者座談会

多様性を生かせる研究環境の実現を目指して

本学の研究者による座談会を行い、男女共同参画の実現のために、大学がどうあるべきか、それぞれの立場から忌憚のない意見をいただきました。

川田 宏之
理工学術院教授
(男女共同参画推進室室長)

越川 房子
文学学術院教授

阿古 智子
国際学術院准教授

所 千晴
理工学術院准教授

余語 琢磨
人間科学学術院准教授

制度と意識 両方の変革が必要

川田(司会) 本日はお集りいただきましてありがとうございます。男女共同参画推進室長の川田です。専門は機械工学で、複合材料を扱っています。複合材料は違う性質のものを組み合わせ新たな価値を生み出すものですが、それこそ男女共同参画と同じだと思っています。子どもは3人います。この仕事を引き受け、家事をやるようになって妻にほめられる一方、まだ甘いとも言われていて、どこまで頑張ればいいのだろうと思っている今日この頃です。

越川 文学学術院の越川です。専門は臨床心理学で、認知行動療法とパーソナリティの心理学について研究しています。小学校6年生の娘がいますが、受験の時期になり、かわいいだけでは済まない子育てに心理学者として苦悩する毎日です(笑)。

阿古 国際学術院の阿古です。昨年、出産して4カ月の出産休暇を取得しました。子どもも1歳5カ月になり、楽しく充実した毎日を過ごしています。専門は中国研究で、出産前は長期のフィールドワークに出ていたのですが、今後は、うまく調整しながらやっていければと思っています。

 理工学術院の所です。環境浄化、資源循環をキーワードに、分離技術を研究しています。二児の母で、長男が小学校2年生、次男が3歳です。

余語 人間科学学術院の余語です。専門は文化人類学と考古学、研究フィールドは日本とインドネシアのバリ島です。研究者にありがちな晩婚で、娘はまだ5歳。子どもが生まれるのとほぼ同時に母が倒れ、子育てと介護ともに向き合う毎日です。

川田 大学の職場環境を男女共同参画の視点からみて、本学は働きやすい環境だと思いますか。

余語 まだ、男性の意識には相当個人差があるように感じます。子育てが終わった世代は、育児も家事もすべて奥さん任せだった人が多い。50代のどこかに境目があって、より若い世代では、家事や子育てに積極的に関わろうとする価値観も生まれているように思います。

川田 働きやすい職場環境は、構成員の意識のあり方によるものも大きいですね。

越川 そうですね。子育てのストレスを下げるためには、ソーシャルサポートが重要です。周りの人に理解してもらえるように、自分の状況を積極的に話していくことも大切だと思います。

川田 こうした議論をしていると、子育てをサポートすることが、逆差別だとかフェアじゃないという話になることもありますが、そういうレベルの話ではなくて、男女共同参画が目指しているのは、根本的に男女を問わず誰もが働きやすい環境にすることです。若手の先生から見て、環境が変わってきたと思うことはありますか。

 以前は、会議が18時から始まったり、土日に行われたりしていたのですが、育児をしている立場からすると非常に困るということを正直に言うようにしたところ、少しずつご理解いただけるようになりました。

川田 理工系は業績主義ですから、外での活動が多くなり、どうしても会議が夜や土曜日になりがちです。子育てや介護をしている人が構成員として声を出すことで、組織の意識を変えていくしかありません。少し時間はかかると思いますが。それに、これは子育てや介護をしている人でなくても、個人の生活を大切にするという意味においては避ける方が望ましいことでしょうし。

 ここ数年で、状況は大きく変化していると思います。大学内に託児所ができたり、社会にも病気の子どもを預かってくれるNPOができたりして、お金さえかければなんとかなるという状況になってきました。

阿古 早稲田には、復帰してから1年間は担当コマ数を減らしていただけるという教務主任会の申し合わせがあり、また、委員も一つだけに減らしていただきました。研究者の世界ではまだ子育ての実情への認知度が低く、特に授乳期間は出張や夜の会議などがあると本当に大変です。女性の私でも当事者になるまで知りませんでした。今は、社会的なインフラが整ってきています。私は、実家が遠く、夫は中国に単身赴任中のため、行政のファミリーサポートを利用しています。

制度を整えてニーズを掘り起こす奮闘

川田 大学では、西早稲田キャンパスにワークライフバランス・サポートセンターという施設を作って、相談窓口を設けています。今後、どのキャンパスにも同じようなインフラを設置していかなければなりませんが、所沢では新宿にあるキャンパスとは違う苦労はありますか。

余語 所沢の人間科学研究科には臨床心理などの心理系や福祉・教育の領域があるためでしょうか、比較的女性の院生や助手・助教が多いと思います。ところが、キャンパスの中に子育てをサポートする施設がありません。サポートがないことで、子どもを産むことを先延ばしにしているという実情もあるようです。表面的にニーズがないように見えても、施設を作ることによってニーズが掘り起こされることは、他大学の例からも明らかでしょう。大学側が意識的にサポートしないと、変化のスピードが遅くなりますね。

越川 大学院生に「どういったサポートがあれば研究を一生続けたいと思えるか」と質問すると、やはり出産と育児がネックになって研究職を目指すことを躊躇していることが分かります。実際は、大学に託児所や病児保育があったとしても自宅が遠いとなかなか利用することができません。本来は、病気の子どもや家族がいたら仕事を休める社会が一番いいと思います。しかし、子どもが病気になったらサポートしてくれるという制度があることは、将来の選択をする際に非常に重要な要素になっているようです。

