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▼盛夏号

SPECIAL REPORT

WASEDA ECO FUTURE 環境を考える
THINK ECOLOGY AT WASEDA

環境問題への関心が世界的に高まる一方、早稲田大学では1979年から長きにわたって環境教育・研究に取り組んできました。教育・研究を担う大学として、環境問題の解決にどのように寄与できるのか。大学内での環境への取り組みと、環境教育・研究の一部を紹介します。

Part.3

環境教育と研究

全学共通副専攻(テーマスタディ)による環境教育
環境への関心が高まる反面、環境に関する学問はますます複雑化、多様化しています。
早稲田大学では全学共通副専攻(テーマスタディ)の一つとして、「戦略的環境研究」というテーマを設置。
(1)環境に関する学問体系を包括的に学習する場を提供し
(2)環境をとらえる広い視座を獲得するための場を提供しています。
各授業では、さまざまな専門分野を持った教員が研究の道筋を伝え、
学生は自分の専門や興味にあわせた授業の選択が可能です。
Part.3では、このテーマスタディの講義で教鞭をとる6人の先生に授業内容についてお話を伺いました。

講座1 環境問題と持続可能な社会

吉田 徳久/理工学術院教授

本質を見抜く目を持ち、環境問題の実態を知る

吉田 徳久/理工学術院教授

 環境問題の解決は「持続可能社会の構築」にあると言えるでしょう。

 この授業では3人の教員が、政治学、経済学、行政学の3つの社会科学的視点で環境を俯瞰し、環境リテラシーとしての基礎教養について講義します。例えば政治学の視点では、持続可能性の理念が世界に定着するまでの歴史的な経過をたどり、気候変動問題(地球温暖化問題)をひも解きます。また、アジア諸国が直面している開発と環境保全の間での葛藤を学び、人類社会のサステイナビリティの確保に向けた取り組みと現実的な課題を俯瞰します。

 私は環境施策(行政学)の分野を担当しています。例えば水俣病が、どのような原因で半世紀にもわたる不幸につながったのかなど、環境政策の実態を教えることで、本質を見抜く目を養います。

 社会科学的に環境問題を見るとき、貧富の差、南北問題、ジェンダー、宗教・因習文化の違いなどの要因が必ずついてきます。同時に自然科学的に見ると、人口増加などの要因により地球の資源は枯渇しており、このままでは地球を維持することができません。社会科学的視点と自然科学的視点をもとに全体を俯瞰し、さまざまな差別をなくした公平な社会を作ることが大切です。

講座2 やさしい『環境とエネルギー』

清水 功雄/理工学術院教授

文理のサイエンスコミュニケーションのために

清水 功雄/理工学術院教授

 いまや「環境」は、世紀の関心事。学生時代、かつて公害問題が騒がれたころ、私も公害を無くさなくてはと考え、公害防止に貢献できる化学工学を専攻しました。大学院では、化学工学の研究室に入れなかったため、有機合成化学(医薬や電子材料などに使われる機能材料を作る化学)の研究を始めました。現代において、化学は私たちの暮らしになくてはならない学問です。化学を活用して、豊かな社会を築くために、「グリーンケミストリー」といわれる考え方で、今まで以上に環境に負荷を与えないものづくりを実践することが大切です。

2008年度オープン科目「実践サイエンスコミュニケーション」の授業(軽井沢セミナーハウス)

 さて、表題の授業はオープン教育センターのテーマスタディ「環境戦略」と「知財コミュニケーション」を学ぶ学生を対象とし、環境にかかわるサイエンスを容易に理解し、文理の間でコミュニケーションをとることを目的としています。科学の基礎とともに、地球の歴史、産業の歴史、科学の歴史などを踏まえ、「環境とは何か?」「環境の何が問題となるのか?」から始まり、石油、原子力、エネルギーの変換、炭素の循環、化学物質、地球環境、環境経営、レギュラトリーサイエンス(科学に基づく規制)について学んでいきます。

 ただ知識を増やすのではなく、受講生の一人ひとりが社会の中でサイエンスの知識を活かして何か判断ができるようになることを期待しています。

講座3 環境関連施設見学演習(思索篇・実践編)

円城寺 守/教育・総合科学学術院教授

環境問題に特化した社会状況を体験し討論する

円城寺 守/教育・総合科学学術院教授

 この授業では、受講生自身が班ごとに、環境関連の施設を選定・交渉して見学し、その結果や成果を発表して問題点を全体で討論します。対象は原子力発電所や風力発電所、地方公共団体の廃棄物処理施設、食品・電機・自動車工場などで、環境保全への取り組みなどに照準を合わせています。教室での討論のほか、合宿なども実施しています。

 受講生にとって環境問題に特化した社会状況の把握は驚きの連続であり、毎回極めて大きい教育効果を得ています。開講時刻は夜間であり、別途に見学会に出かけたり、不定期に相談・連絡をするなど不利な制約条件が多い中、受講生は極めて熱心で、積極的・主体的です。もともとこのような条件を押してまで集う問題意識の高い学生だからでしょうか。授業の形態はともかく、このような前向きの集団と楽しい時を分かち合っています。

 開講以来、受講生の所属は多くの学部や他の大学にまでわたり、この傾向は今も変わりません。当初は1年生を主体に募集していましたが、最近では高学年の者が多く受講するようになりました。環境問題を意識し始める時期が、近年、微妙にずれてきているようです。

 私の研究は地球科学や資源科学が専門です。鉱物中の微小な物体や微量の水などを用いて、鉱物や鉱床の生成や変化にかかわる地球科学的環境を解明しようとしています。その途上で、さまざまに関連してくる、環境汚染や資源確保の観点から、このような演習を担当するに至りました。

