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キャンパスナウ

▼新年号

SPECIAL REPORT

人とのつながりが生む大学の社会連携
~新たな価値を創造する~

Part.2

プロジェクトの実績に見る可能性

 早稲田の社会連携は実際にどのように行われているのでしょうか。「Win-Win の関係」とはどんなものか。それぞれの現場から探ります。

Pickup 1 企業・学生・職員・教員が四位一体となって課題に取り組む
日産・早稲田プロフェッショナルズ・ワークショップ

日産自動車株式会社(以下、日産)と早稲田大学は、2006年2月に締結した組織的連携に関する覚書に基づき、自動車関連技術に関する共同研究を進め、人材交流、社会貢献の分野でも協力をしてきました。その事業のひとつ「日産・早稲田プロフェッショナルズ・ワークショップ」の実績と、大学と企業、それぞれの立場からの声をお伝えします。

役員報告会では、プレゼンテーション能力のアップも目覚ましい、という評価も得ました。写真は07年度のもの

 プロフェッショナルズ・ワークショップとは、2007年より実施されている企業と大学が共通の目的を持って学びの場を創出する、実践型産学連携教育のプロジェクトです。現在、7社と連携、同ワークショップを行っており、企業側は大学の知的財産や学生の生の声をマーケティングに生かして、問題解決に活用し、大学は仕事観、コミュニケーションスキルの向上など、学内だけでは得られない教育の場とするWin-Winの関係を構築しています。

 同ワークショップとして初めての実施の一つで、今年で3年目となるのが「日産・早稲田プロフェッショナルズ・ワークショップ」。2007年は、日産の人事部と公募によるグループが、「理工系女子学生へのリクルートメッセージの開発」、また商学部・恩藏直人教授のゼミ2グループが、日産市場情報室と「若者のクルマ離れ分析と打開策」「日産が目指すべき営業方法とは」という課題に取り組みました。

 2008年1月には日産社長兼CEOのカルロス・ゴーン氏と本学白井総長の前でプレゼンテーションを実施し、高い評価を得ました。日産内でも情報が共有され、2009年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカーに、学生と日産社員の論議で出てきたアイデアが一部活かされるなどの実績を上げています。

2008年1月には日産社長兼CEOのカルロス・ゴーン氏、本学白井総長などを前にプレゼンテーションを行いました

 2年目以降も、前述の恩藏ゼミ生が同ワークショップに参加。3回目となる2009年に日産から出された課題は「次世代のクルマ文化/モビリティ」です。6月22日に行われたキックオフミーティングでのファーストプレゼンテーションを皮切りに、7月の日産の施設見学、8月の中間報告会、9月の最終報告会、10月の役員報告会に至るまで、10数回にわたり、日産との討議、学生へのフィードバックなどを経て、発表内容の質を高めてきました。

 「日産・早稲田プロフェッショナルズ・ワークショップ」をはじめとした同プロジェクトは本学のNext125事業としても位置づけられ、若手職員が進捗管理などの業務に深く関わっています。

 同プロジェクト運営スタッフで「日産・早稲田プロフェッショナルズ・ワークショップ」の担当、國分勝さん(戸山総合事務センター所属)は、次のように話します。

 「日産とのワークショップでは、2年目、3年目と多くの学生が参加してきましたが、当然のことながら学生の個性は、毎年一人ひとりまったく違います。そのような状況でも学生の成果物の仕上がりが思わしくない時には、一人ひとりの学生と向き合い、その原因を探り、企業側の進捗に問題が生じた場合は、企業側の話を聞き調整を図るなど、大学(学生)と企業双方にもっとも利益が生み出される着地点を常に見出していきます」

2009年役員報告会。日産役員、担当者、恩藏教授とゼミ生

 また、同スタッフの一人、本学教務部教務課所属の大野佳祐さんは、「大学が一体となり箇所横断的にプロジェクトを運営していきます。これは今までになかった取り組みです。いつも“学生”という大きな森だけを見ていた職員が、葉の一枚、一枚を見るように一人ひとりの学生と関わっていく、という点にやりがいを感じますね」と話します。

 本学では今後、さらに多くの学生に教育の機会を創出するため、1つの企業に2、3のゼミが提案をするなどの試みを2010年度から試験的に実施し、同プロジェクトの一層の活性化を図っていく計画です。

早稲田をハブに、企業合同で論議する場を

日産自動車株式会社IPプロモーション部
曽根公毅部長(1975年早稲田大学理工学部卒)