川田 理工系においては、そういったことが話題にのぼることすらないですね。

 理工系職場では、周囲に相談できる人はまずいません。私は専任教員になってから子どもを一人産んでいますが、産休の取り方も、どんな制度があるかも全然分かりませんでした。相談窓口があれば、精神的な不安は随分解消されただろうと思います。

川田 声を大にして言いたいのは、専任教員でもそのようなハードルを感じているということです。ましてや若手の先生や博士課程の学生はもっと言いづらいのではないでしょうか。その垣根を取っ払うことがまず必要ですね。

越川 日本は、実質的な生活を犠牲にして、仕事に時間を捧げることが美徳とされてきましたから、難しいところがあります。そのような社会の価値観を根本的に変えていきたいですね。

川田 ところで、世の中の男女共同参画の進展に対し、本学の進捗具合はいかがでしょうか。

越川 どこの大学も同じような内容で苦労していると思いますが、医学部を持っている大学は保育施設の設立が容易だそうです。大学病院の戦力である看護師さんのための保育施設を利用できますし、病児保育も受けられますから。

阿古 病児保育があれば、安心して子育てできますね。

越川 大学院生と話していると、そういった施設やサポートがあるということが、安心材料になることが分かります。制度や環境が整っていれば、ご父母も自分の子どもが大学院に進むことに反対しなくなるのではないでしょうか。
 また、情報提供の面では、先ほどのサポートセンターで、育児や介護に関するものから、キャリアプランニングや研究費獲得のコツなどさまざまなセミナーが用意されていて、妊娠中の人にも子育て中の人にも役立つと思います。

川田 早稲田は、国内で2番目に女子学生の数が多い大学です。だからこそ、設備や制度の充実に積極的に取り組む必要がありますね。

男女が共に働くことで、多様性が生まれる整え

川田 男女が共に働くことは、組織を活性化すると思いますか。

越川 いろいろな価値観があることは、間違いなく研究を活性化しますよね。新しいものを創造するには、新しい視点が不可欠だと思います。

川田 そういう意味では男女共同参画は多様性そのものですね。仕事と家庭を両立させている女性教員のロールモデルを積極的に見せることに意味はあると思いますか。

越川 特に大学院生は知りたがりますね。女性教員になるまでの道のりや、出産、育児と研究のバランスはどうしているのか。これからの人生の参考にしたいと言っています。

 最近、学会でもロールモデルを学生に見せることに取り組み始めています。学生だけでなく、私自身も、他大学の女性の先生の話を聞くことで刺激を受けます。理工系は女性が少ないので、そのような機会は意義があるのではないでしょうか。

川田 理工学術院のWebサイトには、「WASEDA Ricoh-girls」というページがあって、女子学生からのメッセージを発信していますが、そういった情報発信も男女共同参画の一つの方法として重要ですね。

家庭での早い段階からの意識付けが必要

余語 皆さんは、研究者としてのキャリアプランを考えるとき、どの程度プライベートライフを組み入れていましたか。私は皆無でしたが。

越川 私もどれ一つ思い通りにはいきませんでした。予想外の展開ばかりです。

 私は昔から子どもが欲しいという気持ちと仕事をしたいという気持ちがあったので、大学生くらいの頃から、どうやって両立していけばいいかを考えていました。でももちろん計画通りにはいっていません。

阿古 私もそうです。

越川 私の時代は、女性研究者は結婚がはばかられるような雰囲気でしたね。

川田 今は隔世の感があります。いろいろな制度がそろっています。それでもまだまだ足りないかもしれません。
 ところで、子育てだけでなく、介護という問題についてはいかがでしょうか。

余語 主として妻が育児を、私が実母の介護とゆるやかに役割分担をしていますが、妻も仕事を持っており、かなりきつい状況です。社会や大学全体の雰囲気として、育児については意識も制度も少しずつ変わってきたように感じますが、介護は、保険制度は別として、意識の点ではやっとオープンに話せるようになった程度でしょうか。大学のサポートも、介護に関するものはまだ限られています。

越川 子育てと違って、介護は先の見通しが立たず、だんだん負担が重くなるところがまったく違いますし。

川田 子育てと同時に介護も重要な課題ですね。親の老いは、誰もが必ず向かい合わなければならない問題ですから。
 では、最後に今後の課題と抱負をお聞かせください。

 喫緊の課題は女性のサポートだと思いますが、男性にも子育てに平等に関わってほしいですね。

越川 男子学生に聞くと、中学校のときに家庭科が始まって意識が変わったそうです。もっと早い段階で男女がともに子どもを育て家事も分担するという意識を持てるようにすべきですね。

川田 昔は「男子厨房に入らず」と言われていましたからね。例えば両親が共働きで父親が家事をする姿などを見ていれば、子どもの意識も根付くでしょう。

阿古 大学でも、男子学生が子育て中の女性教員の話を聞く機会があってもいいのではないでしょうか。

 男性にも奥さんのサポートとしてではなく、主体性を持って子育てや家事に向き合ってほしいですね。

川田 指示待ちではだめですね(笑)。男性の意識を変えるには、早い段階からの家庭での取り組みが重要になってくると思います。

余語 大学の取り組みを広く情報発信することも課題の一つだと思います。相談窓口が設置されたり、いろいろなサポートが始まったりしているのに、情報が行き渡っていません。

越川 確かにあまり認知されていませんね。例えばパンフレットがもっと簡単に手に入るようにするなど工夫していきましょう。

川田 今日は、皆さんの男女共同参画に対する考え方が非常に前向きだということが分かって、大変頼もしく感じています。男女共同参画は、創立125周年のときに策定された大学の中長期計画である「Waseda Next 125」の重点施策でもありますから、今後も引き続き一生懸命取り組んでいきたいと思います。