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▼新年号

SPECIAL REPORT

人とのつながりが生む大学の社会連携
~新たな価値を創造する~

Part.3

鼎談

本学の社会連携事業の中でも、大学と地域の連携は、社会における大学のあり方を変えるさまざまな可能性があります。その現状や課題について、大学と地域、それぞれの立場から意見を交換しました。

人と人のつながりが生む大学と地域の新しい関係

写真=金子悟

吉田 正博(よしだ・まさひろ)氏(中央)
早稲田大学商学部卒業後、横浜市入庁。経済政策課長、経営支援課長、産業金融課長を歴任し、現在、財団法人 横浜企業経営支援財団 常務理事 事務局長。

友成 真一(ともなり・しんいち)(左)
京都大学大学院工学研究科修了。通商産業省(現経済産業省)入省。通産省ロシア東欧室長、国土交通省企画官等を経て07年より現職。

奥山 龍一(おくやま・りゅういち)(右)
早稲田大学第一文学部卒業後、職員として入職。体育局、事務システム開発課、人事部勤務を経て、現職。

地域を元気にする大学という資源

奥山 本日は大学の社会連携事業の中でも、特に地域の連携について、それぞれの立場から現状や課題について語り合いたいと考えています。吉田さんが事務局長を務めている横浜企業経営支援財団(以下IDEC)は、全国の大学と連携をしていますが、その目的は何ですか。

吉田 IDECは横浜市の外郭団体で、市内に10万7千ある中小企業を支援し成長発展させることを使命としています。ちなみに、3年前に市からの補助金を5年後にゼロにするという通告を受け、改革を進めた結果、5億円削減しました。しかし一番重要なことは、コスト削減よりも市内の企業に質の高いサービスをすることです。100年に一度の経済危機と言われていますが、企業が存続していくためには、絶えざるイノベーションが必要で、そのためには情報が必要です。そこで、地元の銀行だけでなく、グローバルな情報も持っているメガバンクと提携し、それから「知」の宝庫である大学との連携を始めました。

 横浜市内には理工系大学が9つあります。従来の理工系の産学官連携はそれらの大学で良かったのですが、近年ニーズが高まっているバイオやアグリなどの分野をカバーする農学部や水産学部を擁する大学はありません。そこで、全国の国立大学とも連携し、2007年からは私立大学でも、東海大学を皮切りにネットワークを全国に広げていました。早稲田大学との連携は県外初です。早稲田のような総合大学との連携では、大学の「知」だけでなく、卒業生とのつながりができることも期待しています(※下段1)。

友成 私が25年間中央官庁で仕事をしていたときに考えていたのは、どうすれば日本を元気にすることができるかということでした。失われた10年と言われた時代から日本は元気がありません。それならまだ使われていない資源を掘り起こそうと目をつけたのが、大学、地域、行政です。

 国の競争力ランキングでは、フィンランドなどの小さな国が上位に並びます。天然資源に乏しい小さな国であっても大学の資源を活用し、人的資源を十二分に利用しています。日本も同じような状況ですが、大学の資源が十分に活用されていません。

 日本でもこの10数年来、理工学分野の産学官連携が盛んに行われてきましたが、一部を除き目覚ましい成果は出ていない印象を受けます。理工学分野は大学の資源のごく一部に過ぎません。もっと大学をフル活用するなら、最大の資源である学生の力を利用すべきです。

 また、地域の資源ももっと活用すべきです。大学と地域をうまくぶつかり合わせてお互いの資源を相互に利用すれば、世の中はもっと面白くなると期待しています。

奥山 本学が本格的に地域連携を始めたのは、2002年の墨田区との包括協定です。私は大学職員を30年以上やってきましたが、最初は、大学が地域や企業と連携するということがよく分かりませんでした。運良く、友成先生からいろいろな示唆をいただくことができたので、本当に助かりました。墨田の包括協定は、形式上は総長と区長の間で結ばれましたが、実際は区の中小企業センターの方と大学の産官学連携推進センターの職員が、双方のカウンターパートとして熱心に動き、2人の間で化学反応を起こしながら新しいアイデアを生むことによって、お互いの資源を生かすことのできるさまざまプロジェクトを進めていったと聞いています(※下段2)。

友成 そうですね。墨田との包括協定も当初は理工系のものづくりを想定していたようです。しかし、白井総長が「墨田との連携は、まちづくりだ!」とおっしゃって、プロジェクトの幅が広がりました。そして何といっても、連携を進めるのは人です。包括協定は所詮紙切れ一枚の世界ですが、双方のカウンターパートが、自分のところの資源をよく理解し、組織をまとめていく能力を持っていれば、必ずうまくいくと思います。

