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キャンパスナウ

▼錦秋号

SPECIAL REPORT

男女共同参画社会を実現し、新たな知を創造する

男女共同参画社会とは、男女の性にかかわらず、平等に社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、共に責任を負う社会をいいます。男女共同参画社会の実現には、教職員のワークライフバランスの充実や若手研究者支援、男女共同参画の意識を持った学生を社会に輩出するといった、大学の役割が重要です。
本学における取り組みをはじめ、大学に求められている役割、意義について探ってみます。

Chapter.3

研究者から見た男女共同参画

本学では男女共同参画に関連するさまざまな授業が行われています。
その中から6名の先生に、授業や研究内容について紹介いただきました。

オープン教育センター設置科目「ジェンダーを考える」

社会に出る前に自分の問題として考える

弓削 尚子/法学学術院教授 他

 「社会に出る前に、知っておくべきことだと思ったから」。学生アンケートで近年必ず挙がる履修理由です。ジェンダーに対する学生の問題意識は確実に高まっています。学部の垣根を越えたこの科目の存在意義は大きいでしょう。担当教員には文学、法学、歴史学、教育学などの専門家が並びます。最終回で行われる学生主体のグループ討議でも、専攻を異にする学生たちの意見交換が盛んです。

 初回の授業では特に次の2点を確認します。第一にジェンダーとは女性だけでなく、男性性の神話や構築に着目すること、そして男女二分化の思考そのものへの問いも必要だということです。第二にジェンダーの批判的視座なくしては男女共同参画の実践は難しいということです。男女共同参画の推進とは家庭生活を含め、公・私双方の領域への視野が重要で、女性が家庭を犠牲にして「男並みに」働くことでも、男性が就業を犠牲にして「女並みに」家事や育児に携わることでもありません。男女が従来の性別役割にとらわれずに働き方や生き方を見直し、より良いワークライフバランスを実践することです。

 このような観点から、この授業はジェンダーに関する学問的な知識はもちろんのこと、学生たちが「社会に出る前に、自分の問題として考えておくべきこと」を提供しています。

オープン教育センター設置科目「女性・しごと・ライフデザイン」

働き方やくらし方について考える

矢口 徹也/教育・総合科学学術院教授 他

 女性の教育機会の拡充・整備は、早稲田大学の先人の理想でもあります。現在、本学には1万8千余名の女子学生が在籍し、卒業後の就職や進学結果で男女はほぼ同様の成果を示しており、社会の男女共同参画の動きをリードしつつあります。しかし女子学生が、就職活動を前に迷い始める、就職してもやがて「両立」の課題に直面して悩むという姿が無いとは言えません。女性の就業をめぐる問題は法整備以前と比べ、問題そのものが複雑化して見えにくくなっているという指摘もあります。

卒業生のプレゼンテーション

 学生たちに、将来の進路選択を前に女性の就業とその継続をめぐる現代的課題を理解し、自分自身の将来の働き方やくらし方を考えてもらうことが、この授業の目的です。そのために学内外のさまざまな分野の教員がそれぞれの立場から講義を担当し問題提起をしています。授業では卒業生を招き、進路選択や就職活動、社会生活についてのメッセージを伝えるなど交流の機会も設けています。

 また、この講義は文部科学省による「女性のキャリア形成支援事業」や科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」の一環として開講されました。卒業後の働き方やくらし方について考える基礎を提供し、その上で大学時代にどんな力をつけるべきか考えてもらいたいと思います。

オープン教育センター・理工大学院3研究科合併科目「科学とジェンダー」

女性研究者とジェンダーを学ぶ

中村 釆女/理工学術院教授 他

 この授業は複数教員が担当するオムニバス科目です。「科学」の名を冠していますが、受講生の専攻が理工系である必要はありません。講義は、「ジェンダー(社会的文化的性差)とは」、「男女共同参画に関わる国内外の取り組み」、「科学史とジェンダー」、「ジェンダーと地質学」、「医学とジェンダー」といったテーマで展開されます。他に、学外の女性研究者や技術者をゲストに招き、職場の現状や今後の展望を語ってもらう時間を設けています。企業の職場環境を知る機会としても貴重な時間です。

 私の担当時間では、1900年ブレスラウ大学(現ポーランド)で女性として物理化学分野初の博士号を取得したドイツ人クララ・インマーヴァー(1870-1915)を取り上げます。彼女の夫フリッツ・ハーバーはアンモニア合成法や戦場で使用するための毒ガスの開発をした高名な化学者です。ドイツでは2007年にこの夫婦の悲劇的な生涯とその死を扱った戯曲(S.フリードリヒ作『インマーヴァー』)が書かれ、上演もされています。結婚・出産により研究をあきらめ、夫の研究内容を認められず苦悩する妻、今から約百年前に亡くなったこの女性から、「ジェンダーと働くこと」および「科学研究とジェンダー」に関し、今なお多くのことを学べると思っています。