 「日産・早稲田プロフェッショナルズ・ワークショップ」は、日産が社会貢献の3本の柱としている「環境」「人道」「教育」のうち教育面での事業の一環です。

 日産が実際に直面している問題について、学生の目線、ニュートラルな立場、さらにマーケティングのプロである恩藏先生の指導も経た提案は、日産にとって非常に有益なものです。とくに、車を開発している現役の社会人が考えている車像と、若者の車像のギャップについて分かったことは成果の一つです。たとえば今年の発表にあった、“クルマに関するときめき”について。安全運転やエコに気を使った運転などにときめく、人とのつながりに重点を置く、といった意見に、我々の世代が「SKYLINEに乗ってかっこいい」と感じていた感覚は通用しないのだ、と身につまされるものが多くありました。

 2009年は日産の「社会フロンティア研究所」が5ヶ月に渡って、熱心にやりとりを重ね、討議を行い、プレゼンテーションでの話し方なども徹底的に指導しました。6月のファーストプレゼンテーションと10月の役員報告会の内容を比べると、質のレベルアップは歴然です。

中間報告会では、日産担当者と熱心な討議が行われました

 早稲田の校歌の中に「現世を忘れぬ 久遠の理想」という詩があります。その意味どおり、学生の皆さんには、足下を見て、自分を見つめながら、自分の目指す将来像にどうしたら近づけるかを早稲田にいる間に考えて欲しいと思っています。そのような点からも、このワークショップは意義があるのではないでしょうか。

 早稲田ではさまざまなプロフェッショナルズ・ワークショップが行われていますので、今後、早稲田をハブにし、それらの企業合同で、より意義深いプロジェクトの実現に向けて論議する場を設けてはどうか、と考えています。

大学内では得られない経験が財産。他の学生たちにももっと刺激を与えたい

恩藏直人教授/商学学術院

 「プロフェッショナルズ・ワークショップ」は、学内では得られない、ビジネスとの接点という新しい教育の場を提供するというのが大きなねらいのひとつです。「日産・早稲田プロフェッショナルズ・ワークショップ」は、2007年から私のゼミの3年生が参加してきました。

 学生たちは同ワークショップを通じ、目覚ましく成長します。何度もトレーニングを重ね、人前で堂々と、かつ論理的に話せるようになる。さらに、幅広い年齢層の社会人とのやりとりを通じ、新しい世界を知ることができます。

 また、企業から課題を与えられ、自分たちで資料探索し、文献に当たるなど、期限が定められた中で知的作業を共同で進め、意見のすりあわせを行います。その中でグループ内での自分の役割も見つけ、時にはけんかなども経験しながら、最終発表まで内容を固めていきます。同ワークショップの初年度は、私もしばしばコミットし汗を流しましたが、2年目以降は、先輩たちが得た知識を後輩に伝えていってくれました。これら一連の流れが得難い経験となり、社会人として好スタートを切るための土台となる、と考えています。

 大学として、学生のこのような活動について、もっと情報を発信し、他の学生にも刺激を与えていくことが課題だと思っています。

学生の声グループワークの大切さを知る

商学部3年 恩藏ゼミ 落合由起子さん

 このワークショップに参加したのは、他の学生ではできない経験を積むことができ自分の成長に必ずつながると思ったからです。

 実際、自分たちの考えを形にしていくことはとても大変なことでした。班内で意見がまとまらず、先に進めないことも何度かありました。その度、お互いが納得するまでとことん話し合い、周りからもアドバイスをいただき、一歩一歩進んでいきました。話し合いではメンバーの考えを深く知ることができ、非常に刺激を受けました。最後に企業トップの方の前で成果発表するというとても貴重な経験をさせていただきました。

 この活動を通じ、一つのものを作りあげる大変さ、グループワークの大切さを学ぶことができました。意見を合わせ一つのものを作っていく作業は簡単なようでとても難しいことです。このことが実際に達成でき、私にとってとても自信になりました。

 今回の経験で得たことを忘れず、これからの生活に活かしたいと思います。

Pickup 2 “知の連動”を外に広げ、学内の活性化に
西東京市プロジェクト「 理科・算数だいすき実験教室」

西東京市との連携で、教育・文化・スポーツなどの分野において、地域社会の発展と人材育成に貢献することを目的としたプロジェクト。その一環として行われ、地域の父母や小学生から好評を得ている「理科・算数だいすき実験教室」の模様をお伝えします。