奥山 その後、墨田との連携をお手本にしながら、私が関わったもので言えば、本庄市や川口市、佐賀県、奈良県、今日参加している吉田さんのIDECとも協定を結びました。企業では日産自動車やNHKエンタープライズなどと協定を結んでいます。世の中全体の流れとしても、従来型の理工学系から、文系や農学など新しい領域へと連携の幅が広がっています。今、地方の大学がどのような地域連携を行っているのかを調べているのですが、大学が地域との関わり方をとても大切にしていて、いかに地域にとって有用な人材を育成するか、地域のニーズをいかに受け入れるかという考えを持っていることが分かります。特に地方の中小大学では、それが大学の存在理由であり、生き残る道なのではないかと感じています。

友成 その調査では、大学と地域の連携が成功している要因を探ろうとしているわけですが、世の中は、形だけを見ようとする傾向がありますので、その成功の要因を掘り下げて見ないと議論が表層的になってしまいます。深い成功の要因を横に展開していけば、もっと上手に大学の資源を使うことができると思います。

奥山 成功している大学の地域連携は、教員だけでなく学生、職員も積極的に動いていて、自治体や商工会議所や商店街ともよい関係を築いています。良い人間関係が推進力になっているのは確かですね。吉田さんは、北海道から九州まで大学を訪問し、数十校と協定を交わしていますが、その辺はどうお考えですか。

吉田 まったくその通りですね。連携を推進する鍵は、キーマンをどう育てるかだと思います。大学によっていろいろなパターンがありますが、地域連携に熱心な先生や職員がいる大学はうまくいっていますね。ただ、地域連携のやり方は、早稲田のように学生数が多くグローバル展開をしている大学と、地方の学生が数千人の大学では、違ってくると思います。

奥山 地方の大学にしても首都圏の大学にしても、自分の大学があるローカルを大切にするという視点と、グローバルに展開するという視点がありますね。私が佐賀県との協定を担当して感じたのは、自分たちが思っている印象と外からの印象は違うということです。佐賀県は大隈重信の出身地ですから、早稲田のブランドは通っているだろうと信じていたのですが、実際、佐賀では大隈重信より江藤新平のほうに人気があり、早稲田大学は都会の大学というイメージくらいしかないそうです。そこで、連携講座を開催したり、地元新聞への露出度を増やしたりして、大学の魅力を伝えているところです(※下段3)。

プロジェクトの第一歩は地域を愛すること

友成 ここで、大学と地域の関係を整理しておきたいと思います。大学の視点から見ると、文部科学省は大学の使命を教育、研究に次いで、社会貢献であると言っています。しかし、今まで大学内でやってきた教育・研究と社会貢献のつながりがはっきりしていません。逆に地域の視点から見ると、地域を元気にするために大学の「知」を利用したいと思っていますが、何をもって地域が元気だと言えるのかが不明確なのです。体よく落とし込まれる答えは、その地域の企業が元気になるということですが、私は少し違和感を持っています。仮に企業を元気にするのであれば、大学に頼るのではなく、お金を払ってコンサルタントに頼めばいいことです。さらにそこに行政が介在している意味は何でしょうか。地域を元気にするという論理が突き抜けていないので、すっきりしません。

吉田 私もそう思います。企業の経営能力を高めるには、大学が商学部やビジネススクールで経営者をしっかり育成すればいいことです。ただ、中小企業の経営者の中には、簿記が分からない人もいます。経済が好調な時には親から引き継いだ事業や不動産があるのでうまくいくかもしれませんが、こういう時代になるとたちまち破綻します。経営者教育は重要だと思いますね。そういえば、吉田松陰の松下村塾はたった1年で、国を動かす人材を育成したんですよね。地域経済に30年間関わってきましたが、一番の問題点は中小企業経営を教えてくれる人がいないということでした。

 では、地域を元気にするとはどういうことかと考えると、地域が持っているアイデンティティを大学の知が補完して強くしていくということではないでしょうか。例えば鹿児島は焼酎が有名ですが、鹿児島大学は日本の大学でで唯一焼酎の研究所を持っています。活用しない手はないですよね。大学のシーズを使って地域のコアになる部分を育てていくという連携の形があると思います。

