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SPECIAL REPORT

学理と実務の架橋を目指す「専門職大学院」

本学では高度な専門知識を持った職業人の育成を目指し、専門職大学院を設置しています。
専門職大学院ならではの学理と実務を融合した教育課程の意義、学部教育への教育効果についてお伝えします。

田中 愛治(たなか・あいじ)早稲田大学 理事 略歴はこちらから

Part.1

時代の要請に応える専門職大学院

専門職大学院の設立背景や意義・目的、教育効果について伺いました。

現代社会のさまざまな課題を
現場で解決する能力を身に付ける
専門職大学院

田中 愛治/早稲田大学教務部門総括理事

高度な専門知識を持った実務者を養成

――そもそも専門職大学院とは、どのような目的で作られたのでしょうか。

 一言で言えば、学部の2階にあたる研究者養成のための大学院とは異なり、高度な専門知識を持った実務家を養成するための大学院です。

 米国には、日本の専門職大学院にあたるプロフェッショナルスクールが数多くあり、大学院が日本より身近なものとなっています。例えば、医者になるためのメディカルスクールや法曹になるためのロースクール、経営を学ぶビジネススクール、ジャーナリスト養成のジャーナリズムスクールなどがあります。ビジネススクールやジャーナリズムスクールの場合は、一度社会に出て実務経験を積んでから入学する場合がほとんどで、そうした経歴が社会的にも十分に受け入れられています。

 一方、日本での専門職大学院制度は2003年度にスタートしました。実践的な教育方法の導入、一定数の実務家教員の配置などがルール化され開設が進んできました。

――日本で専門職大学院制度が導入された背景をお聞かせください。

大学生の声(本学学生部実施『2010年度第29回学生生活調査報告書』より、トップ5)

 科学技術の進歩やグローバル化に伴い複雑化する一方の社会の現場で、さまざまな問題解決を担うことができる高度な専門知識を持った人材へのニーズが高まっています。さらに、従来の日本社会では企業が時間と費用をかけて人材を育成してきましたが、最近ではその余裕がなく、人材の流動化もあって、自前で人を育てなくなっています。そこで、大学にその役割が期待されるようになったのです。この傾向はこれからも強まっていくでしょう。また、専門職大学院は、仕事を通して学ぶべきテーマを見つけた人が再度学び直す場としての役割も担っています。

 米国では、トップレベルの企業のマネージャーの16%が博士号、75%が博士号もしくは修士号を持っているというデータがあり、大学院で学ぶことが、現実社会の問題解決に役立つという認識が浸透しています。クリントン大統領の補佐官に国際政治学の第一人者であるジョセフ・ナイやノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツが名を連ねていたのをはじめ、学問が政策決定にも生かされてきました。それに対し日本は、大学での教育を比較的軽んじる傾向があります。しかし、例えば分析能力などは実務だけでは身に付きません。大学院で体系的な知識を学び、高度な専門性を身に付けた人材を活用する社会にしていかないと、日本がこの先、国際競争を勝ち抜いていくことは難しいのではないでしょうか。

 私自身、学生を教える中で、大学で体系的に学ぶことの価値を実感しています。学部レベルでも、テストの答案を見ると、1~2年生に比べて3~4年生では明らかに物事の考え方が分析的になり、質も向上しています。また、知識や理論を学ぶだけでなく、その理論の妥当性をどのようにすれば検証できるかなど、質の高い学生同士が議論をして切磋琢磨することで、さらにその能力が伸びると感じています。

早稲田の資産を生かした多様な専門職大学院

――本学には、どのような専門職大学院がありますか。

 現在、大きく分類すると4系統の専門職大学院があり、文部科学省が例示している全分野をカバーしています。

 1つ目は「法務研究科」で、いわゆる法科大学院(ロースクール)です。法曹としての専門知識と実務能力を体系的に身に付けるのはもちろんですが、米国の協定大学へ留学して米国の弁護士資格を取得できるのは本学だけのプログラムです。2つ目は商学系の「商学研究科ビジネス専攻(ビジネススクール)」「会計研究科」「ファイナンス研究科」の3研究科で、MBAコースが開設されています。3つ目は「公共経営研究科」。主に国・自治体・国際機関やNPO・NGOの職員が、行政や公共政策の専門知識を学びに来ています。現職の議員もいます。4つ目は教職大学院と呼ばれる「教職研究科」です。学校教育のリーダー養成を目指すもので、私立大学ならではの自由な立場での教育が注目を集めており、小・中・高の現職教員も多勢学んでいます。

 「法務研究科」と「会計研究科」では、ほとんどの学生が資格取得を前提としていますが、本学では資格試験の準備だけでなく、実社会で本当に役に立つ人材であるための基盤となる能力の養成を重視しています。

 いずれの研究科においても、教員・学生・設置科目の多様さは大規模校ならではのスケールメリットですし、日本有数の図書館や卒業生集団をはじめとする本学の数々の資産がバックにあるのは大きな強みと言えます。

――今後の課題は何でしょうか。

 教育の質のさらなる向上です。本学の専門職大学院は、どの研究科も高い理念を掲げて運営していますが、教育の質は最終的に卒業生の活躍によって評価されます。10年後に、早稲田の専門職大学院出身者は社会に不可欠な人材だと言われるように、今後も工夫を重ねていかなくてはならないと考えています。

田中 愛治(たなか・あいじ)/早稲田大学教務部門総括理事

【略歴】
政治経済学術院教授。1951年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、オハイオ州立大学大学院政治学研究科博士課程を修了。博士(Ph.D.政治学)。グローバルCOE「制度構築の政治経済学」拠点リーダー。教務部長、早稲田ポータルオフィス長などを歴任し、2010年11月より現職。