ペットボトルで水ロケットを作って校庭で発射。想像以上に高く遠くへ飛びました

 2007年、社会連携推進室の発足とともに、早稲田大学と西東京市および市教育委員会の連携事業としてスタートした「理科・算数だいすき実験教室」。早稲田大学高等学院(以下高等学院)の協力のもと、楽しい実験や授業を通して、子どもたちの理科・算数への興味を引き出すことを目的に行われています。また、高等学院は、2006年度よりスーパーサイエンスハイスクールに指定されており、そうした国の支援を地域に還元することも目的としています。

 「理科・算数だいすき実験教室」は、西東京市在住の小学生を対象に実施され、小学校ではなかなか実現できない実験体験や高等学校教諭の幅広い知識に基づいた授業を受けられることが、他にはない実験教室として人気を集めています。一方、高等学院にとっては、西東京市との連携により小学生と接することで“知の気づき”があり、また、“知の連動”を外に広げることにもつながっています。

 実験教室に参加した保護者からは「学校で体験できないことをさせてもらえるのはありがたい。今後、このような機会があれば、ぜひ参加させたい」「先生の話が面白く、子どもだけでなく私も楽しんだ」といった感想が寄せられています。

 8月1日、授業参観に訪れた西東京市の坂口光治市長は、「いつもと違う環境で素晴らしい指導者のもと、保護者と一緒に実験をすることは、子どもたちに良いインパクトを与える。今後も垣根を低くして、社会連携を進めていければ良いと思う」と述べました。

 実験教室は、年々内容を拡充しています。高等学院の橘孝博教諭と柳谷晃教諭は「私たちは伝道師。一人でも多くの子どもたちが理科や算数が面白いということに気づいてもらえるように、種を蒔いていきたい」と今後へ大きな期待を抱いています。

先生が液体窒素で瞬間冷凍したゴムボールを床に落とすと粉々に! その後も子どもたちが家から持ち寄ったいろいろなものを瞬間冷凍して観察しました

顕微鏡でプランクトンを観察。学生が子どもたちの実験をサポートしました

授業参観を楽しむ坂口光治西東京市長(後列中央)

実験教室のやりがいを語る柳谷教諭(左)と橘教諭

Pickup 3 “大学が地域と地域を結ぶ新たな連携の形
中野区プロジェクト「経営・学び座なかの 経営パワーアップ塾」

中野区内で稼動予定の「国際コミュニティプラザ(仮称)」の設置に先立ち、行政および地域社会と連携した異文化共生型全人教育と地域貢献を目指し進めている中野区プロジェクト。同プロジェクトの一つ「経営・学び座なかの」において、本学とかねてから連携事業を行っている墨田区とのネットワークが作られています。

江戸小紋を製造する大松染工場を見学。受講者の皆さんは伝統工芸の技に感心していました

 2008年より中野区と早稲田大学の連携により、「経営パワーアップ塾」を開講しています。これは、中野区が中野区の事業所経営者または経営幹部の方を対象に、2006年から実施している経営に関する講座「経営・学び座なかの」の一環で、全5回の講座を通して人材育成を行っています。講座が目指しているのは、経営者同士のコミュニティが生まれ、産学官の連携によって人材育成と輩出の仕組みを構築すること。2年目の今年も目標達成に向かって、「経営資源である人材を育てる魅力的な経営者を育成する」「区内中小企業の活性化を図ると共に、経営者同士が高め合い、気軽に相談し合えるようなネットワークをつくる」ことに重点を置き、全5回の講座が設けられました。昨年に引き続き理工学術院の友成真一教授や墨田区の深中メッキ工業株式会社の深田稔社長らを講師に招き、知識を学ぶだけでなく、経営者同士のネットワークが醸成されています。

 10月21日に行われた第3回講座のテーマは「墨田区の経営者との交流を通じて経営を考える」。友成教授による講義の後、徒歩で墨田区の中小企業を3軒訪問しました。工場の見学と経営者との意見交換を通じて経営者が元気で頑張っている理由や自分に足りないことを考え、その後の懇親会では徹底的に議論を交わしました。

 深田氏は「受講者が回を追うごとに積極的になり、仲間意識も芽生えてきました。人材育成のために、数年前から墨田区で実践してきたノウハウを中野区に取り入れることは合理的で、大学というハブがなければ実現できなかった。早稲田大学が軸となることで継続性も期待できる」と連携事業の手応えと今後の期待を語っています。

 大学が、地域と地域を結び、地域を活性化するという新たな役割を担い始めました。

「経営者を経営する」と題して、講義をする友成教授

プラスチック加工業の有限会社サンテックの工場で、社長に質問大会

墨田区の案内役を担った深中メッキ工業株式会社の深田稔社長

有限会社大里化工の工場で、プラスチック移出成形の仕組みを聞きました