友成 地域が、自分たちのアイデンティティを分かっていないということが、最大の問題点ですね。意外と地元の人は自分たちの地域の価値を分かっていません。それを表出させて、共有して、価値を認めてあげることが必要です。これは地域経営論の本質的部分ですが、実はよそ者が関わらないとできないことだと思います。しかもそれができるのは、物事を本質的に突き止め、他の地域の例を知っている人です。しかしコンサルタントは、アイデンティティというどちらかというと精神的な世界にグッと入り込んでいくことはできません。だからこそ、タコつぼ型の社会構造から離れたアカデミアである、大学が関わっていく意味があるのではないでしょうか。

吉田 外部の人間だからこそ価値が分かるというのは同感です。不思議なことに地域連携が成功している地方の国立大学のキーマンは、みんな外部の人なんですよ。でもその地域をものすごく愛しています。私も大阪出身ですが大学は早稲田で横浜市役所に就職し、横浜のために一生懸命頑張っていますよ。

友成 墨田区に地域経営ゼミの学生を投入していますが、まず彼らに言うことは「墨田区を好きになってください」ということです。人と地域の関係は、その地域をいかに愛してエネルギーを投入できるかがすべてです。それが地域連携プロジェクトの第一歩だと思います。ですから、大学が地域連携をするのに、キャンパスのある地元にこだわる必要はないんですよ。

学生が地域連携で学ぶ現実の課題を受け止める感性

奥山 先日、信州の木島平村に学生20人を連れて1週間行ってきました。フィールドワークを行って、過疎地を元気にするための提案をするというプロジェクトです。一人ひとりが家を訪ねて直接話を聞いて、最終日に村役場で発表しました。学生なので実現可能なソリューションを提案することは難しいのですが、学生たちがやって来てその村のことを一生懸命考えてくれたことで、村が元気になったそうです。学生たちも目の色が変わって大きく成長しました(※下段4)。

友成 先ほど、吉田さんが松下村塾のことを言われましたが、そこでは単に知識を詰め込むだけでなく、人間性を育てる教育が行われたんだろうと思います。地域が求めているのは、地域を経営できる人材を育てることですが、恐らく一番良い方法は、木島平のプロジェクトのように学生を地域に放り込んでしまうことですね。現実を目の当たりにすると、心に地殻変動が起き、地域をどうすればいいかを真剣に考えるようになります。地域側からすると学生がやってきて迷惑かもしれませんが、学生が前向きに地域のことを考えてくれることで、自分たちの心にも火がついて元気になるというプロセスがあると思います。まさに木島平の例は、大学で地域を経営する人材を育て、地域側もそのプロセスの中で元気になっていくというWin-Win関係が成立する可能性 を示したと言えます。

奥山 昨年、アメリカの州立大学などを訪問しましたが、そこでも大学と地域社会の交流が盛んに行われていました。地域の企業やNPO、コミュニティの運営に学生が参加し、現実的な課題に取り組む教育スタイル(Authentic project program)を行っていました。そこでは、各々の学生が持っている個別の知識やスキルを統合して「実践知」といった能力を引き出すことが目的になっています。日産自動車やANA総研、信州木島平村のプロフェッショナルズ・ワークショップでもわかるように、企業や社会のフィールドにある現実の課題に向き合った時、学生は飛躍的に成長するんです。現実の課題を受け止める感性を育てることが、大学の教育に求められていると思います。

大学が人と人の交流を生む推進役に

奥山 ところで、地域連携において早稲田大学の強みは何だと思われますか。

吉田 IDECが早稲田大学と連携したメリットは、一つは、総合大学としての知識と経験で、客観的なアドバイスをくれるということ。もう一つは、早稲田が持つ広域ネットワークです。横浜の経営者が墨田区の経営者と交流し、現場を見ることができるのは、早稲田だからこそできたことです。早稲田がこれまで培ってきたものを他の地域にどんどん広げていってほしいですね。

友成 早稲田には多様な文化と多様な資源があるので、いろいろな地域のアイデンティティを掘り起こすことができると思っています。

 さらに、早稲田には社会連携推進室があって、大学の資源を地域に合わせて柔軟にコーディネートできる体制が整っています。先生と直接関係を結ぶと、その先生の専門分野に限定されてしまって、狭い範囲でしか連携することができません。これは他の大学にはない強みですね。

奥山 最後に、大学と地域の連携について、それぞれの立場から目指す将来像をお聞かせください。

友成 大学の立場から言うと、そもそも模範国民を造就することが教育の本旨ですから、教育の力をつけるために、地域や社会を活用していくことが必要です。その結果として、両者がハッピーになるようなプロジェクトがどんどん生まれ、早稲田大学の社会的な存在意義が高まっていくといいですね。