講座4 現代環境論

村山 武彦/理工学術院教授

さまざまな手法で情報を集め現代の環境問題の全体像をつかむ

村山 武彦/理工学術院教授

 「現代環境論」では、これまでの環境問題の歴史を概観したうえで、大気や水、土壌、廃棄物、気候変動など具体的な問題を扱っています。できるだけ最近の状況をまとめつつ、環境問題の全体像や個々の問題に共通する課題が捉えられるよう努めています。

 「環境政策と計画」では、主として政策面に焦点を置き、実施主体や政策段階の原則とともに、個別の実施手法などについてまとめます。その中で、汚染者負担の原則をはじめ、未然防止と予防的方策との対比や、規制的手法と経済的手法との関係などを扱っています。

化学物質のリスクコミュニケーションをテーマに埼玉県川越市で開催した会合の様子

 「環境倫理」では、地球の有限性、世代間の公平性、生物の権利、環境問題と社会的公正などの内容について紹介した後、具体的なテーマを設定しKJ法(データをまとめるための手法)やディベートを通じて学生が自ら考える機会を持つようにしています。

 また、研究室の取り組みのうち、化学物質によるリスクコミュニケーションに関する研究では、有害性に関する情報が不足していたり不確実である場合に、企業や市民、行政など、さまざまな立場から関係する人々の間のコミュニケーションを通じたリスク管理手法の開発を目指しています。そのため、埼玉県や東京都を中心に具体的な地域を設定し、実際に会合を開催することで、議論を深めるために必要となる情報や議論の進め方などを検討しています。

講座5 環境民俗学

鳥越 皓之/人間科学学術院教授

昔からの言い伝え、慣習の中にある環境への工夫を研究する

鳥越 皓之/人間科学学術院教授

 「民俗学」という学問分野があります。柳田国男や折口信夫という民俗学者の名前を出せば、イメージできる人がいるかもしれません。民俗学は庶民が伝承してきた言い伝えや慣習を研究する学問です。そのうちの環境に特化して研究するのが「環境民俗学」です。

ミニ鳥居の効果でごみがなくなりました

 水を例としてあげます。淡水は地球規模でその不足と汚染が問題になっています。けれども江戸時代で見ると、都会の大坂では町の中を流れている川の水を飲むことが可能でした。現在でも地方にいくと、川の水や湧き水を飲んでいる人たちが少なからずいます。彼らはどんな工夫をして汚染や水の減少を防いでいたのでしょうか。例えば、湧き水があり、そこに「水神」が祀られていると、なんとなく水の無駄使いや、そこを汚すのがはばかられますね。同じ神様の例でいうと、最近は山にゴミを捨てる人が少なくありません。そこにゴミを捨てるなと注意書きをしても無視されますが、写真のような鳥居を置かれると躊躇しますね。

 授業を受けている学生たちは身近なことなので、とても関心をもって授業を聞いてくれますし、自分の地方ではこうであったという経験談を語ってくれます。自分の見聞きや経験が学問になる分野なのです。

講座6 環境情報科学

太田 俊二/人間科学学術院准教授

地球気候と生物の織りなす美しい自律システム

太田 俊二/人間科学学術院准教授

 春学期開講科目である「環境情報科学」は、いわゆる地球環境問題に焦点を当てたさまざまな研究から、気候、エネルギー、食料、生物圏の話題を中心に提供しています。

 秋学期の「地球環境システム論」では、春学期の各内容の基盤には「熱収支」と「物質循環」があることを理解してもらい、地球気候と生物の織りなす自律的なシステムの美しさを講義します。したがって、この2科目は地球環境に関するトピックスと基礎という分け方ができますが、どちらから履修しても差し支えありません。

 秋学期の講義で扱う内容の半分は一般に難関と言われる気象予報士の資格試験と重複しますが、毎年何人かの学生が受験して見事合格しています。中には「お天気お姉さん」になった学生もいます。このような資格に関わらず、地球環境について正しい科学的理解をしたいという皆さんには、ぜひこれらの科目群を履修してほしいと考えています。

 ところで、私の研究室では現在、東京近郊のヒートアイランド現象の観測やアジアの水田環境モデル、マラリアを媒介するハマダラカの生息域分布モデルの開発を集中的に取り組んでいます。一見関係なさそうなこれらの共通点も「熱収支」です。

NEDOから補助金を受け、交通安全環境研究所、昭和飛行機工業と共同で実施した、先進電動コミュニティバス(WEB3)

「学問領域統合型アプローチ」で人類の課題に挑む
環境総合研究センター

 同センターは、2002年、持続的発展が可能な循環型社会の実現に向けて、環境問題に対応した先導的な研究開発を目的として本庄キャンパスに設立されました。萌芽研究から実用化までの一貫した対応を目指し、本学大学院環境・エネルギー研究科や財団法人本庄国際リサーチパーク研究推進機構をはじめとする学内外の機関と連携。民(生活市民)・産(企業市民)・学(学界市民)、さらには海外(海外市民)が一体となった「4つの市民の共創」による問題解決に取り組んでいます。

 また、CO2削減目標ひとつとっても立場の違いが現れやすい環境問題ですが、「大学の中立性」を堅持することで社会からの信頼に応えうる研究教育を推進。実社会での「現場・現物・現実主義」を徹底し、「社会のための技術」の確立を目指します。

 現在、「グリーン水素モデル社会システム」「先進コミュニティ交通システム」「政治的意思決定とジャーナリズムによるサステナビリティの確保」など各種分野や関係主体との協働による18の研究クラスター、および「環境対応型農業」「人間の安全性・快適性の観点による生活環境評価システム」「環境教育プログラムの開発」など、焦点を絞ったテーマを対象とする11の研究プロジェクトを展開中です。