早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > キャンパスナウ > 新年号 SPECIAL REPORT

キャンパスナウ

▼新年号

SPECIAL REPORT

人とのつながりが生む大学の社会連携
~新たな価値を創造する~

Part.1

早稲田の知と社会をWin-Winの関係でつなぐ

 大学の社会連携の現状と課題について、社会連携担当の谷口邦生理事に聞きました。

大学のあり方を見直した時
社会連携の新しい形が見えた

谷口 邦生(たにぐち・くにお)/早稲田大学理事 略歴はこちらから

――大学が社会連携に取り組む目的と意義は何ですか。

 大学の基本的な役割のひとつは、学生を教育して社会に送り出すことです。日本では、1992年をピークに18歳人口が減少に転じる一方で、大学に対する社会からの要請や期待が変化してきました。ビジネスをはじめとする様々な分野の国際化が加速され、日本の国際競争力の基盤となる教育、研究の高度化が求められるようになりました。大学教育のあり方を根本から問い直す、こうした変化が、大学間の連携や協力を必要とするようになったと思います。

 世界に目を転じてみると、米国では80年代から大学間のコンソーシアムが結成され、お互いの施設の利用から大学間の連携が始まりました。日本では、90年代後半からカリキュラムの充実を目的に大学連携がスタートします。早稲田大学でも2001年度から近隣の4大学と「f-Campus」という単位互換制度を設けています。

 また、学生の教育プログラムにおいても、1990年代後半からインターンシップが盛んになり、ボランティア活動も単位化されるようになりました。従来、大学はアカデミックな教育と研究によって評価されてきましたが、現在ではこれに加えて、社会での体験を通じて、自分の力で考え、行動し、問題を解決することの出来る人材を育成することが求められています。大学の社会貢献力のひとつが、現実の社会を構成する企業や地域に学びながらその成果を社会にお返しすることです。このような視点から、大学の教育力が、「社会とともに存在する」新しい仕組みを構築することが必要なのです。

 早稲田大学では、1996年に社会連携推進室の前身となる学外連携推進室が発足しました。当時、私はこのセクションの課長でしたが、文部省以外の通産省、郵政省等からの補助金獲得や理工系教員に比べて研究費を獲得しにくい文系教員をサポートすることが主な活動でした。現在、社会連携推進室は、大学内のさまざまな箇所が取り組む社会との連携活動を集約し、外部からの窓口として企業や行政と教員をつなぐ触媒としても機能しています。

 大学総体として、社会に開く大きな窓口を設置することで、個々の教員や箇所レベルでの試みが早稲田大学として展開する「社会連携」の取り組みになります。本学の各箇所で行われる点の活動が、線や面として展開できる可能性が広がるのです。

早稲田らしい進取の精神で社会とともにある大学へ

――早稲田大学の社会連携の特徴は何ですか。

 早稲田大学では、社会連携の目的を「大学が持つ“知”という資産を社会(国や自治体などの行政、企業、地域、他の教育機関、海外)とつなぎ、Win-Winの関係で新たな価値を生み出すこと」と定義しています。学生の教育や研究に役立つというメリットがあれば、あらゆる連携が可能です。

 本学は、昔から門がない大学と言われており、社会に開かれた大学でした。明治時代には、講義録を作り、全国の学びたいすべての人々に早稲田大学の教育を提供していました。一方、以前は地方から多くの学生が集まる全国型の大学でしたが、現在では、学生の7割弱が首都圏から集まっていることもあり、地方においては存在感が低下しています。人々に支持され、期待される大学を目指すためにも、社会とともにある大学であることを目に見える形で広く示さなければなりません。

 早稲田大学の社会連携の特徴は、全国に連携先があり、多様性に富んでいることです(図参照)。グローバル企業である日産自動車との連携プロジェクトもあれば、地方の小さな村との取り組みもありますし、墨田区と中野区の中小企業経営者をつなぐプロジェクトも進行中です。もともと早稲田大学には新しいことに積極的に挑戦しようという進取の精神の伝統があり、幅広い取り組みを後押ししています。

大学の社会連携を当たり前のことに

――早稲田大学が社会連携をさらに進めていく上での課題は何ですか。

 ひとつは、連携先との人的交流などを通して、活動の土台を拡充することが必要だと考えています。ポイントは、職員の、現場を知り、現場を動かすコーディネート力です。多忙な教員が社会連携の取り組みに参加していくためには、企画や調整役を担うコーディネータを育てることが不可欠です。

 現在、プロフェッショナルズ・ワークショップ等のプロジェクトでは、公募で集まった若手職員がチームを組んで教員と連携し、学生をサポートしています。コーディネート力養成のための基本的な研修も行いますが、実践を通して職員の能力も鍛えられていきます。職員にとっては学生との接点もあり、やりがいが感じられる新しい仕事だと思います。社会で存在感を持つ大学になるためには、職員一人ひとりがこれまで以上に力を発揮していかなければなりません。

 もうひとつは、より多くの学生や教職員が社会との関わりを持つ機会を増やし、次のプロジェクトが生まれるようなきっかけを作っていくことです。たくさんのプロジェクトが生まれ、組織内で相互にノウハウを共有し、教育、研究活動に社会連携を組み入れていく循環を作っていかなければなりません。世の中で早稲田大学のこうした活動がプレゼンスを高めていくためには多くの時間がかかるでしょう。だからこそ続けていくことが大切です。

 さらに、社会が人との関わりで成り立っていることを考えると、テクノロジーばかりでなく、早稲田大学の持っている人文科学や社会科学系のリソースを社会に役立てる方法はたくさんあると思います。それが出来れば、ただ拡大成長するという従来の発展のあり方とは違う、親密で柔らかな発展に貢献できるかもしれません。

――早稲田大学が目指す社会連携の形とはどのようなものですか。

 かつて象牙の塔と言われた大学のオープン化が進み、社会連携の取り組みがもっと当たり前のことになることだと思います。資金がなくても、知恵とやる気次第でできることはたくさんあります。大学と社会との関わり方は、今後ますます変化し、拡大していくのではないでしょうか。

谷口 邦生(たにぐち・くにお)/早稲田大学理事

早稲田大学第一文学部卒業と同時に、職員として入職。94年ボストン大学教育学研究科修士課程修了。国際部・教務部・文化推進部の各事務部長、社会連携推進室長を務め、09年12月より総長室長。08年から理事(現在に至る)。