社会科学部設置科目「社会科学総合研究(議員リクルートメントの比較ジェンダー学)」

権力を用いる覚悟を持った、女性議員の育成が大切

今村 浩/社会科学総合学術院教授 他

 日米を中心に政治研究に携わる中で、近年はジェンダー政治が専門でなくても、女性に関連する問題を考えざるを得なくなりました。その一つが議会における女性議員比率です。西欧諸国の女性議員比率が平均して高いのに対し、日米は低いままです。その原因は、政党のあり方や候補者選抜のシステムの違いなどが作用しています。

 そこで本授業を開講し、日米英の他、西欧諸国の最近の事情を検討してきました。本授業は私を含めて3名の講師が分担し、(1)女性の議会への人口比例的代表が求められる根拠、(2)日米英を中心とする諸国の女性議員選出の事情を講じています。さらに、各国の女性と政治の関わりにも焦点を当てています。

 そこで考えたことは、女性が公正に議会で代表を務めるという発想だけでは不十分だということです。女性の利害は女性議員によってしか代弁されないとすると、では男女の利害を統合して政治を運営する責任を負うのは誰なのでしょうか。女性議員は弱者・少数派という立場を脱し、政府を構成し統治の責任を負う立場に、自らの身を置くことが求められます。権力を用いるには、権力に抵抗する以上の覚悟が必要です。

 男性政治家が無能を露呈して次々と交代している今、女性が統治の責任を負うことを示すことができれば、女性議員への偏見も不信も払拭されると考えています。

国際教養学部設置科目「Gender Studies」

両義性にこだわり、ジェンダーを浮き彫りにする

勝方=稲福 恵子/国際学術院教授

 国際教養学部の学生は国籍も社会的・文化的背景も多様で、共同参画意識も一様ではありません。「ジェンダー論では男子の気概が殺がれるから」と儒教的な固定的役割分業に与(くみ)する学生もいれば、「専業主婦/主夫が夢」や「草食系は進化だ」という学生もいます。発展途上国だからジェンダー格差がひどいということでもなく、高度に近代化した社会が男女平等だという通念も覆されます。

 この多様さに応答するため、授業ではフェミニズムやメンズ・リブ、クイア理論までを歴史的にたどり、社会構築主義の観点から宝塚歌劇と歌舞伎女形、近代家族や母性イデオロギー、ロマンティック・ラブ・イデオロギーなどの両義性にフォーカスしています。

 ジェンダーは社会的・文化的に構築されるからこそ多様であり一筋縄ではいかないことを、「時代背景」や「階級」、「民族性」などの「経験値」を関数にすることで浮き彫りにします。そもそもフェミニズムは単数ではなく複数(feminisms・)であり、解放の道筋は人の数だけあるのです。課題は山積みですが、人権意識の進んだ近代において、むしろジェンダーの均質化/格差が広がっている矛盾を、琉球・沖縄の「女性優位と男性原理の併存システム」の両義性にこだわることで言語化したいと考えています。

留学センター設置オープン科目「Gender and Religion」

ジェンダーの歴史への理解を

Paul B. Watt(ポール B・ワット)/留学センター教授

 この授業では、いくつかの宗教の伝統におけるジェンダーの概念、とりわけ宗教が創造し正当化した女性の概念を究明します。その上で、社会におけるジェンダーの概念を形成した要素を理解することが目的です。特に、ヒンズー教、初期仏教、大乗仏教、中国/日本の儒教、日本のシャーマニズム/神道などの創成期に焦点を当てて各伝統の中のジェンダーの概念について考察します。『マヌ法典』、仏教のパリ経典、『維摩経』、『法華経』、儒教の『女大学』、古代日本史に見るシャーマニズムなどを取り上げます。

 これらの宗教におけるジェンダーの概念は複雑で、授業だけでは充分に考察することは不可能です。しかし、学生が授業を踏み台にして、より問題意識を持って文献を読み、ジェンダーの概念を形成する経済的、政治的、宗教的な基本要素を理解してもらえると良いと思っています。

 男女共同参画社会を目指している私たちは、ジェンダーの歴史を理解した上で新しい社会づくりに取り組まなければならないと思います。宗教が新たな社会づくりにどう貢献できるかが、今後の課題だと考えています。

この他にも、本学ではさまざまな男女共同参画関連の授業があります。
詳しくは、男女共同参画推進室Webサイト内、「男女共同参画関連科目」をご覧ください。
http://www.waseda.jp/sankaku/kamoku/