吉田 その通りですね。日本の閉塞感を打開するための課題は人づくりしかないと思っています。そう考えると大学への期待は大きいですね。今、その潜在能力を最も持っているのは早稲田大学だと思います。

 私は校歌3番の「集まり散じて 人は変われど 仰ぐは同じき 理想の光」という歌詞が好きです。要は、人が来ないところは衰退するが、必ずしもそこに止まる必要はないということです。人が動けば、情報も知も行き来します。地域を元気にするためには人がコミュニケーションを図ることが不可欠で、大学がその推進役になっていくことを期待しています。

友成 「仰ぐは同じき 理想の光」の部分も大事ですね。大学がなぜ存在しているのか、なぜ地域と関わるのかという根本理念を共有していれば、集まり散じていいわけです。

 人間は、自分とは違う存在を愛し、エネルギーを注ぐことで成長します。大学も地域を愛し、エネルギーを注ぐことで成長し、その結果、その地域も元気になってWin-Winの関係になる。これが、大学と地域の連携の基本的な考え方になっていくのだろうと思います。

1.横浜プロジェクト

ヨコハマ次世代経営塾で。さまざまな業種の経営者が集まりました

 横浜市内地域企業の人材養成と早稲田大学学生のキャリア形成の両面にわたる連携を、地域資源の活用を図りつつ実施することを目的として、2008年7月に横浜企業経営支援財団(IDEC)と「横浜市の中小企業の支援等に関する基本協定」を締結しました。

 現在、横浜経済の持続的発展・成長に向けて、主に地域経済活性化の源泉である市内中小企業の人材育成に関わるシステムづくり「ヨコハマ次世代経営塾」、アジアを中心とした海外の機関・団体、大学等と連携した企業経営支援、大学教授による財団事業への協力やアドバイス等の取り組みを行っています。

2.墨田区プロジェクト

地域経営ゼミの学生がプロジェクト運営にあたりました

 墨田区を大学の擬似キャンパスとして位置付け、実学の場として墨田区の資源を活用していくといった理念のもと、2002年12月に「包括的事業連携協定」を締結。連携事業として、墨田区内の中小企業を中心に創設された「すみだ産学官連携クラブ」の新製品・ 新技術開発プロジェクトが開始されました。また、早稲田大学の研究室等と連携し、「すみだ」をテーマにした文化やそこに生活する人々のコミュニティについての講演や勉強会を実施する「多文化共生セミナー」、早稲田大学のゼミ学生が中心となり、地域の企業や人々と直接触れる中で、さまざまな地域の問題について意見を交換し、解決のためのプロジェクトを企画・実行する「地域経営ゼミ」、その他次世代の「ひとづくり」のための「起業家教育(アントレプレナーシップ)」や「Do School in 神泉」といった区内小中学生を対象にした早稲田大学発ベンチャー企業との連携事業も行われてきました。

3.佐賀プロジェクト

佐賀新聞文化センターでの遠隔配信による講義風景

 2006年12月に、大学創立125周年記念の事業推進、また、双方の連携強化のため「連携強化のための協働連携に関する基本協定」を大隈重信の故郷・佐賀県との間で締結。県庁政策監グループと社会連携推進室がカウンターパートとなり、両者の組織力を生かした広範囲な取り組みを実施。佐賀県職員が大学に長期間出向し、社会連携推進室において、実際の現場で各連携事業のコーディネートを行っています。九州「学びのメッカ」づくり事業では、佐賀新聞文化センターと連携し、本学教授等による出張講座や早稲田キャンパスからの遠隔配信講座を行っています。この他にも、佐賀市や唐津市、佐賀大学との連携も進めており、佐賀県と本学との交流は、さらに幅広いものとなっています。

4.木島平・早稲田プロフェッショナルズ・ワークショップ

木島平村でのフィールドワークで。地元住民の話を熱心に聞く学生たち

 企業や自治体が直面する課題に、早稲田の学生チームが課題解決の提案を行うプロジェクト、「プロフェッショナルズ・ワークショップ」。2009年、長野県の北部に位置する木島平村の住民とともに、地域を活性化させるにはどうすればいいか、を考え、学生チームが木島平村に提案する同ワークショップがスタート。8月2日~7日に実施した木島平村でのフィールドワークでは、村役場の職員の方々にも指導を受け、下高井農林高等学校生徒とも連携。10月、木島平村役場にて地域活性化につながる提案の後、木島平村にて開かれた農山村交流全国フォーラムで、最終発表が行われました。